なんもわかってない人の『君たちはどう生きるか』感想文

※ちょっとネタバレがあるかもしれない

 ジブリの新作が金曜日に公開だよ、と知ったのが木曜だった。今回結構みんなそんな感じだったと思う。
 特に熱をいれて観に行くぞ! と思っていたわけじゃないけれども、ツイッターで見かけた「こんなに前情報なしでジブリを観られる機会なんて早々ないぞ」という言葉に推され、ついでに土曜日は歯医者さんに行く予定もあったので「せっかく外に出るし観に行くか」と気軽な感じで観に行った。
 で、楽しかったので文章にのこす。高尚な感想が言えるわけではないし、メタファーとか監督の半生がとかジブリの継承問題がとか、そういうのも知らない。ツイッターで流れてくるぶんを流し読みして、へえーっなるほどーっ頭いいーってなっている、そんな人間の感想文だ。
 そもそも私にとってのジブリって、子どものころから傍らにあった世界以外の何物でもない。
 まだこの世に出てきて3年足らずのわたしは、『となりのトトロ』のビデオを延々見ていたそうだ。1回見終わったら巻き戻して頭からもう1回見ていたので、見かねた両親が『となりのトトロが2回連続収録されたビデオテープ』を作ってくれて、それを日がな一日見ていたという。平成の、コンクリートでできたマンションの一室で、わたしはサツキちゃんと一緒にあの川で足を冷やしたり、メイちゃんといっしょにトトロに会いにいったり、ネコバスに乗ったりしていた。他にも『魔女の宅急便』であの町にいってグーチョキパン店のにおいを吸いこみ、キキとジジといっしょに箒で空を飛んだ。『もののけ姫』であの赤いお椀からどろっとしたお粥を食べたし、『千と千尋の神隠し』で湯のにおいをかぎ、いっしょにずぶぬれになり、電車で銭婆に会いに行った。『耳をすませば』でバイオリンの音を聞き、カントリーロードを歌い、夏の日が差す中あの町を歩いた。『ハウルの動く城』で見たあの花畑に、星空。『天空の城ラピュタ』の遺跡のあのしんと静かで冷えた空気。
 幼少期から見続けたジブリ映画は、もはや映画どころではなく、私の中に無数の世界として広がっている。
 監督とか脚本とか声優とか主題歌とか、そういうすべてが構成要素でしかなくて、私はジブリの映画を見るときはただ、トトロを延々見ていたあの時のまんまで世界に入り込んでいる。
『君たちはどう生きるか』は、私の中に作られた無数の世界への旅だった。
 映画館でスクリーンと向かい合いながら、今まで私の中に産み付けられた無数の世界を見ていた。
 それは田舎の山にある洋風の家だったし、木造の学校だったし、へんなにおいのする池だったし、冷たい石の建物に古い本のけはい、気まぐれな海、いい匂いのパンによくわからんスープ、何より緑のにおいのするあの草木のざわめき。
 私が今まで与えられて、産み付けられて、ずっと一緒に育ってきた世界の間を物語と一緒に旅をする、そんな風にして映画を見た。
 なので物語として理解できたかというと、まあそんなにだ。眞人の成長物語とか冒険譚とか、はたまた現実問題の落とし込みとかは、言われれば全部そうな気がするし、実は全部ちょっとずつ違う気もする。
 感想文といいつつ全然そんなことなくなってしまったのだけど、映画が終わった瞬間に思ったのはこれだけ。
「あの世界に行って楽しかった」
 ここまで長々千文字以上書いてきたのに、感想としてはこれだけだ。多分、トトロのビデオを巻き戻している小さい私もそう思っていた。
 ああ楽しかった。また行きたい。あの世界に。

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