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第14話 ウサギに感じたお金の違和感

理事長へ送った手紙には「ヒル」という言葉を遣った。

ヒルに血を吸われながら、私は進む。貧血にならないことを祈ろう。いや、その前にヒルは血の吸い過ぎでどうにかなるかな?

今、あえて仕事のスピードを落としている。チャンスタイムを生かしさらなる工賃獲得の作業は続けて行く、だからこそ今、少し視野を広げたかった。

黒陽とウサギからのストレスも少し抜こうと思う。

私を私の場所に戻して、ステージの高い仕事を目指す。

そう思っていたところに、陽陽の店には再び販売方法変更の可能性が浮上。春に変更して、早ければ10月中旬程度に大きな変更の可能性があった。背景には商店街の売場展開が関係していた。

予約販売の宣伝に関しても検討事項が増えたので様子見状態。

来るべきして来る、神様からのシンキングタイム。戸惑いや不安は、実はチャンスだったりすることも多い。

ただ黒陽やウサギのように「カメから離れなければ得をする」という思考でいると戸惑いや不安は生まれず、鈍くなる。

たぶん、鈍いことを神や宇宙は嫌うんだと思う。

でも、敏感過ぎても疲れて死にかけるんだけどね。

ポパイ園の商品を買うのを、とにかくやめた。

私はずっとポパイ園の商品を仕事として購入してきた。それは自分の勝手だ。でも、ずっと違和感を感じてきたことがあった。

それが一度たりともウサギから

「いつもお買い上げいただいて、ありがとうございます」という言葉がなかったことだ。本当に一度たりともそんな声はなかった。

別に「礼を言え」という話ではない。

「お買い上げ」という感謝が浮かばないことが常習化している人間と金銭という関係性をずっと眺めていた、という話だ。

似ている感覚としては「客」と言う言葉を遣うか「お客さん」「お客様」という感覚が身についているかいないかだと思う。

双子園が運営する別の就労支援施設の責任者である田舎猿も同じタイプだった。

田舎猿の「客」という口汚い発音の仕方がずっと気に障っていたのだけれど、それはお客様に一切の感謝がないからだと、だいぶたってからわかった。

ウサギも全く同じだった。

ウサギにとってお弁当やお惣菜はフタをした瞬間に「チャリーン」と課金がされる行為でしかない。どんなものをつめても、配食や給食であれば納品さえすれば売上だ。

売れ残りが発生する商品であっても、福祉特有の内輪買いにより損失はとても少ない。

それが成長を遅くするんだけど。手詰まりを作るんだけれども。

おそらくは、陽陽の店だけが少しの返品をするだけで基本、製造したものはすべてお金になる。

私と金銭管理感覚。


私は若い頃、税理士の資格を取ろうと思ったことがあった。税理士は一度に全部合格する必要はなく、一科目ずつ合格して行けばいい試験だった

だから日商簿記の試験を3級から地道に受験していた。いや、正直に言うと地道ではなく1回舐めてかかって2級の合格点に15点足りなくて不合格だった。

だって3級は通信教育で1週間勉強しただけで満点で合格したから。

2級はあまり勉強せず3級の知識だけで受けたら落ちたというわけだ。

ちなみに車の免許も無勉強で受けたら落ちた。この時の状況が最悪で偶然、中学の同級生だった千代美ちゃんと私だけが不合格だった。

千代美ちゃんは行く高校がないくらいの成績で、私は有名進学校から教育学部に合格したタイミングだった。

その時、千代美ちゃんはたいそう顔を輝かせて屈託なくこう言った。

「カメちゃんが受からないくらい難しいんだね」

中学時代から千代美ちゃんと仲が良かったことだけが唯一の救いだったことを久しぶりに思い出した。

日商簿記は一級に合格した時点で「税理士資格を取る必要はないかも?」と思い始め、日商簿記一級合格を持つだけの人になった。

ただ、経営にはすこぶる役に立つ。だからこそ思うことがある。

経営指導をする時「バランスシートが大事」と主張する自称プロも多いが、小さな経営体の場合、大切なことは圧倒的に 単純なる売上  だ。

それを知っていたことは、その後の仕事で大きかった。ろくでもない経営指導で苦しむ人の助けにもなった。

違和感。

2022年5月。ポパイ園の販売の再視察の為に、私と黒陽は中央市民センターに集合していた。

その後、ウサギも合流。

そこでの販売はとても小さな販売でお弁当も数個しかなく、お惣菜の販売はなかった。ポパイ園からの販売スタッフは4人来ていたが、その時はその販売の小ささに「こんな販売場所もあるんだな」くらいにしか思わなかった。

その後、商品の視察の為に3人で徒歩圏内の中央フードガーデンに移動。

中央フードガーデンは高級食材が販売されているデパ地下みたいな場所だ。販売審査もあり、そう簡単には審査は通らない。

その審査に通ったA型就労支援施設があった。その名は『ビッグシップ』

ビッグシップは双子園とも深い関りがある施設だ。関わり、いや、双子園の理事長はきっと嫌がるだろうけど、関りの代わりに因縁という言葉を遣ってもいいかもしれない。

私はそのビッグシップに2人を連れて行きたかった。

ビッグシップはレストランを営業しており、そのレストランで作られたお惣菜なんかを中央フードガーデンで販売していた。

障がい者就労支援施設であるビッグシップの商品が中央フードガーデンの審査に合格出来た件については後で語ろうと思う。

「陽さん、今から行くビッグシップの商品は障がい者就労支援施設で作られてるんだけど、クオリティが高いからね」

当然そのことを知らない黒陽は「え、中央フードガーデンの審査に通ったの?」と目を丸くしていた。

「ウサギさんは行かれたことあります?ビッグシップ?」

この時、やはり私は敬語でウサギに話しかけていた。

「はいはいはいはい。知ってます!」

このウサギの純度の低い、そして、どちらつかずの返答をもっと気にするべきだった。当たり前だが、後悔は先には起きない。

ビッグシップでは、その商品力に魅了されたのか黒陽もウサギもやけに商品を買い込んでいた。

「これは、この後会う大工さんの分で、これはこないだお土産をくれたお客さんにあげて。。。」とやっていた黒陽が「これはカメが食べな」と2パックのお惣菜をくれた。ありがとう。

ウサギは少なく見積もっても9パック程度の惣菜を購入していた。

私は心の中で「最低でも1パック400円近くするのに、二人ともこんな高級惣菜、よくいくつも買うなあ。まあ、黒陽はいつも散財しているし、ウサギさんは研究用かな?」と漠然と思っていた。

だから、ビッグシップからの帰り道、私の口からこんな言葉がポロっとこぼれた。

「ウサギさんが買った商品は、お惣菜の研究用ですか?」

「3パック程はそうですけど、他は自宅用ですね」ウサギの笑顔に嘘は無さそうだった。

半分以上が自宅用?

何も知らない人が聞けば、そこに問題点などない言葉だ。

しかし、私は長きに渡り生産者の為の商品開発や経営指導をしてきた上に、障がい者就労支援施設の工賃獲得作業を数年してきている。

障がい者就労支援施設の組織運営、補助金や助成金などとの兼ね合いに関しても一般の人間よりかなり知識がある。

そして、日商簿記一級合格者でもある。

「3パック程はそうですけど、他は自宅用ですね」という些細な発言とそれに伴う行為がどんなに異常な事か、瞬時に判断出来ていた。

しかし、その時はその異常な事に重きは置かなかった。それが現在の大惨事状態の原因でもある。

他人を悪人だと思わない癖はたぶん、死ぬまで治らない。

その癖は善人であるからではない。愚かだからだ。鈍いからだ。

鈍いと神様に嫌われちゃうな。









活動は完全無報酬で行っておりますのでサポートはたいへんたいへん有難い状態です。自腹で製造品を買い製造指導や販売指導、商品開発も完全自費で行っていますのでサポートいただいたお金は全額、福祉施設の向上の為に使用させていただきます。