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3年遅れの銀婚式

結婚記念日を目標に別れようと決意した私。


父からの遺産相続もほぼ終わった。

新しい仕事にも就いた。

3人の子供たちも成人している。

条件は揃っていた。


なのに、今年の結婚記念日当日。私は父のお葬式以来2年2ヶ月ぶりに、想定外にも、家族全員でイタリアンレストランで食事をしていた。

事の始まりは2週間前の土曜日だ。その日は朝から30度を超える夏日となり、私は伸びてきた髪の毛に我慢ならなくなり、近所のおばさん美容室に飛び込み、髪をベリーショートに切ってもらっていた。

ちょうどカットが終わり、鏡に映っている、あまりにも短くなった髪型を薄目で見ながら、「バレーボール部だった中高時代のようやん」とテンションが下がっていたとき、珍しくFaceTimeで電話がかかってきた。

画面を覗いてみたら、夫からだった。思わず、画面を伏せた。おばさんにも「何でもありません」とぎこちない笑顔を向けた。しかし、心はザワザワ。店を出てすぐに返信してみたものの、繋がらない。

「一体、今度は何の用事だろう。また、請求書の束を持って来る気かな」

さらにテンションが下がりそうになってきたので、電話があったことはしばらく心から放置することに決め、スーパーで大好物の西瓜と握り寿司を買って帰り、アパートの部屋で遅めのお昼を食べた。

それから、お気に入りのとろとろの乳白色の入浴剤をいれ、ゆっくりお風呂に浸かった。

ようやく髪型も心も落ち着いてきた頃、ピンポーンと部屋のインターフォンが鳴った。

もちろん、インターフォンのカメラ越しに立ってたのは、夫だった。しかし、いつもと違うところが一点。
だらしないスウェットやヨレヨレのシャツ姿では無く、スーツを着ているのだ。

頭のなかが「???」となった私は無防備にドアを開けてしまった。すると、さも当然といった態度で部屋に入ってきた夫は、これまた珍しく、ニヤニヤしている。しかめっつらが常なのに。

そして、手には黄金色の紙袋。焦ったように、その袋を私に渡し、開けてみてと言う。恐る恐る覗いてみると、そこには、色違いのリボンがかかった二つの四角いパッケージが入っていた。

え、プレゼント⁉︎

結婚して四半世紀が経ち、初めてもらう、ブランドのペアリングだった。夫は3年前に出来なかった銀婚式をやりたいと、指輪を持ってやって来たのだった。
結婚記念日当日には、美味しいレストランも予約するという。

どういう風の吹きまわしか?

それとも、私は気づかないうちにパラレルワールドに来ているのか?

そして、釈然としないまま、28回目の結婚記念日を迎えることになったのである。

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