第8話 テクニカルに(リアル画像付)
ミヤジはいいね。聴いていると魂がシャキッとする。
「丁寧に作って、丁寧に歌って、丁寧にプロモーションしよう」
これはミヤジの言葉だ。
丁寧に、丁寧に、丁寧に。ここ数年、自分の中で繰り返す。でも、まだ自分の物になっていない。ウサギの事言えないじゃないか!丁寧に対して本気出せよ!私。
でも、さっき、歩きながら決めたことがある。
「取り急ぎ」という言葉をもう遣わないことにしよう。近日も双子園への連絡書面の中で遣ってしまった。忙しいという自分のテクニック不足とそれに対する言い訳と甘えじゃないか、私の「取り急ぎ」は。
もう遣わない。絶対に遣わない。
ウサギとの負けられないゲームという言葉を遣っているが、私は「ウサギ、ふざけんな!」というメンタルを繰り返して進んでいるわけじゃない。ウサギに振り回されない形で売上を取る方法を着実に進めている。あくまで、すべてテクニカルにやる。
週始め、ずっと「今週もよろしくお願いします」とビジネス理論や製造知識などを綴った資料を添付してウサギにメールを送ってきたがそれもやめた。キレたことがきっかけでもあるが、ある意味テクニカルな要素として、その馬鹿丁寧をやめた。
ウサギを甘やかすだけになるし、時間の無駄。どうせ、一切やらないんだから。しかも、ウサギの雑な返信は私の「取り急ぎ」を遥かに超えている。
忙しいのは理解出来る。けれど、だからと言ってやっていい対応と悪い対応がある筈だ。いつかそれらをここで晒した時、驚くのはそれを目にした人全員だと断言出来る。
私がずっとやってきた作業。
この生姜焼きを誰か買うだろうか?それ以前に、これは生姜焼きじゃない「生姜煮込み」じゃないだろうか?
だから私はそれを定価で購入して「こう仕上げないと売れないですよ」と焼き目をつけて、盛り付けて、撮影して、Googleドライブにあげて、そこからダウンロードして資料を作った。たいへんな手間だ。
いつだったか、凄いチャーハンが来た。あいにく画像はない。こんなことなら撮影しておけば良かった。具ゼロ、玉子かけご飯を加熱したべちゃべちゃの見た目。トッピングもゼロ。
しかも、それに500円という価格をつけてきた。黒陽がポパイ園に「こんなひどい商品!!400円にしなさいよ!!」と電話していた。
ウサギは留守らしく電話の向こうでは別の職員が渋々400円を承諾していたということだった。しかも「400円が限界です!それ以上は無理です!」と若干のキレ気味だったと黒陽がボヤいていた。
結局、チャーハンは黒陽が買い取って食べていた。そらあ、そうなる。あれを売れば店の評判はガタ落ちだ。
「あなた達はテキヤか!!」という言葉をつけて、チャーハンの製造指示書を送った。
「カメさん、申し訳ありませんでした。本当にひどいですよねっ!何で具を入れないで紅しょうがもつけないで納品するのよ!!って私も思いました!ホントにもうっ!!」
ウサギよ、責任者はお前では?
ご飯と卵をあらかじめ混ぜてから炒めると、パラパラチャーハンになるというのは偽情報だ。そして、500円のチャーハンを売りたければきちんと作るか美味しい系の冷凍食品を使うべき。
それでも私は失敗しない作り方を教えた。「お米をかために炊いてスクランブルエッグを作って調味料と共によく混ぜる。盛り付けて冷めてからネギを散らす。それでも売価は398円が限界だ。適正価格は350円。
翌日、その通りに作った美味しいチャーハンがサンプルとして来たので、メールで褒めた。ウサギからの返信はこうだった。
「これに具を入れれば500円でいいですか?」
は?何かムカつくけど、巻き込まれないでいよう。だって、私はテクニカルに行くんだから。
画像がきれいに撮影出来てしまってわかりにくいがアスパラの色飛びが激しい。カニカマの色も悪い。そもそも、どのジャンルにも属さない売りにくい商品だから色味だけが商品としての勝負どころだ。儲けたいだけだと伝わってもくる商品でもあった。
こんな商品の指示は簡単なことだ。でも難しかったことがあった。それが「業務スーパーの冷凍野菜で作りたい」という希望だった。わざわざ業務スーパーへ足を運んで細い冷凍アスパラを探したが見つからなかったので、冷凍青菜で試作したのが上の画像だ。
このカツ丼に関して黒陽は「カツが落ちている!!」と騒いでいたけれど、重要視する点はそこではなく、薄焼き卵みたいな仕上がりと落ちたカツのお陰で見えているつゆ感ゼロのご飯。そして、玉ねぎの色の薄さだ。食べる前に、どういう状態であるかはプロでなくてもわかる筈だ。
勿論、定価の500円で購入して食べた。つゆゼロのカツ丼は漬物でもないと正常に食べ終わることは出来ない。やはり、味も旨味もなし。この適正販売価格は398円が限度。500円はぼったくり価格だ。価格設定は黒陽ではなくウサギの仕業だ。
だから私は、そこにも丁寧に指示書を作った。「カツは別煮にして、玉ねぎで卵とじを作りそれを上からかける」実際にはもっともっと丁寧に指示を書いた。
プロの食品製造の世界は「え!そんな作り方するんですか!?」という場合も多い。工夫に工夫を重ねなければいけない場合も多い。
工夫に工夫か・・・。
思い出した!ハリネズミのケーキもそうだったな・・・。
あえて、ここでちょっと脱線する。
ハリネズミのケーキ
ずっと昔「子供ケーキ教室」をしていたことがあった。1回1000円で作り方を教えて、出来上がったケーキとお子さんを一緒にチェキで記念撮影して写真を渡して1000円。勿論、作ったケーキはお持ち帰り。
子供達はとっても喜んでくれて「次もやって!次もやって!」とリクエストが来た。親御さんや参加した本人からもたくさん御礼のお手紙が来たなあ。
場所は大きな教会の一室を貸していただいた。3階には外国製の大きなオーブンも完備されていて、子供たちが泡立て混ぜ合わせたスポンジケーキはそのオーブンで焼いた。
子供でも簡単に出来て、道具もあまり要らなくて、自宅でも再現出来るケーキを考えるのはたいへんなようで、とても楽しかった。
中でも「ハリネズミのケーキ」は子供達の中でも大ヒットだった。薄くスライスしたチョコスポンジケージの上にチョコレート入りのホイップクリームをこんもり山のようにのせる。それをアンビベを済ませたスポンジケーキで山なりに蓋をする。チョコスポンジ山の出来上がりだ。
チョコスポンジ山の上に、1:1のガナッシュを流す。子供達にお手本を見せながらこう言うんだ。
「スプーンの裏でピン!とこんな風にハリネズミさんの針をたくさん作っていきましょう」
途端にケーキ教室は静かになる。きらっきらの目をした子供たちは針作り職人として大集中。
工夫って大事だ。あの工夫がなければ、あのきらっきらは無かった。パティシエになって良かったと一番感じた時間でもあった。
そんなケーキ教室は大盛況だったけれど、しばらくしてやめた。教会の牧師夫人が「もっとたくさん子供たちを募集しましょう」と言い出したからだ。
目的は教会の信者を増やす為と会場費。
定員10人で行っていたケーキ教室を教会の1階20人、2階30人、3階20人で同時にやれということだった。教会員のアシストはつくが先生は私一人。だから、すぐやめた。そんな雑な教室は子供達の為にならない。牧師夫人は何か文句を言っていたような気もするけれど、随分前の事なので忘れた。
変な偶然なんだけど、牧師夫人は見た目がウサギとそっくりだった。贅沢が好きな牧師夫人だった。当然のようにプライドも高い。そんなところも二人はそっくりだ。
ということで脱線終了。
ポパイ園が自由に作る食品は売上の世界で勝つことはまずない。
しかし、勝てる要素を持っているものも実は存在している。それを組み立ててバカ売れ商品にしていく。その準備は毎日、したたかに行っている。
オンラインの販売システムも使う。2022年7月20日現在、そのシステムは完成している。
まず最初に無添加弁当を宣伝をかけながら販売する準備をする。「これをこう作ってください」と分単位で焼きの製造指示も入れる。材料もウサギには手配させない。私が全部手配する。その方が早い。
現時点において、ウサギもその方法に文句を言わない。だって、ウサギにとって私は打ち出の小槌だ。ムカつくことへの反論に必死であっても打ち出の小槌がなくなっては困るという空気は十二分に伝わってきている。
いつかウサギが言っていた。
「カメさんがポパイ園に販売のお声をかけてくれたのは、ご自身の徳積の為ですか?」
何で、ウサギっていちいちこんなにムカつくんだろう。徳積?そんなことを日々考えているのはウサギだけじゃないのか?第一、徳積って頭によぎっている時点で徳積じゃない。
黒陽に頼まれ、そこにお惣菜とお弁当が製造出来て販売したがっているポパイ園の情報があったから。それだけのことだ。
だから、ポパイ園が双子園と深く関係があることも全く知らなかったんだ。