方言で歌われる詞の世界 ~コミュニティの観点から~

 ※初めてお越しの方はお手数ですが下記の自己紹介を先にお読みいただければ幸いです。
(敬称は略させていただきます)

【方言で歌われる詞の世界】

やっぱ好きやねん/やしきたかじん
 1986年に発売されたやしきたかじんの13枚目のシングルで、たかじんの代表曲の1つですね。関西弁の歌といえばまずこれが思い浮かびましたが、作詞作曲の鹿紋太郎は東京の方らしいですね。鹿が新曲作りに取り組むときはたかじんの自宅に泊まり込んでいたとか。たかじんのまっすぐな歌声と歌詞が最高に魅力的な曲です。

TSUGARU/吉幾三
 2019年にリリースされた曲です。このミュージックビデオが公開され「何を言っているか分からない」と話題になったそうです。バリバリの津軽弁、難しいですね。しかしさすが吉幾三、ものすごいリズム感とイントネーション、超インパクトのある独特のラップに打ちのめされました。「と・も・子…」が好きなのですが語り部分、面白い一面も心を揺さぶられる一面も。

何なんw/藤井風
 2019年にデジタルリリースされた藤井風のデビューシングルで、「何なん」、「何じゃったん」といった岡山弁が使われております。以前の記事で言葉のリズム感について少し言及しましたが、この曲では言葉の持つイントネーションやグルーヴ感みたいなものを強く感じました。ダンサブルでグルーヴィな曲調に岡山弁の歌詞とイントネーションが最高にマッチしていますね。

オジー自慢のオリオンビール/BEGIN
 2002年にリリースされた『ビギンの島唄~オモトタケオ2~』に収録されている曲です。先日出張で沖縄に行ってまいりまして、島唄居酒屋に伺いました。島唄居酒屋や現地のミュージシャンの方が沖縄民謡を歌って聴かせてくれる居酒屋で、結構な数がありました。うちなーぐちで歌われる沖縄民謡を聴くと「あー、俺沖縄来たんやなぁ」と深く実感しました。

大阪LOVER/DREAMS COME TRUE
 2007年にリリースされたドリカムの38枚目のシングルです。この曲は大阪弁で歌われているのですが、今まで紹介した曲と違い「歌っている主人公は大阪出身ではない」というところが非常に面白いですね。すこしぎこちなさが残る大阪弁に、主人公の愛情や想いが溢れてくるように感じます。私はこの曲とても面白いなぁと感じて聴きますが、皆様どうでしょうか。次の章で少し突っ込んで考えてみましょう。

【コミュニティについて】
 「関西人はエセ関西弁を許せない」ということをお聞きになったことはありますでしょうか。私は関西出身でこれまでずっと関西弁を使ってきていますが、使い慣れていない人の関西弁には確かに違和感を覚えます。しかし聞く人によっては、違和感を覚えるだけではなくイラっとしてしまうことも…。関西弁は「~やねん」のような語尾の変化、「ほかす(捨てる)」といった関西独自の動詞や名詞、加えて独特のイントネーションを持っています。それらを再現するには経験や慣れが必要であり一朝一夕では習得が出来ないもので、これは他の方言も同じことでしょう。つまり方言は「その土地や文化で育った、生きてきたことの象徴」と言ってもいいのではないでしょうか。その中で重要なことが『コミュニティ感』だと思います。関西人にとってエセ関西弁を使われることは、外部者が自身のコミュニティに侵入してくることに近い感覚なのかもしれないですね。またエセ関西弁がテレビやYouTubeなどの媒体を通して発信されることに対して、外部者により自身のコミュニティに関して曖昧かつ誤った文化の情報を流されてしまうと感じるのではないでしょうか。 
 このように方言には「育った土地」、「所属するコミュニティ」を表すという側面があると考えましたが、方言で歌われる曲が数多く存在します。昔は今ほど人の行き来がありませんし情報社会ではなかったのでどの土地においても方言はあり、古くから歌われている民謡はその土地の方言で歌われていることが多いように感じます。しかし、現在標準語が広く使われる音楽シーンの中でも、前述の通り方言で歌われる歌があります。先ほど述べた方言の側面から、方言で歌われる効果(印象?)には三つあると私は考えました。
 まず一つは「コミュニティへの所属感を強める」ということです。関西の年配の方に好きな曲を聴くと大阪がテーマの歌、また関西弁で歌われている歌が多く上がることがあります。それは、自身の生まれ育った土地や文化が魅力的に表現されている関西弁の曲を聴くと「自身がそのコミュニティに所属している喜び」を再確認できることに理由があるのではないかと思います。また方言で歌われる民謡や伝統音楽は、その土地の者なら知っている、歌える、踊れるという認識が少なからずあるように感じ、自身のコミュニティの範囲を限定するとともに、所属する人達の結束を強めるような働きがあるのではないでしょうか。
 二つ目は「コミュニティを外部に発信する」ということです。特に最近の歌で方言が入っているものはこのパターンが多いのではないでしょうか。自身の所属しているコミュニティを世に知らせると同時に、その魅力を広く一般に伝える、その際に方言は大きな役割を担い、聴き手は普段聞きなれない言葉に対する新鮮さを感じることが出来ると思われます。
 三つ目は「方言がより話し言葉に近い」ということです。一つ目の「コミュニティへの所属感」にも少し繋がりますが、馴染み深く普段から使っている言葉は、歌い側からすると思いをまっすぐに伝えることが出来ますし、聴く側からするとより心に染みこむのではないでしょうか。歌詞は言葉であり、何かメッセージを伝える目的があるのであれば、伝わるように書き歌うのが良いのではないかと感じます。
 このように方言には様々な効果がありますが、これらの効果を『テクニック』として歌詞を書いてしまうのは少しナンセンスかもしれないと自分自身では思います。自身が歌詞を書くとき、曲や歌にマッチし、かつ聴き手に言葉をどう届けるか、その思い巡らしの中で必然的に発生してくる言葉が方言であれば、素敵な歌詞が書けるのかもしれません。

【最後に】
 本当は方言の音韻やグルーヴについても少し話をしたかったのですが、ここまでで十分長いですね、いつもこの段階で反省です。方言で歌うことにより、語感を強くしたり弱くしたり、雰囲気をしっとりさせたり色んな効果があると思い、それも方言の大きな魅力ですよね。このことはまたいつか話しましょう。
 ふと思いました、ニュース番組でキャスターが関西弁で話し始めたら…。多分違和感だらけで私にも伝わらないように思います。方言で話す環境、場面についても色々考えると、「この歌はどういう目的があって方言で歌われているのだろう」、「この歌が方言で歌われていることでどんな印象があるのだろう」とか、面白くなりそうです。そして、自分の方言は大切にしようと思いましたね。
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 2024年もどうぞよろしくお願いいたします。
 3月に新曲が出ると思います。

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