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手のひらの上

昼を少し過ぎた頃、ベットで目覚めた。
目覚まし代わりに携帯の着信音が鳴り続けている。

 < 千尋・母 >

画面に表示された名前は付き合っている彼女の母親のものだった。

もう2年以上の付き合いで、彼女の家でよく夕食をご馳走になったりする。
両親も僕を気に入ってくれていて、何となくだけど将来の話も出ている。
僕の携帯番号も知っているし、電話がかかってくるのは珍しい事ではない。

「はい、もしもし。 こんにちは。
 どうしました?」

「あ、純也さん。 千尋何処にいるか知りません?」

おっと、いきなりの難題だな。

「えっ? 千尋さんに何かあったんですか?」

「それが、今日学校休んでいるらしくて。
 朝はいつも通りに出たんだけど……」

僕は大学生、彼女は3つ下の高校生だ。
良い子だけど、そこは高校生。さほどひどくはないが軽く反抗期中だ。

「学校、行ってないんですか?」

「島崎さんが心配して連絡してくれたのよ。
 具合でも悪いんですかって。

島崎さんとは、千尋と仲の良い友達だ。

 電話してるんだけど、留守電になっててね、繋がらないのよ。
 メッセージも読んでないみたいだし」

「今起きたばかりなんで分かりませんが、
 もし千尋さんから連絡があったら、お母さんに電話するよう伝えますよ」

「そう、お願いね」

「はい。 それでは」

電話を切ると、もう一度ベッドに潜り込んだ。

「誰から?」

「あぁ、ちーのお母さんからだよ。
 学校サボったのばれてるぞ。
 あとで電話しとけよ」

「う…ん、分かった…」

千尋は一度も目を開けることなく、眠そうにもぞもぞと寝返りを打つ。

今朝、彼女が登校の途中で、今日は眠たくてサボりたいと電話してきたので、車で迎えに行った。まあ、そういう日もある。
そして今、横で寝ている。

実は電話に結構焦ってはいたが、その割にはうまく演技したつもりだった。
でも、千尋のお母さんの口調には何だか落ち着きがあり、居場所を知っていて僕に電話を掛けてきたのだろうという確信もあった。
小一時間もすれば、娘から嘘の言い訳を聞かされることをちゃんと分かっているのだろう。

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