ベルトコンベア仁王立ち【北欧へ、シナモンロール食べに行く①】※6日間連続配信※
ー2023年6月某日ー
出発の朝、午前4時にむくりと起きると猫たちが騒ぎだし、ごはんをあげて軽めにメイクしたあと、使ったメイクポーチを最後に納めてキャリーケースのファスナーを閉じた。
今回荷物は可能な限り少なく、現時点でキャリーの左半分は空っぽ。前回の海外旅行で、自分用のお土産をほとんど買ってこなかったことを激しく後悔したため、今回はこの空白に、ぎっしりと思い出の品を詰めて持って帰りたい。
駅までは母が車で送ってくれた。「バナナ食べない?」と、朝ごはんをたべずに出てきた娘にバナナを持参していた母。ありがたく受け取り、助手席で食べる。
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急に決まった海外旅行。計画を立て始めたのは出発の3ヶ月前。旅行相手はいつもの旅仲間・友人Rなのだが、そもそもRと北欧に行く日が来るとは思っていなかった。
私にとってフィンランドは、愛読しているイラストレーター・益田ミリさんのエッセイにたびたび登場する憧れの場所だったが、かねてからRは
「北欧はいつかの新婚旅行で行く」
と宣言していたので、そしたら私は海外ひとり旅になる。相当レベルが高いから、まだまだ遠い先だろうと思っていた。
ところが今年、私たちの人生には大きな変化があった。
私の場合は父が亡くなり、急遽10年ぶりに母と始まった同居生活。一方Rは、仕事で長年目標にしていた大きな賞を獲り、周りの評価がうなぎ上りにも関わらず現状の仕事はイマイチうまくいっていないと感じ、その閉塞感は、自分の実力に対する不信感や東京の暮らしの窮屈さにも繋がって、「今すぐどこか他の場所に行きたい」と、寅の子の北欧旅行を自ら提案して来た。
折しも先日、コロナが5類に移行し、自由にどこへも行けるようになった。
そうして今日、私とRはキャリーを持って羽田空港に集合したわけである。
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まずは予約したS航空の窓口で搭乗券をゲットする。それにしても、まだここは日本だというのに、発券機の説明がすでに英語一択というのはなぜだ。操作がわからずいきなりまごついた。
ところがその後、もっとまごまごする事態に。
手荷物を預けるカウンターでエラーが出て、どうやら我々の申し込んだ格安プランには、機内に持ち込めないサイズの手荷物料金が含まれていなかったことが発覚する。「そんなことある!?LCCでもないのに??」とさすがの旅慣れたRも戸惑っていた。
幸いだったのは、その場にいた日本人職員さんたちがとても親切だったこと。プランの詳細を見落としていたのは(海外の旅行サイトで表記がかなり不親切だったとはいえ)こちらのミスなのに、申し訳ありませんとすまなそうに謝られ、
「行きの手荷物代がおひとり100ユーロなのですが…」。一瞬、ぎょっ、100!?何円だ!?と慄いたが、冷静に計算すればざっと15,000円ほど(※)。
いや払う。勿論払う。
もともと含まれていたはずのお金だと思えば。しかしトラブルはこれだけに終わらず、気前よく払う宣言をした私たちの返事を受けて職員さんが何やら、スマホのような機械で支払い手続きをしてくれているのが大苦戦。システム的にすごく面倒な処理なのか、もしくは最近マニュアルが変更されたばかりなのか。スタッフが続々と集まり、「こうしたら?だめ?」と色々試しているがことごとくエラー。そこへ、
「どうしたっ?」
私の目の前で眉根を寄せていたスタッフたちがハッと振り返ると、キャリーを運ぶためのベルトコンベアに乗り、吉田鋼太郎的ダンディ&チャーミングな風貌の制服職員が仁王立ちで登場。ひらり、と地面に降り立ち、困っている若手たちにさっと歩み寄る。
この人のお陰で、無事、支払いが済み私たちのキャリーは預かって貰えた。ふーやれやれと一安心して手荷物検査の方へ向かう背後で、
「今の処理、あとで僕にもやり方教えてください」
と、若手職員が吉田鋼太郎的上司に尋ねているのが聴こえた。トラブルには焦ったが、いい雰囲気のチームだなあとほっこりした。
このあと食堂で腹ごしらえをしつつ、Rが悪戦苦闘して帰りの手荷物預かりをプランに追加する方法をネットやサポートセンターなどに確認してくれた。電話が繋がるまでもかなり時間がかかり、ロビーアナウンスで我々が乗る予定の便が搭乗開始になったこと、全ての乗客は142ゲートに来るようにと流れる。迫り来る搭乗時刻。ようやく不明な点を(おそらく)クリアでき納得したRと小走りでゲートへ。142ゲートの前にはすでに乗客はひとりもいなく、数人のスタッフが待っていた。「パスポートを。焦らなくていいですよ」と声をする方を向くと、なんと先程対応してくれたお兄さん!その隣で、
「いってらっしゃい!」
と吉田鋼太郎的上司がキュートな笑顔で見送ってくれた。
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デンマークのコペンハーゲン空港。空港に降り立つとその国の匂いがわかるというが、デンマークは木の匂いがした。
無事北欧エリアまで来たので、腕時計を現地に合わせる。日本より7時間ほど遅いので、18時40分だった。
「フィンランドへの乗り継ぎ便がやや遅れている」と、Rのスマホに航空会社からメッセージが届く。私のケータイは前回のパリ同様海外設定まったくナシで持ってきたが、「コペンハーゲンに着いたよー」と送った返事が、日本にいる母からショートメールでちゃんと届いた。まもなく21時にさしかかろうというのに、窓の外は曇っているけれど全然、夜の暗さじゃない。
ああ、眠い。
現地時刻の23時頃、ようやくコペンハーゲンを離陸した。先程の便より格段に小さい飛行機と狭い座席だが、すぐに爆睡。そして飛行時間たったの90分弱で、飛行機は着陸した。
順番に前へと進む通路の列。
眠気でぼんやりした頭を巡らせると、アジア人らしき乗客は私とRしかいなかった。そんな姿が目立ったのだろうか。前の席にいた現地人らしきおじさんがふいに振り向き、隣にいるRに英語で言った。
台詞のように、完璧なひとことを。
「ウェルカムトゥ、フィンランド」。
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(※2023年当時、ユーロは上昇傾向にあり旅行中も変動していましたがこの時は1ユーロ150円として計算しました。)
去年訪れた、フィンランド5泊8日の旅日記。読む方自身がまるで体験しているような読書旅が味わえるように、今日から1日ずつ、6日間連続で配信していきます。
明日の配信をお楽しみに。
(表紙イラスト&写真/©宇佐江みつこ)
*他のお話はこちらから↓
*以前訪れたパリ旅行記はこちら↓
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