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大学生が京都から東京まで歩く話①

 1日目(出発日) 2022年2月4日

 本来は13:30分に集合であったはずだが、10時ごろにネオから耳を疑う連絡が入った。「俺の妹が昨夜から熱出てPCR受けにいってるねん。おれワンチャン濃厚接触者。昼には結果出るからもうちょっと待って。」
3人とも生きた心地がしなかった。
 今まで生きてきた中でこれほど友達の妹の病態を心配したことはなかった。
そして15時半ごろに「妹陰性やった」と連絡が来た。嬉し過ぎて「陰陽師がきた」と誤読してしまうほどだった。

 ウサギは出発前に自分が背負うリュックを体重計に乗せた。
15kg...まぁこんなもんか。背負ってみよ。
「重っっっ!!!」

 ついにウサギは15キロのロマンを背負って家を出た。

 集合場所は17時半に三条大橋。そこまでは電車で行く。駅までの道中たくさんの人に見られた。そらそうだ、明らかにリュックが大きすぎる。小学生には不審者扱いで逃げられた。
 もちろん電車に乗るとさらに視線が痛くなる事は察していただけるだろう。私は辛かった。皆さんも普段変わった人を見つけたら変な目で見てしまっているのではないだろうか。僕は変な人を代表して言う。

『やめよう。あの目。』


 17時過ぎに三条大橋に集合し、網代を被って写真を撮った。網代というのはお坊さんが修行の時とかに被ったりする笠の事である。それを被って行った方が参勤交代の雰囲気が出る気がしたからウサギがサプライズで買っておいたのだ。そして三条大橋の下3人で写真を撮り、ワクワクしながら歩き出した。

一行はついに出発したのである。

みんなリュックの重量に苦しめられていた。赤信号の度にリュックを背負ったままガードレールに乗せて小休憩した。こんなんでこれから大丈夫なのかと心配になったが3人でいればなんとかなる気がした。
 そして、、、18時には成績発表が行われる。18時前に京都の蹴上付近で休憩した。そしてそれぞれスマホを出し、webで行われる成績発表を見た。ドキドキした。落としていても再試に行かず、東京に向かって歩を進めることは確定していたがどうせならちゃんと単位を取ってから向かいたいのは当然の考えだった。何よりも嫌なのがこの3人の誰かが受かって誰かが落ちる事である。きっと、これからのモチベーションに差が出てくるだろうし、お互い気を使いあうのもしんどくなる。全員で受かりたいし全員で落ちたい。本気でそう思った。

 ウサギは上から順に成績を見た。
 セーフ。いわゆるフル単というやつだった。
 めちゃくちゃ嬉しかったが容易には口に出して喜べない。だから様子を伺った。

「俺フル単」
ネオが先に口にした。

あれ?タクミの様子が、、、
彼がなんだかおどおどしている。

あー、こいつやったな

タクミが口が開く瞬間皆が集中した。ちはやふるの主人公のように。

「フル単ーーーー!よっしゃーーー!!」

タクミが叫んだその瞬間、不安の種は無くなり緊張の糸が切られた。

 今思えばタクミがおどおどしているのは普段からだった。大学生1年生の時、その挙動不審さから彼に万引き犯というあだ名を付けたことを思い出した。

 そういえばウサギが成績をまだ言っていない事を思い出した。2人ともこちらを不安そうに見ている。早く安心させてあげなければ。

「タクミ、ネオ裏切りやがって。なんか嬉しそうに喜んでましたけど」
一芝居打つと2人は苦笑いした。
「まさかな」
タクミがこぼすように言った。

「東京行くぞーーー!フル単じゃー!!」


全員フル単だった。こうして天才三人衆は意気揚々と再出発した。LINEに大学の友達から通知がくる。みんな私たち3人がテストを落としているものとしてましてや落としてても再試を受けれない事を知っていて聞いてくる。
「成績どうでした?」←このようなものだ。
聞いてくるやつはたいがい自分が落としているからその仲間探しをしているのだ。私たちが落としていない事を伝えてやった。そして私達は驕り高ぶり彼らのことを大いに馬鹿にした。

「うわー単位なんかなんかどうやったら落とせるんやろー。みんな落としててすごいな」とタクミが言うと

「あんな簡単なテストの落とし方教えてほしい」ネオが乗っかる。

「いや、別に俺単位要らんかってんけどな。あげれるなら落としてる子達にあげたいわ。おれは悔しい。なんで単位あげれへんねん」ウサギも言う。

歩が進む進む。一行はテストを落とした友達をエンジンにして歩み続けるのだった。

 そうこうしているうちに滋賀県に入った。足がジンジンしていた。でもまだ20キロも歩いていない。出発が遅かった事もあいまってもう夜もいい時間になっていた。滋賀に入るとすぐに寝床を探した。どこでもいいから寝れそうな所が無いかと琵琶湖の湖畔に行くと良さげな広場があったためそこを拠点にすることにした。待望の晩御飯が待っている。すぐにご飯の支度をした。ご飯は出発前に全員で協議した結果パスタが1番有能という結論にまとまった。そのため各々パスタを持ってきている。ウサギとタクミがペンネで、ネオがもっともスタンダードなスパゲッティを持ってきていた。

パスタのメリット
1.腐らない
2.調理が簡単
3.炭水化物が補給できる
4.美味しい

パスタのデメリット
・リュックに入れているとその分重い
・味に飽きる(この時にはまだ知らない)



 アウトドア用のガスコンロで火をつけ、その上に水を入れたメスティンを置いて湯を沸かす。その中にパスタを入れて7分待つ。この7分がそれはもう長く感じるのだ。
パスタが茹で上がると味付けをする。みんなが同じものを食べる上でここだけは個性の見せ所。そのためにそれぞれ調味料を持ってきている。ウサギは玉ねぎスープパスタ。ネオはミートソース。タクミは塩コショウ。

 タクミのがダントツで不味かった。麺も硬いし塩コショウの分量も少な過ぎる。食えたものではなかった。料理センスのカケラすら感じなかった。このような罵倒をされたタクミだったが少しも落ち込んではいなかった。その後サプリメントを飲んだ。BCAAとビタミンサプリである。補えない栄養はサプリメントで摂取する。

 ちなみにテントは張っていないため雨が降れば終わりである。テントは持ってきているがテントを立ててしまうと割と目立ちそうな所だったので今日は出さない。目立たず寝る。そして朝誰にも見られる事なく歩き出す。これがバックパッカーの鉄則。これを『ゲリラ寝』それを略して『ゲリ寝』と呼ぶことにした。寝袋に入りミノムシと化した僕らはネオンの光に照らされながらテスト落とした友達の事をバカにして夜を更す。きっと琵琶湖の濁った水に僕らのピュアな心が侵されてしまったのだろう。23:28分流石にもう寝ようという雰囲気になった。
「ウサギー、まだ寝ないの?」タクミは眠そうな声を出した。

「もうちょっと起きとくかな」

 大津の琵琶湖湖畔で皆が寝た後、寝袋に入って今これを記している。
2月4日最後に言葉を発したのはタクミだった。
「明日オシッコかけられてませんように」

              2日目へ続く


可愛いサプリメント達
ペンネ
網代

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