博物館研修の思い出ーおでかけがしたい。④ー
2006年秋。
当時、私は石川県にある金沢美術工芸大学の油画専攻・3年生。
学芸員資格が取れる博物館学の授業を受けていた。
その単位の一環として、京都、奈良、大阪、岡山の博物館をひたすら巡った3泊4日の研修旅行。
おでかけも気軽に出来ない今、せめて楽しかった旅の日記を久しぶりに開いてみようと思います。
(画像データが残っていないため、現像写真をスキャンしております。多少ノイズが気になるかもしれませんが、何卒ご容赦下さいませ。)
1日目、京都。
朝7時学校集合。観光バスで高速に乗り、北陸金沢から一路、京都へ。
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11時半。京都国立博物館(写真参照)に到着。いつかの修学旅行で行った、三十三間堂のすぐ斜め前だった。
流石は国立。広さのスケールや建物の重厚感がものすごい。常設を観たのだけれど、団体料金がなんと70円!通常でも130円!!安すぎる。(※現在は大幅に料金改定がなされているようです。)
本物の縄文土器や三角縁神獣鏡があった。
研修の引率で、金沢美大博物館学担当(考古学教授)いつもダンディーな小島俊彰先生が
「これ、俺が発掘したんだよ」
という住居跡の写真を観て、皆で「お~」と盛り上がる。
バスの中でお弁当を食べながら次の場所へ移動。
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京都国立近代美術館で学芸員さんの説明を受け、企画展の『若冲と江戸絵画展』を観る。平日なのにとても混んでいた。
京都近美はどことなく洋風で、キレイな建物だった。次の集合時間まで余裕があったので、近くにあるパリの凱旋門のような大きな鳥居(←※平安神宮の大鳥居を知らなかった私…)を写真に撮って、父母と地元の友人Rにメールした。
その後、楽しみにしていた『ルーヴル美術館展』が開催中の京都市美術館(現・京都市京セラ美術館)に移動。大鳥居を挟んで、近美のすぐ向かい。こんな近距離でこんな大きな美術館が複数あるなんてすごい、さすがは京都。京都市美も建物がめちゃくちゃカッコよかった。
友だちと平安神宮へお参りし、夕方5時、バスに乗り込み旅館へ向かった。
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部屋は専攻ごとに分かれ、私は同じ油画の4人と同室。8人分くらい布団がひけそうな大きな部屋だった。
おいしい夜ごはんを食べたあと、ツアーに同行している添乗員さんと雑談。なんとこの方、私たちより年下…(当時の私は20歳)。ついにガイドさんの年齢を超すようになったかと思うと感慨深い。石川県出身で、のちのちは国際線のスッチーをやりたいが、今は修業の身なのだそう。
さて、まだ夜の7時半。同室の友だちと3人で三条駅周辺を散歩し、本屋などを経由して最終的にカラオケ店へとなだれ込む。
京都まで来てなぜシダックス、という感じだったが、ふだんと違うメンツでのカラオケは楽しくてあっというまに2時間が過ぎ、11時に旅館へ戻った。
お風呂にはいり、簡単な日記を書いて深夜1時過ぎようやく布団へ。
明日は7時55分集合。朝食は7時。
先ほど、一緒に暮らすハムスターの世話をお願いしてきた金沢にいる友人Rさんからメールが届いた。
『テロ(私のハムスターの名前)は相変わらず私を噛むけど元気。今は寝てるよ』
とのこと。おやすみなさい。
2日目、奈良。
2日目の朝。
6時過ぎには皆でぼつぼつ起きだした。只今絶賛メイク勉強中の純朴なMちゃんがせっかくメイクセットを持参していたので、洗面台の前でいっしょに並んで化粧をする。
朝食バイキングの味は普通だった。
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1時間ほどかけて京都から奈良へ。奈良公園の向かいの奈良県立美術館で金美卒業生だという学芸員さんのお話を聞く。この日は展示替えなので通常の展示室は見られなかったけれど、代わりに搬出の様子などを見学させてもらえた。
鹿にはしゃぎながら公園内を散策後、国立博物館で工芸品や漆を鑑賞。もちろん大仏も。
この旅で、より多くの博物館を巡るために昼食はバス車内で済まさねばならない学生たちを憐れに思ってか、小島先生の手配してくれたお弁当が毎日超豪華だった。
この日は鴨とハモ&鰻の入ったお弁当。今まで食べたお弁当の中で1番と言っていいほどめちゃくちゃ美味しくて感動した。
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お次は奈良文化財研究所という場所で、世界的に有名な動物考古学の権威、Mさんのお話を聞いた。人魚だと言われているヘンな生物の写真をある人に調べてみてくれと言われ調査したら、江戸時代あたりに作られたお土産品(外国向けの?)だったという話が面白かった。CTスキャンで見たら魚の薄皮の下に木が心棒として使ってあるのが見えたのだという。
ちなみにそれを依頼した「ある人」の写真を見せてもらったが、「15メートル先の人も思わず凍り付く」ほどの皇族だった。
博物館とは少し趣きが違うけれど、この研究所は本当に来られてよかった。毎年見学を頼んでも断られるらしいが、今年は考古学の小島先生が65歳の定年で教授を辞めてしまうということで、特別にOKが出たのだそう。
でも、小島先生が辞めてしまうのは正直淋しい。美大には珍しいタイプの、いかにも武骨な研究者っぽくてすごく格好いいし、講義も面白かった。
博物館学という名の単位でありながら、ほとんどの時間が先生の専門分野である縄文土器についての講義内容で謎だったけれど楽しかった。
自分が卒業するまで居て欲しかったなと思う。
その後、山の上の大和文華館という私立美術館に行った。小さいが、自然と一体となったきれいなところで、説明をしてくれた学芸員さんもとても親切だった。
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その日のうちに大阪へ移動。本町駅のすぐ近くのシティーホテルが今日の宿。今夜から夜ごはんが出ないので皆で街へ繰り出す。
地下鉄で2駅先のなんば駅で降り、道頓堀へ。色々迷った挙句ザ・王道のお好み焼き屋に入った。
帰りのゲーセンでTちゃんが大きなぬいぐるみを取った。
3日目、大阪。4日目岡山。
さすがに少し疲れてきた。
丸1日博物館を数か所はしごし、夜は友だちと部屋で語り尽くし、昨夜も寝たのは午前3時頃。同室のMちゃんはシャワーも浴びずに寝てしまったのに未だ爆睡中。
ハムスターを預かってくれているRさんは律儀に毎日報告メールをくれる。いつも画像を付けてくれるのだが、映っているのは毎回陶器の小屋だけ。(←中にきっといるが隠れてる。)昨日は部屋を散歩させている際、キャンヴァスの隙間に入り込んでしまったらしい。無事救出してくれたようだが、あー、テロ。早く会いたい。私のこと忘れてしまってないだろうか。
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今日ひとつめの施設は大阪市立東洋陶磁美術館。
建物周辺の空気感が、なんだか地元愛知の県図書館周辺に似ている。ガヤガヤしてなくていいなと思った。名前の通り、オリエンタルな雰囲気が漂う独特な感じの美術館。
これは完全なる後日談だけれど、この時訪れた東洋陶磁美術館の空気感がなんとなく忘れられず記憶に残った私が、10数年後、勤めることになる岐阜県美術館でこの施設の名が出て驚いたことがある。
岐阜県美といえば有名なのがフランスの画家、オディロン・ルドンのコレクション。岐阜と特別ゆかりのないこの画家の作品をなぜ岐阜県美が沢山持っているのかというと、実は美術館が開館準備中に所蔵作品を探していた時期、解体された総合商社、旧安宅産業のルドンコレクションがまとめて130点ほど市場に出て、それを岐阜県美が一括購入できたのが収集のきっかけ。(ちゃんと公開されている情報です。念のため…。)
一方、充実した安宅コレクションには貴重な東洋陶磁も多数あり、結果的にそれらは住友グループから大阪市に寄贈され、それがもととなって大阪の東洋陶磁美術館が誕生したとされている。
コレクション繋がりとしてはまるで兄弟のような施設かも?
ふしぎな美術の縁を感じるお話でした。
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午後はエキスポ大阪、万博公園内の民族博物館へ。太陽の塔をぼけ~っと表からも裏からも見て、地面に寝転んで写真を撮ったり。
その後、国立国際美術館、大阪歴史博物館を慌ただしく観て、岡山へと移動した。
岡山駅のそばのホテルに荷物を置いて、外に出る。
マンホールに桃太郎の絵が描いてあって「岡山だな~」と思った。
竹久夢二は岡山出身なのらしい。
地下街にあった「夢二」という名のレストラン。「夢二ジャストセット」なるものを頼む。
どんなものが出てくるかワクワクしていたが、普通のオムライスに(ソースが選べる)サラダとスープ、プチケーキがついている1000円のメニューだった。
この日、実は私の21歳の誕生日。自分のために白ワインのグラスを1杯、注文した。
おとなになったなと思った。
お昼に友人から誕生日祝いのメールが届いていた。
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4日目は、岡山県立美術館と倉敷の大原美術館へ。
大原美術館に並ぶ作品があまりにも超豪華すぎて、
「なんだレプリカか」
となぜか思い込み素通りした阿呆な私。(もちろん全て本物です。)
そして倉敷からバスで7時間近くかけて、クタクタになって金沢に帰ってきた。
3泊4日で訪れた美術・博物館(研究所含む)の数は13か所。
この旅で学んだ教訓。
「博物館は一度に沢山まわるものではない。」
学校で皆と解散し、愛しのテロを迎えにRさんのアパートへと急いだ。
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今週もお読みいただきありがとうございました。
ほとんど過去の日記の丸写しですが、4日目は相当疲れていたのでしょう。岡山についての記述が少なすぎて(笑)。でも楽しかったし、倉敷きれいだった。また行きたいなあ~。大阪の東洋陶磁美術館も。
そういえば、この時引率してくれた考古学の小島先生とは大学以来お会いしてませんが、『ミュージアムの女』の関連イベントで数年前、新潟県立歴史博物館にお邪魔した際、ロビーに飾ってあった縄文土器の作者の欄に先生の名を見つけて驚きました。
思わぬ再会。私も大学時代小島先生の授業で作ったなあ、縄文土器…。
◆次回予告◆
『雑事記④』4年前、初めて世に出た私の夢の初単行本『ミュージアムの女』。この本をいかに売り込むべきか?少しでも面識のあるメディアの皆様に手紙を出したり、東京に泊りがけで書店アタックをしてみたり、背伸びしてイベントを企画しては毎回集客に悩んだり…。無知な素人だった私の初書籍売り込み奮闘記。を、お送りします。
それではまた、次の月曜に。
◆今回のさんぽハム◆
大好物のレタスを頬張る2代目愛ハム、イオン。
(1代目愛ハム・テロと同種の、ジャンガリアンハムスターのブルーサファイア。テロの写真は残念ながら見つかりませんでした…。)
*参考
大阪市立東洋陶磁美術館のコレクションについて
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