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思い出す、駆け引きの味

至極勝手な解釈で、久しぶりに駆け引きの味を思い出している。

少し前、友人にプレゼントを郵送した。誕生日でもないタイミングのいわばサプライズ。どんな反応が来るかを楽しみにしながら、私は素知らぬ顔で友人からの受け取りメールが届くのを待った。
郵送したのは金曜の夕方。さほど大きいサイズでもないので普通郵便で送った。通常であれば、おそらく届くのは月曜。そう踏んでいたが、日曜、当の本人からメールが来た。
(あれ?もしかしてもう届いた?)
内心驚きながらメールを開くと、「今更だけど」というタイトルでこんな文章が送られてきた。
「5年前、私が東京に出るときにみつこちゃんがくれたプレゼントにずっと支えられてきたよ。ちゃんと伝えたことなかったから、伝えるね!ありがとう。」
と、あった。

んんんん…???

これはどっちなんだ…?届いたプレゼントを見てあらためて、前回のプレゼントを思い出し感慨深くなったということか…?いや、この文章を読む限り、おそらくまだ届いていない。にも関わらず、友人はミラクルなタイミングでこのような御礼メールを送ってくれたのだ。只者ではないと昔から思っていたけれど、やはりこいつは何かを持っている。
驚きと感動を押し殺し、私はそのメールに感謝のメールをさらりと返した。
しめしめ。明日、余計に驚くぞこれは…。

ところが、それ以降友人から音沙汰がないまま10日が経った。

彼女と私は小・中・高の同級生だ。小学校時代は顔見知り程度の付き合いだったが、中学でたまたま同じ美術部、さらに美術科の高校を受験する変わり者が自分以外にもいる、それが彼女だと知った中3から、急激に交流が増えた。共に受かった高校へは毎日一緒に自転車で登下校した。公共交通機関が不便な土地だったので、雨の日はお互いの母親が交代で車で送ってくれて、家もしょっちゅう行き来した。彼女が当時激ハマリしていたインディーズバンドに同じく私も激ハマリし、ふたりで東京や大阪のライブへ泊りの遠征もした。美大受験を控えた年は、同じ画塾にも通った。
文字通り四六時中一緒にいるような感じだったが、女子っぽくべったりした仲良し、というより、彼女とは「連れ」のような感覚に近かった。性格もかなり違ったので、人格形成途中の10代の頃は激しい喧嘩もした。しかし、環境的にいつも視界に入る存在なので気まずいのも辛く、すぐまた元に戻るの繰り返しだった。大学進学を期に私は金沢へ行き、名古屋に住む彼女と初めて距離は離れたけれど、その後も変わらず交流は続いた。

彼女と私の最大の共通点は「野心」だったと思う。ふたりとも、自分の目指す制作や仕事などの「夢」に対しての欲、良く言えば向上心が周囲に比べて異様に強かった。恋愛の話も勿論したし、それにまつわるエピソードも沢山あるにはあるが、ふたりで会うとき、話し込むとつい、いつも仕事の話ばかりになった。美大を卒業した彼女が「コピーライターになりたい」と言い出したときはてっきり絵の方面の作家になると想像していたので意外だったけれど、猛烈な就活の末にデザイン事務所への就職を決め、さらに幾度かの転職を経て、着実にコピーライターとしてステップアップしていく彼女の姿を私は常に尊敬の念を抱いて見守っていた。

就職を期に名古屋へと戻っていた私だが、数年後、今度は友人が東京へ引っ越すことになった。大手広告代理店への転職を掴んだのだ。
ちょうどその少し前、私も長年目標としていた「本を出版する」夢を叶えたばかりのタイミングだった。
「ふたりの旅立ちだな」
と感慨深くなり、私は、友人と自分に揃いのアクセサリーを贈った。友人はとても喜んでくれて、仕事場でもいつもそのアクセサリーを身に着けていると話し、私も大事な仕事のときはいつも同じものを着けて御守りにした。

あれから5年。
友人は、コピーライターになった時から「いつかとりたい」と目標にしていた賞を、なんと11年の努力の末に先日受賞した。その知らせを貰った瞬間から、私は、何か節目になる記念のプレゼントを贈ろうと思い、そしてあれこれ考えるまでもなく「万年筆にしよう」と決めた。

書くことを生業にしている友人にとって、筆記具ほど相応しいプレゼントはないだろう。使い心地は人それぞれだから気に入ってくれるとは限らないが、「書くことの幸せ」を私がいちばん実感できるのは万年筆だし、筆まめで、コピーのアイデアや旅行の行程などもチマチマと手帳に手書きしている彼女にはぴったりだと思った。
それから私は万年筆売り場をいくつも回った。しかし、今どきあまり使う人が多くないとみえて品揃えは薄く、ピンとくるものがない。あまり高価でも恐縮するだろうし私も予算が厳しい。かといって、カジュアル過ぎても記念の贈り物として不似合いだ。
結局、購入を決めたのは万年筆の老舗として名高い某文具店。しかもそこは、友人と私がかつて通った画塾への通り道にあり、そのような名店と知らずに毎日横切っていた思い出の場所だった。すばらしく書き味の滑らかな1本が見つかり、そのつもりはなかったのに、自分でも欲しくなって同じものを買ってしまった。その万年筆を使い綴った手紙を添えて、東京に住む友人宛てに私は小包みを送った。

で、である。来ないのだ。「届いた」返事が一向に。

可能性はいくつかある。
まず、忙しくて気づいていないパターン。出張の多い彼女なら1週間くらい家にいなくても不思議はない気がする。もしくは、リモートワークで家から出ずポストを見ていないとか。私も一人暮らしだからわかるが、部屋にずっと居たり、出かけても荷物が多いときなど、めんどくさくなってポストを開けないで数日過ごすことがたまにある。もちろん、何か届く予定ならそんな不精はしないが、友人の場合、私から何か届くなんて知らないのだから無理もない。
そしていちばん彼女の性格的にあり得そうなのは、大事な贈りものにはメールなどでなく、きちんと手紙を書いて寄こそうと思いつつ仕事が立て込んでいて書けないまま現在に至っている可能性。郵送する少し前、「今月激務すぎて風呂に入り損ねるほどやばい」というメールを貰ったし、あり得る。たぶんこれが理由な気がする。

でも、万が一、こうは考えられないだろうか。

郵便事故……。

その場合はちょっと現状放置ではまずい。配達状況が確認できるような方法で送っていないから、こちらから確かめる方法はない。しかし、本当にそうなら早く知って同じものを購入して送りなおさなければ。ただでさえ万年筆探しに難航して、受賞の知らせをもらってから2カ月も実は経過している。これ以上遅くなると間延びしすぎてサプライズ効果も薄れる。
しかしどう確かめる。
本人に直接聞くしかない。そして、もし郵便事故じゃなくてちゃんと届いていた場合どうなる。上記の如く何かしらの理由があってリアクションできなかったのなら、友人に「返事してなくてすまない…」と言わせてしまう。さらに「遅くなっても手紙で…」という厚意であれば、その友人の手紙返しサプライズを、私の安心したい欲望のせいで白けさせてしまう危険が伴う。

結局、待つしかないか……。

この感じ、何かに似ている。恋愛初期の頃の駆け引き。毎日のようにメールを送り合っていたのに、付き合って3ヶ月目くらいで、初めて相手からの返事が遅くなるあの感じ。ただ忙しいだけだろう。そう頭では理解しているのに気持ちが納得しない。今までなら、どんなに忙しくても1日の間には返事をくれたはずなのに。相手より自分の気持ちが勝っている、だからこそ焦る、余裕が持てなくなる。もしやメールが届いていないのでは?もしくは気づいてないのでは?そう思って追加でメールしたいけれど相手に「重い」と思われたらどうしよう。悶々とした夜が永遠に終わらないように感じる、あの感じ。
待つか、折れるか。
相手を信じるか、自分の不安を解消させるか……。



結局私は、メールを送った。他用があってメールしたついでに、
「ところで…つかぬことを訊くけれど、少し前、そっちに手紙(小包)を送ったんだけど届いてるかな?」と。

そして結論は、やはり私の想像どおりだった。

「受け取りの連絡できてなくてごめんね!お手紙で返事したくて。いずれ届くと思うから気長に待ってもらえるとありがたい」

ああ、やはり待つべきだった……すまない…。


しかも、このようにコトの顛末を彼女に無断で書いてしまった。
ごめんなさい。
でもたぶん、「おーい」とは思っても、苦笑しながら許してくれると思う。書くことに関しては。

あらためて、友人Rよ、受賞おめでとう。益々の活躍を祈って、そして、駆け引きに負けたお詫びにこの文章を贈ります。





今週もお読みいただきありがとうございました。この出来事はほんとに近況の話で、まだ友人からの手紙は届いていないので楽しみだな~。
皆さんは、最近誰かに手紙を書きましたか?

◆次回予告◆
『おでかけがしたい。⑫』滋賀県への日帰り旅

それではまた、次の月曜に。


*いよいよもうすぐ!!






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