豆腐小僧

昨日は台風がきた。
家が揺れるほどの風がふいて、近くの川は氾濫しかけた。

恐ろしい台風が過ぎ去ると、深呼吸をしたくなるような青い空が広がって、今晩は丸くなりかけた黄金の月が出ている。


お酒を買いにスーパーへ向かった帰り道、静かになった川にかかる橋を渡る。
ぼんやり月を眺めながら渡っていると、橋の手すりにポツンと豆腐があった。

パッキングされた絹ごし豆腐、一丁。
消費期限、19.10.21。

なぜ、豆腐?
触ってみても冷たくはない。ここに置かれてからは少し時間が経っているようだ。自転車のカゴから落ちてしまったのだろう。

どうしよう、持って帰るか。
いや、家にはまだ豆腐がある。でも、一丁丸々あれば麻婆豆腐もできる。

橋の上で、豆腐を前に、悩む。
手をかけて、四隅が少しでも開いてしまっていないかをチェックして、それでも持って帰ることはしなかった。

豆腐よ、どうか美味しく食べてもらってくれ。


帰ってからも、やはり豆腐のことが気になる。
そういえば、いつかに「豆腐小僧」という名前を聞いたような気がする。

豆腐小僧は、雨の日に現れる妖怪だ。
そんなに悪い妖怪じゃない。ちょっと後をつけられるくらい。
ただ、豆腐小僧の豆腐を食べると身体中にカビが生えてしまうらしい。

あれは、豆腐小僧の置いた豆腐だったのだろうか。
数十年に一度の大雨の夜、豆腐小僧は何をしていたのだろう。

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