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未知なる世界、折込チラシのバスツアーーおでかけがしたい。⑰ー


旅や散歩にまつわるエッセイ+写真のシリーズ『おでかけがしたい。』第17回。今回は、いつもとちょっと違う手段で、さわやかな初夏の上高地へ行ったお話。

あさ新聞を読み終えると、折込にもさっと目を通す。

買い物予定があればスーパーのチラシを吟味し、通販のチラシを「ほ~」と眺め、たまにマックのクーポンが入っていたら、使うか否かはさておき小市民的にキープする。そして、紙からこぼれおちんばかりに文字と写真がびっしりと踊る1枚を、気まぐれに凝視する。
観光バスのパックツアー広告である。

山梨さくらんぼ狩り、伊良湖メロン狩り、飛騨牛&ノスタルジックな飛騨古川、奈良のホテルでオリジナルコースランチをご堪能…。旅といいつつ見出しの主役は圧倒的に食べもの系である。素晴らしい絶景やエンタメ・アトラクションよりも潔く食、というのがいっそ心地良い。
しかし、こういうのに申し込むのはきっと自分よりだいぶ年上の方々なのだろうなあ…と、今まではチラシを見るだけで満足し、申し込んでみようとは考えたこともなかった。

ところがある日、
「これ、今度ひとりで行ってこようと思うんだけど」
と母が差し出したのは、既視感のある観光バスのチラシ。その中の、グルメ推しプランに挟まれて、涼しげな写真とともに「北アルプスの絶景・上高地」と書かれた企画を母は指さしていた。
「えっ?ひとりがいいなら勿論いいけど、私も全然行けるよ?」
ふだんは絶対ひとり旅などしない母である。案の定、「えっ、行ってくれる?あんた、こんなバスツアーなんて行かないだろうなあって思ったんだけど…」と喜んだ。
亡くなった父とよく行っていたらしいバスツアー。久々に行きたい気持ちが沸いたのは良いことだ。
私は張り切って、予約手配から仰せつかった。

こういうパッケージツアーは希望者が少ないと催行されない(つまり中止)ことがあり、予約ののち、催行が決まった時点で旅行代金の振込用紙が送られてくるという流れらしい。私たちの希望した上高地も、無事決定したようで後日書類が自宅に届いた。

当日。
受付場所で名乗ると、ひとりずつにバス会社の名入りのかわいいピンバッジが渡された。母に倣い、かばんにつける。
集合場所には長い列。やはり参加者は圧倒的に6~70代が多く、30代以下は私の他に1人か2人だけ。ほぼ満席、大人気である。
バスが発車するとバスガイドさんが、
「受付前を通ります。係がお見送りしております。皆様どうぞ、片手を振ってあげてください。両手は振らないように。『助けて』の意味になってしまいますので」となめらかに参加者の笑いを誘う。

ガイドさんは20代の男性だった。
「当社では、男性のバスガイドはまだふたりしかおりません」と自己紹介されていたが、ちょこんと乗った帽子といい、グレーのチェック柄ベストに黒パンツという、ちゃんと「添乗員さんじゃなくて、バスガイドさん」のイメージを守った恰好をされていた。

午前7時50分の名古屋駅出発とともに、私と母はコンビニでしこたま買った朝食(めったにコンビニに行かない母が物珍しくて色々買い込んだ)をおなかいっぱい食べ、すぐに爆睡。次に目が覚めると、もう、どこかもわからぬ山の中をバスは走っていた。
「岐阜県高山市は日本でいちばん面積が大きな市で、なんと、東京都よりも大きいんです」などの情報が折に触れ、聞きやすく、かつ聞き流しもしやすい絶妙なトーンでガイドさんからアナウンスされる。途中、1時間ごとに2度のトイレ休憩をし(岐阜のななもり清見でさらにみたらし団子と五平餅を買い食い)、渋滞にはまることなく順調に11時40分、長野県の上高地に到着した。

プランでついていた飛騨牛焼肉弁当

現地での過ごし方は2択あり、大正池という、神秘的なブルーの池の前で降りて集合場所の上高地バスターミナルまでハイキング(片道1時間)を楽しむか、直接バスターミナルで降りて周辺をゆっくり散策するか、を参加者は選ぶ。母の希望で私たちはバスターミナルまで乗って行くことにしたが、乗客の半数は大正池で降車していた。

現地で約3時間のフリータイム。
まずは屋外のベンチで、配られたお弁当を食べた。事前に1つずつ選んだツアー特典の弁当は「飛騨牛焼肉弁当」と、「飛騨名物弁当」。名物弁当の方はおにぎりがみっつも入っていてボリューム満点。両方、とてもおいしかった。
じつは雨天予報だったのだけれど、上高地はぎりぎり、曇り空。自分たちの日頃の行いを互いに讃え合う。

バスターミナルから歩いて数分の場所に河童橋という絶景の橋があり、それを囲んでお土産屋やホテルなどがあった。ひとり2千円という太っ腹なクーポン券が配られていたので、母と合計4千円の使い道を土産物屋やカフェで思案しつつ買い物を楽しむ。みみっちく、「これとこれで890円だから、あと100円前後のもの1個、買おう。」などと、ばら売りの菓子などを覗き込みながら。

それにしても。
旅行支援対象だったから普段よりお安いというのもあるが、ひとりあたりの参加費が約6400円で、現地に連れてってもらえて豪華なお弁当もついて2千円もお小遣いクーポンが貰えるなんて、めちゃくちゃお得だなあ、バスツアー。人気のはずである。
しかし一点失敗したのは、あれだけ大事に大事に使っていたクーポンを後半温存しすぎた結果、次の移動先ではもう利用範囲外で1000円ぶん残して無駄にしちゃったこと。気づいたときは激しく落ち込んだが、…まあ、もとからなかったお金だと思って、あきらめよう…。
もちろんバスガイドさんはクーポンを配布した時、利用できる店についての注意を説明してくれていたのだ(記憶が薄ぼんやりある)。それをきちんと聞いていない自分が悪い。
おそらく他の参加者は、常連のためそんなポカなどやらないのだろう。1組だけ、私たちのようなうっかり者がいたらしく、バスガイドさんに未練たらしく詰め寄っていたがどうしようもない。

帰りも滑らかな運行で、予定時刻より30分も早く名古屋駅に戻ってきた。
ちゃっかりと、到着間際に別のツアーの紹介とチラシ(新聞折込と同じもの)が希望者に配布されて、
「さくらんぼ狩りやメロン狩りは、別に、いいなあ」と思ったけれど、バスツアー自体は想像よりずっとおもしろかった。

また折込をチェックして、行きたい企画が見つかったら今度はこちらから、母を誘ってみるのも悪くないと思っている。





今週もお読みいただきありがとうございました。行楽シーズン。皆様も、おでかけ計画してますか?

◆次回予告◆
『美大時代の日記帳⑰』U字溝を探せ!/デッドストック・レトロなお店。

それではまた、次の月曜に。


*宇佐江みつこのおでかけ。その他のお話はこちら↓


*母と初めてのふたり旅はこちら↓







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