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サマー・スポット【ショートショート】

――こんなことになるのなら、やめておけばよかった。

 大学4年の夏休み、友達と心霊スポットを見に行った。
 メンバーは僕と友人の山崎、僕の彼女と山崎の彼女、合わせて4人。

 そのスポットは山奥の学校で、最後に残った一人の生徒が自殺したために廃校になったらしい。それから二十年以上はたっているそうだが、今でもそこを訪れた人は必ず何らかの怪奇現象に襲われるのだという。

 廃校のある場所は電車も通っていないような田舎だったので、僕たちはレンタカーを借りてそこに向かった。
 僕の彼女の香菜ちゃんと山崎の彼女の美咲ちゃんは二人とも免許を持っていない。運転は僕と山崎が交代でやることになった。

 廃校にはお昼過ぎについた。
 森の中に建っているため、この時間にも関わらず周囲は暗い。確かに何かが『出そう』な雰囲気はある。

「ついたー」
「なんか、村の分校って感じー」
「校舎は木造の1階建てか……」
「思ってたよりも、ちっちゃいね」
「あ、玄関の鍵……開いてるみたい」
「不用心だなー。入りたい放題じゃん」
「本当だよね」
 僕たちはそのまま中に入った。

 外から見たとおり中もせまい。
 玄関に貼られた見取り図には、教室を含めて部屋は4つしか書かれていなかった。見て回るだけなら小一時間もあれば済むだろう。
 僕たちは、ところどころ腐っている床板を踏み抜かないよう注意し、廃校の中を回った。
 教室の机の上には全ての椅子が積み重ねられ、ホコリを被っている。授業が行われていたころの活気などはみじんも感じられない。
 女子二人のうち、美咲ちゃんのほうは霊感が強いということだったので、ここで何か視えたりするのではないかと、僕は期待していた。
 しかし……

「出ないねー」
「全然だねー」
「美咲ちゃんは何かこう、幽霊の気配とか感じない?」
「うーん、ごめん。ここでは特に何も感じないかな……」
「本当? 本当に何も感じないの?」
「うーん」
「幽霊も夏休み取ってるのよ、きっと」
「いやいやー、今が旬の時期でしょ、夏に出なくていつ出るのよ!」

 教室の後は、職員室や給湯室、トイレなども見てみたが、特に怪奇現象らしいものに出会うことはなかった。これではただの廃墟探訪だ。
 結局、僕たちは廃墟の中の『これは』と思う場所を各自スマホで撮り、何か心霊写真が写っていないか帰ってから調べることにした。

  *****

「これ、このトイレの壁のシミ、顔っぽくなーい?」
「いやー、これは普通のシミだよー」
 帰り道、後ろの席では、僕の隣で香菜ちゃんと美咲ちゃんがさっき撮った写真を見ながらはしゃいでいる。

 カーラジオからは『キック・ザ・カン・クルー』の『SUMMER SPOT』が流れていた。
 夏にふさわしい、軽快で爽やかな曲だ。

――DIVE INTO THE SUMMER SPOT ♪
  飛び込みな 飛び込みな 早く ♪
  DIVE INTO THE SUMMER SPOT ♪
  もう寒くはない Awesome ♪

「おー寒、ちょっと寒くない?」
 突然、美咲ちゃんが自分で自分の体を抱きしめ、ひじのあたりをさすり始めた。僕もなんだか寒くなってきた。エアコンが効き過ぎているようだ。

 運転席に向かって声をかける。
「ごめん、ちょっと寒いから冷房をゆるい目にしてくれる?」
「……ん? そっか? じゃあもうクーラー止めて窓開けようか」
 開けてくれた窓から、生温かい空気が流れ込んできた。

 ハンドルを握る友が言う。
「……そういやさぁ、怪談とかで、車に乗ってる人が知らないうちに一人増えてるパターンあるよね」

 え? そう言えば……
 僕はあわてて車内の人数をかぞえる。
 1、2、3、4、5……あれ? 一人多くないか?

「……ところで……俺、誰だっけ?」
 運転席のヤツが振り返る。
 その顔には目鼻が無く、つるんとしていた。
 車が道路をそれ、崖から飛び出した。


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