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カット、コピー、ペースト、アンドゥをX,C,V,Zに割り当てたのは誰なのか

結論から言うとこれはLarry Teslerだそうなのですが、C=Copyはわかるにしろ、XとVがなぜCutとPasteに結びつくのか疑問に感じていました。Zもよくわかりません。これについて、都市伝説的に語られている言説にはこのようなものがあります。

CはCopyの頭文字。QWERTY配列ではCの隣にVがあるので、利便性からそれが選ばれた。XもCに隣接していることと、それがハサミの形状に似ているためCutコマンドに割り当てられた。Zは切り替えるスイッチを意味する。

出典:どこかで聞いた気がする都市伝説

これは間違いですが、それらしくも聞こえます。

カーネギーメロン大学のBrad Myers教授によると、XCVZの4種類のコマンドとキーアサインは、Larry Tesler本人によるものだそうです。彼はTeslerのメールメッセージを引用する形で次のように紹介しています。

Larry Teslerからのメール

NYTの記事は間違いです(ゼロックスの出版物の引用もありません)。
LisaはCut, Copy, Paste, UndoにそれぞれXCVZをアサインした最初のシステムでした。(Appleキーと同時に使用します)
これらは私が自分で選びました。Xは削除の標準的なシンボルだったためです。CはCopyの頭文字、Vは上下逆さまのキャレットで、少なくとも以前のエディタではそれが挿入を意味するシンボルでした。

Zは米国のQWERTY配列でXCVの隣にあったからです。また、“Z”の形がDo-Undo-Redoの三要素を象徴しているようにも見えました。

 上辺右方向の線 …一歩前進
 真ん中左下りの線 …一歩後退
 下辺右方向の線 …再び一歩前進

つまり、XCVの意味には目新しさはありませんでしたが、しかしLisa以前にZ=Undoとする例は私は知りません。

(一部抜粋し日本語に意訳)

https://www.cs.cmu.edu/~bam/uicourse/2014inter/

びっくりして叫びそうになったのですが、Xは日本でいう「バツ」のような意味合いだったと読み取れるので、Apple Lisaの時代にはすでに米国でも削除をバツで表す習慣があったことが伺えます。VはGypsy以前のテキストエディタ(おそらくBravo)の挿入記号に似ているから、ペーストも本質的には挿入なのでそれを使おう(しかもCの隣で都合が良い)、と発想したことも興味深いです。Zは冒頭の都市伝説で挙げたスイッチ説とわりかし近かったですね。

XCVZのテキスト編集四人衆は同じ文脈でLarry Teslerが決めたシンボルだったんだ……。

Lisa OS/出典:http://toastytech.com/guis/lisaos3.html

“Origins of the Apple Human Interface”
LisaやMacのインターフェイス設計を語るLarry Teslerの講演動画資料。(sumimさん共有ありがとうございます☺️)


ちなみに件のメールではZ=Undoについてはこうも書かれています。

Zは直近のコマンドだけを取り消し、もう一度実行するとやり直しになります。BravoやMicrosoft OfficeではYに直近のコマンドのRedo(やり直す)が割り当てられました。
Undoがマルチレベルのものになると、MacとMicrosoft(Office Mac含む)は異なるものになりました。

(一部抜粋し日本語に意訳)

https://www.cs.cmu.edu/~bam/uicourse/2014inter/

BravoとはXerox Altoに搭載された最初のWYSIWYGテキストエディタです。開発に関わったCharles Simonyiという人が後にMicrosoftに移籍し、Microsoft WordやExcelを開発しました。ちなみにハンガリアン記法の由来になったその人だそうです。Larry Teslerが関わったGypsyテキストエディタはBravoの後継です。

そういえばAdobe系の一部のアプリケーションでRedoコマンドにY (Mac: ⌘Y / Win: ^Y) が割り当てられているのは、この辺りの歴史が関係しているのでしょうか。

また、件のメールには「『^ZはXerox PARCのプログラマーがアサインした』というNY Timesの記事(Wikipediaにも引用されている)は間違いである」との指摘もあります。

The Age of Undoing


The undo command would become a crucial feature of text editors and word processors in the PC era, assigned the now-familiar keyboard shortcut of Control-Z by programmers at the research center Xerox PARC.

(Larry Teslerのメールによるとこれは誤り)

https://web.archive.org/web/20111130155601/https://www.nytimes.com/2009/09/20/magazine/20FOB-onlanguage-t.html

それからVのシンボルがキャレットの逆向きという逸話について、実際にBravoのデモを見ると、確かに挿入モードのキャレット「^」を確認できます。逆さまにするとVにも見えますね。

Bravoの挿入モード/出典:https://www.youtube.com/watch?v=q_Na1SJXSBg

デモの登壇に立っている左の人物がCharles Simonyiです。

こういうその時々の発想がその後数十年にわたって広く使われるデザインのイディオムとして定着する(そして流派も派生していく)のは、本当に面白いことですね。

最後にDouglas EngelbartのMother of All Demosも貼っておきましょう。


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