ディープ・リアル【ショートショート】
小さい頃から神童だ天才だと呼ばれていた俺は、独学でAIと画像処理の研究に没頭し、ついに完璧な『モザイク外し』の技術を開発した。
ディープフェイクなどでモザイクの上から別人の性器画像を重ね貼りするようなチャチな技法ではない。
動画の全フレームを解析し、あらゆる角度から見た本人の正確な性器の形を計算で求めるのだ。
俺の解析ロジックは実に完璧なものだった。たまたま流出した本家の無修正版と比較しても、大陰唇小陰唇の色やサイズ、ホクロの位置までが完全に一致していた。
俺は昔から女が、女の体が厭わしかった。ほとんど憎んでいたと言ってもいい。
俺は手当たり次第にAVのモザイクを外して無修正化し、アダルト動画サイトに投稿しまくった。女など何人傷ついたって構わない。
当然本物の局部をさらされた女優やソフトメーカーからは抗議の声が上がったが、俺はどこ吹く風で受け流した。
海外のプロキシを複数経由してアップしているから身元が割れることもない。
俺は一躍ネット上のヒーローになった。ネットの向こうの男たちからの拍手喝采を受け、俺は世間からいっぱしの大人の男として認められたかのような、倒錯した快感を得た。俺のアップの頻度は日に日にエスカレートしていった。
――もうやめよう? こんなことをしていても僕らの心にとって、一つも良いことなんてないよ?
幼い頃から馴染みになっている『頭の中のもう一人の自分』が俺をなじる。
――うるせえ! 口ばっかで何も行動に移せないお前には何も言う権利はねえ!
俺はいつものように力づくでそいつを黙らせる。
そんなある日、俺は警察に捕まった。
警察が俺にたどり着いた理由は教えてくれなかったが、そんなことはどうでもいい。未成年だから実刑を食らうことはないだろう。
じっさいTVのニュースにも顔は出なかった。ベースボールキャップを目深にかぶり連行される俺の顔には、皮肉にもきっちりモザイクがかかっていた。
10日の勾留の後、俺は家に帰された。
PCは証拠品として押収されたが、スマホは内部データの完全なコピーを取られた上で返却された。
久々にスマホのメールボックスを開くと、そこには見ず知らずの誰かからメールが届いていた。
――あの解析プログラムはいただいたよ。キミもモザイクを外される恐怖を知るがいい
メールの末尾には、ある動画サイトのURLが記されていた。
――まずい! 俺の顔が全国に、全世界にさらされてしまう!
恐る恐る動画サイトのURLを開くと、そこにはやはり警察に連行されたときの俺の姿があった。
モザイクはきれいに外され、顔の真ん中少し上には濡れた横向きの女性器が二つ、並んでいた。
サイズも色もホクロの位置も、完全に一致している。
見間違えようもない。
生まれてから何千回と目にして来たそれは、紛れもなく、醜く、厭わしい、俺の。
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