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妄葬【ショートショート】

 長雨はもう七日も続いていた。
 土葬の風習が残るこの街には、雨の日に死者が蘇るという都市伝説がある。

   *****

 一年前、事業に失敗した私は夫婦で妻の地元に転居することになった。
 借金はかなり残っているが二人で頑張ればなんとか返せる額だ。またイチから出直そう。

 妻の両親はすでに他界していたが、妻の実家の一軒家は買い手がみつからずそのままになっている。小さい家だったが二人で住むには充分だった。
 元の住まいの家財道具はほとんど売り払った。ほんの少し残った生活用品を自家用車の後ろに積み込んで、私たちは妻の実家に向かった。

 高速道路を使っても片道5時間かかる旅だった。助手席の妻はいつのまにかすやすやと寝息を立てている。
 いろいろな心労も重なったのだろう。あと1時間少しで目的地に着くが、もう少し寝かせておくか。
 苦労をかけてすまないな、久美子。そう妻の寝顔に語りかけてから正面に視線を戻すと、目の前には大型トラックのテールランプが迫っていた。
 ブレーキは、間に合わなかった。

 後で聞いた話によれば、二人とも頭部の外傷からの出血がひどかったらしい。ただ幸いにも事故現場から脳外科専門病院までの距離が近く、搬送と手術がスムーズにいったことが良かったそうだ。
 私はすぐに病院を出ることができた。妻はしばらく入院することになったが、なんとか一命をとりとめた。

 しかし、それからの妻は様子がまったく変わってしまった。頭の怪我で若干の性格の変化や記憶の混濁があることは聞いていたが、あれほど朗らかだった妻が、こんなにも人との接触を嫌がって引きこもってしまうとは。
 その上……

   *****

 長雨が続いている。
 私は今日も根気よく、妻の実家の呼び鈴を鳴らしドアを優しくコツコツとノックする。

――帰って! アナタはもう死んでいるのよ!
 玄関の中から硬い声が響いた。あとに続くすすり泣きの声。

 妻の妄想は未だに治る気配がないようだ。今やこの土地の都市伝説にすっかりやられてしまっている。
 今日で七日続けて門前払いを食らった。しかし明日には雨は上がる見込みだ。天気とともに、妻の気持ちも少しは晴れてくれるといいが。そうひとりごちながら、私は家を後にした。

 少し休んで、次の雨の日にまた出直そう。


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