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ポテトの味がへん。

少し前の出来事である。

その日のお昼、私は某ハンバーガーショップに行こうと決めていた。店員さんの雰囲気が良くて好きだった店に自転車で向かう。片道約15分。店内の席はふだんよりかなり数を減らされ、間隔が広めにとってある。テイクアウトの注文を終えると、店員さんが
「ファイナルアンサー?」ときいてきた。
思わずメニューから顔をあげると、外国の店員さんが微笑んでいた。
「暗い気分ばかりで嫌になっちゃうものね」。流暢な日本語だった。しかも、だいぶ前に放送を終えた「ミリオネア」のネタを知っているとしたら、滞在歴も長い方なのだろう。つられて私もマスク越しに笑ってほっこり。

自転車を走らせアパートへ帰る。前かごに入れていたせいで、袋を開けてみたらポテトが散乱していた。かまわず皿にあけ、ソファに座って食べ始める。
なんか、ポテトの味がへん。
かすかに薬っぽい味がする。「うん?」と思ったが、しばらく食べ続けた。久しぶりだから味変わった?などと思いながらも一方で、脳内に朝のワイドショーで流れる音声を変成した映像が浮かんできた。

「食べ始めて、なんかちょっと変な味がするな?とは思ったんですけど、食べられないほどじゃなかったので、もったいないしそのまま食べ続けてしまって…」

いや、変な味がすると思ったら食べ続けるなよ!コメンテーターも専門家も視聴者も、みんな同じことをつっこむのではないだろうかと思うが、実際ってこんな感じなんだろう。「何かへん」と思う気持ちと、「もったいない」という気持ち。命にかかわるかもしれないこととはすぐに思い至らず、自分の身はまずは軽傷レベルから考える。それが人間というものなのじゃないか。

数本食べて、変な味の正体に気づく。よく見るとポテトが青い。実は先ほど自転車でガンガン袋を揺らしポテトを踊らせたせいで、ハンバーガーの包み紙(どぎつい青色)の塗料がごく一部ポテトに移っていたのだった。それに気づくとさすがに、青くなってしまったポテトは取り除いて処分し、無事なポテトのみを食べた。変な味はもうしなかった。

午後は『ミュージアムの女』の原稿を描いて美術館に送った。下書きを見せたとき、いつもチェックをしてくれる職員から久しぶりに
「今回の、おもしろかったです!」
って言ってもらえて嬉しかった。



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