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日曜夕方5時、美術館に行く理由。ーArtとTalk㊳ー

(今週もエッセイ形式でお送りします)

久々の日曜休み。
なんの予定もなく、快晴だったが洗濯機を回す気力―正確にはその後の干さねばならぬ未来に対する気力がなく、ひたすら眠りをむさぼり、目が覚めても猫を抱いてごろごろ。テレビのハードディスクに溜まっていた録画を流し見していたら、あっというまに夕方になった。

ここのところ予定を詰め込み過ぎた。面倒すぎる役所関係の確認作業も重なり、心も体もだいぶくたびれている自覚がある。今日はこのまま買い物にも行かず、家にあるテキトーなものを食べて、ゆっくりお風呂に入って布団で寝直しておしまい。でいいか。
いや、でも。

むくりと起き上がり、パソコンを立ち上げる。時計をちらちら見ながら、近場の美術館の閉館時間を調べていく。
思ったより17時閉館が多い。美術・博物館はたいてい閉館の30分前で入場を締め切ってしまうので、あまりぎりぎりでは行けない。
結局、18時まで開館している安定の県美に決める。

かろうじて眉毛だけ描いたすっぴん状態プラスマスクで、賑わう日曜の繁華街を無心ですり抜ける。美術館に入ると、急にあたりから人が消えてほっとした。
日曜夕方5時、展示室の中は完全に、監視員さんの他に私ひとり。

大型企画展の開催中ではなかったが、現在休館中の愛知県陶磁美術館のコレクションと県美のコレクションを掛け合わせたオムニバス形式の展覧会になっていた。各部屋の入り口で「狛犬」がお出迎え。それがなんともかわいらしくて、わくわく。
縄文土器がある。みると、制作年が紀元前3000~2000年頃とある。「つまりいま私が観ているこれ、5000年前につくられたってこと?」と、その壮大さに想いを馳せる。

そういえば大学の頃、博物館学の授業で縄文土器作ったなあ。それ、結局どうしたのか全く記憶にないし、作り方も覚えていない。だが、その時の教授は、縄文土器に対して常に本気だった。
卒業してだいぶ後、『ミュージアムの女』関連のイベントで新潟県立歴史博物館に呼んでいただいたとき、ロビーを見学していたら縄文土器が飾られていて、キャプションを何気なく見たら、なんとあの教授の作品。新潟は土器が有名らしく、いたるところに土器が飾られていた。

食料を煮たり貯めたりするただの生活用品だったはずである。それをわざわざ文様をつけておしゃれに作る。すでに5000年前の人間たちがそんな発想を持っていた。すごい、というより、なんか嬉しい。
ちなみに私の好きなルネサンスの巨匠・ラファエロの没年は西暦1520年なので、たった500年前。人生100年と呼ばれる今なら、5代前のことか!そんなに最近?!と思うと時の流れがさらに謎めく。
その、たった500年の間に美術は驚くべき進化を遂げた。

展示室の後半に入ると、他にも鑑賞者が数人いた。皆、ひとりで思い思いの鑑賞を楽しんでいる。私ものんびり観ていたら、過去トラウマ級に衝撃だった作品と唐突に再会して後ずさりそうになった。
ノロ燐さんの《胎芽供養堂》。大学病院でホルマリン漬けの胎児をみて衝撃を受けたことからつくられた、胎児への弔いや情念がみなぎる仏壇形式の迫力作である。かなりおどろおどろしく、子どもの頃見たら夜トイレに行けないレベルの怖さだが、以前、勤務先の美術館で展示があって、毎日みるうちだんだんとその不思議な魅力の虜になってしまった。
そうか、この作品、愛知県美が収蔵したのか。(令和3年作者寄贈)

地元の美術館に好きな作品が加わったことを知れるのも、コレクション展を観る楽しみのひとつである。

美術館に行くことは、ハードルが高いし結構ハイカロリー。
そう思う人も多いだろうし、私も、目当ての大型企画展を観に行くときはやっぱり事前に計画を立てて「よしっ」と気合を入れたくなる。
けれど、年々、疲れた時こそ美術館を欲している自分がいる。
そういうときは、なにかを得ようという気持ちは持たずに、ただ出会いに身を任せる。出会いがなくても、展示室の中を歩くだけで、思考が浄化していく気がする。

家でごろごろしていた私は、閉ざされ、守られた空間にくつろぎながらも、どことない息苦しさを感じていたのかもしれない。だから無理して外へ出てみた。

美術館に救いがあるわけではない。

ただ、時の流れがある。過去の人も、今の人も、作品をつくり、守り受け継いだ人たちがいて、それを見ている自分がここにいる。

そんなことを感じたくなるとき、私はふらりと美術館に出かける。できれば、東京みたいに、曜日によって延長してくれる美術館が地元に増えたらいいなあと思いながら、ちょっとだけ街をぶらついて帰った。





今週もお読みいただきありがとうございました。
皆さんは、どんな時、美術館に行きたくなりますか?

◆次回予告◆
何を載せるか未定回。

それではまた、次の月曜に。

*今回観た展示はこちら。4月14日まで↓


*宇佐江みつこの美術探訪。その他のお話はこちら↓



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