依存性強化チョコレートの作り方と仮説~あなたのハートは私のもの~

オフ会でカカオを栽培しようという話になった。

当初は某国の農園から直輸入する予定だったが、荷物の紛失リスク等を加味して国内の業者から購入することにした。この話の続きはいずれ書く予定。

今回はこれとは少し別で育て方についての記事だ。オフ会のS氏と話をしていて「カカオ豆の購入希望者が予想以上に多い。依存性のある食べ物はやはり人気だ」という話になった。
ここで閃いた。

ぼく「チョコレートはチョコレート依存症という言葉があるくらいには依存性のある食べ物…!ならば育成過程で依存性を強化することもできるのでは…?」

前回の記事で「カカオは高温多湿にしないと育たない」ということがわかった。どうせ栽培コストが高いなら依存性を強化してみようと思った。とても上手くいけば最高に依存度の高いチョコレートが作れる。

「バレンタインデーは憧れのあの先輩に渡したい…!でも…!彼は人気…!高嶺の花…!有象無象の泥棒猫が多すぎる…!この依存性強化チョコレートを渡せば…!塵芥どもなど取るに足らない…!あなたのハートは私のもの…!ずっと一緒にいようね…!」

理想はこんな感じである(文章を恋する乙女風に書こうとしたらカイジ風になった。ヤンデレが混ざってるのは私の趣味)。
憧れのあの先輩が「あのチョコレートをもう一回くれよ!めっちゃ美味いんだ!」と言ってくるようになるまでが理想だ。チョコレートに大麻やヘロインを混ぜたら流石に違法だが、カカオ由来の成分を強化しているだけである。何の問題もない。


そしてなにより、イギリスにはこのような諺がある。


「恋愛と戦争は手段を選ばず」

そんなわけでチョコレート依存症や何の成分が依存をもたらすのかについて調べてみた。なお、これは仮説であって実際にそうなるかは実験してみないとわからない。

そもそも何が依存をもたらすのか?

チョコレートは、気がついたらバクバク食べている印象のある食べ物だ。買ってきたら一瞬で無くなっている。
Googleで「chocolate addiction」と調べてみる。すると「Chocoholic」というWikipediaの記事が出たのでそれを読んだ。わざわざ単語として存在するくらいなので、メジャーな依存性なのだろう。

チョコレートには砂糖と脂肪が多く含まれているから依存性が高い
これは確かにあると思う。砂糖には強烈な依存症があるのは事実だ。ただ、砂糖と脂肪の両方が含まれる食べ物は世の中にいくらでもある。ショートケーキだって砂糖と脂肪の塊だ。でも「ケーキ依存症」という言葉はあまり聞かない。もう少し記事を読んでみる。

チョコレートに含まれるフェネチルアミンは別名「チョコレート・アンフェタミン」と呼ばれるくらいには強い依存性を持つ
アンフェタミンは覚せい剤こと、メタンフェタミンに近い作用を持つ物質である。その名前を冠しているのは依存性が強いことの証だ。
何故そんなに依存性の強い物質が含まれているのにチョコレートは合法なのかと言うと、含有量が少なくてしかもすぐに代謝されて脳内に蓄積しないからである。また、このフェネチルアミンは「恋する時に脳内に出る物質」でもある。恋愛している時に頭がおかしくなるのは(あばたもえくぼ)、これが原因。優秀な脳内麻薬じゃないか。

他にも調べるとアナンドミドやトリプトファンなど、依存性が高めの物質は見つかったがアナンドミドは合成経路がよくわからなかった、トリプトファンはそんなに依存性が高くないので強化対象としては見送った。

次はフェネチルアミンの合成経路について紹介する

フェネチルアミンを強化しよう

結論を先に言えば、D-フェニルアラニンからフェネチルアミンは作られる。合成経路は以下の図を参照。

ダウンロード (2)


フェネチルアミンはアルカロイドの一種なので、アルカロイドの前駆体をカカオの苗木に投与すれば体内の生合成で作ると仮説を立てた。
「アルカロイドの前駆体を植物に食べさせて、アルカロイドを生産」という手法は「雑草で酔う」で紹介されたクリプトファンの手法を参考にした。

クリプトファンとは、トリプトファンを植物に与えてインドール系のアルカロイドを植物体内で生産させるという内容だ。この手法自体が麦角菌にトリプトファンを与えてLSDの前駆体を作るのを参考にして作られている。クリプトファンからヒントを得てこの方法が思いついた。

フェニルアラニンはアミノ酸の一種だ。アミノ酸にはL体とD体があり、動物と植物はL体しか生産ができない。D体は化学合成、もしくは一部の菌のみが生産できる。では、カカオはどこからD-フェニルアラニンを生成しているのか疑問に思った。菌由来か?


なぜ、これを気にしているのかと言うと「L-フェニルアラニンを与えたら勝手に植物体内でD体に変換してくれるのか?」、「D-フェニルアラニンを与えないとフェネチルアミンは生産してくれないのか?」という問題が生じるから。前者なら比較的安価なL-フェニルアラニンのサプリメントを水に溶かして与えればいいが、後者だと割高なD-フェニルアラニンのサプリメントを買う必要がある。

「両方与えてみればいい」と思ったので、今回はDL体のフェニルアラニンを買った。

フェニルアラニン水溶液をカカオに与えたところで、カカオに含まれるフェネチルアミンはせいぜい2~3倍程度にしかならないと予想している。
この数字の根拠は高糖度トマトが普通のトマトの2倍くらいの糖度になるのが限界という点で予想(普通のトマトの糖度が7~8くらいで高糖度トマトの糖度は17、どんなに頑張っても20が限界。糖度とフェネチルアミンは全く別物だが「どれくらい成分を濃縮できるか」の目安としては参考になると思う)。

「フェネチルアミンは菌由来の生産が多い」とWikipedia(英語版は調べものをするのに便利)にあったので、今度は菌について紹介する。

面倒なことは菌にやらせよう

チョコレートは醗酵食品である。カカオを収穫後にバナナの葉をかぶせたり、木の箱に入れたりして醗酵させた後に水分を飛ばしたものがカカオ豆だ。
フェネチルアミンは「醗酵前のカカオに含まれているのか」、「醗酵後に合成されるのか」のどちらなのかよくわからなかったので(「cacao」だけだと醗酵前も後も両方の意味を含む)、醗酵前も後も何かしらの対応をすればいいと考えた。
「菌類の中でも、Lactobacillus属、Clostridium属、Pseudomonus属が特に生産する」とのこと。この中で一番使いやすい菌類がLactobacillus属でヨーグルト等に含まれている菌だ(Clostridium属、Pseudomonus属は食品にあまり含まれていないので、菌の採取が難しい)。いわゆる乳酸菌の一種である。ヨーグルトの中でも明治ブルガリアヨーグルトはLactobacillus bulgaricusが含まれているので、そこから種菌を取ればいいと予想。

フェネチルアミンを効率よく生産する菌類の選別や培養をすれば、更に依存性を強化できる。実際はそんな予算も時間も無いので「なるべく効率よく生産してくれるであろう菌を市販品から取ってくる」ことにした。
色々な菌を試して香りや味を変えるのも楽しそう。

予算が無限にあるなら、世界中に探検隊を派遣して効率よくフェネチルアミンを生産する菌を見つけたい。
余談だが、カルピスは創業者がモンゴルかどこかで拾ってきた菌を継ぎ足して生産しているだけなので、探検隊を派遣して菌を拾ってくるという手法自体は悪くない。イー〇ン・マスクに出資して欲しい。

「菌を選抜したところで、どのくらい生産効率が上がるのか?」
これは確かに大事である。青カビ由来のペニシリンは発見当初と比較して生産効率は2,000倍になったが、この数字を達成するのに50年以上かかっている。現実問題、短期間でこんなに効率を上げるのは不可能だ。

バイオエタノールを生産する菌の選抜で1.3~1.8倍くらいだったような気がする(出典は忘れた)ので、それを目安にする。
醗酵は温度や湿度などの環境を整えたらやることがあまりない。せいぜい、醗酵過程に応じてかき混ぜるなどを行う程度。モーツァルトを聞かせるとか、毎日優しい言葉をかけて労をねぎらうとか非科学的な手法ばかり思いついた。

チョコレートに含まれるフェネチルアミンについて調べていたら「カカオハスクには高濃度のフェネチルアミンが含まれる」と情報があったので、次はこれについて語る。

廃棄物から薬物

カカオハスクとはカカオ豆の外皮のことで、カカオ豆の約3割はカカオハスクである。カカオハスクは繊維質で食べられたものではないので、通常は産業廃棄物扱いである。
一応、煮出してお茶にしたり、肥料や燻製のチップとして使ったりと用途はあるにはあるのだが廃棄が一番安いのだと思う。カカオ茶が売っているのをあまり見ないので。

ところがどっこい、色々調べているとカカオハスクにはフェネチルアミンが高濃度で含まれていると情報を見つけた。以下出典。

ココア粉末と比較して、カカオハスクから抽出したフェネチルアミンの量は20~30倍とのこと。更にフェネチルアミンはアルコールに溶けやすいと情報を得た。ここで方法が思いつく。


カカオハスクを適当な蒸留酒でお茶のように煮出しして、アルコールにフェネチルアミンを溶かす。

アルコールに溶かしたフェネチルアミンをウイスキーボンボンの要領でチョコレートを作る。

「適当な蒸留酒」は個人の好みで選べばよい。焼酎、ウイスキー、ジン、ウォッカ、ラムなどが挙げられる。「蒸留酒に含まれる成分でフェネチルアミンが分解されるのが心配」なら、アルコール度数97%のスピリタスを使えば比較的安全である。ただ、スピリタスだとアルコール度数が高すぎて量を入れられないので、どっこいどっこいな気はする。多少フェネチルアミンが分解されたとしても、消毒液みたいな酒を使うよりはウイスキーを使った方が美味しそう。
カカオハスクの香りと各種蒸留酒の相性は全く考えていないので、香りや味が心配な人は比較的どの割り材にでも合うウォッカを使うのが無難だと思う。

アルコールに溶かしたフェネチルアミンの抽出方法を知りたい。このままでは憧れの先輩が下戸だった場合、射止めることができなくなってしまう。
実験器具をあまり揃えなくてもできる方法だと、蒸留酒に溶かしてそれをウイスキーボンボンにするという方法が一番安価だとは思う。

フェニルアラニンをカカオに投与して育てる(×2~3)、フェネチルアミンを効率よく生産する菌を使う(×1.3~1.8倍)、カカオハスクからフェネチルアミンを抽出(×20~30倍)で全てかけ算をして、フェネチルアミンを52~162倍、依存性強化チョコレートができるのではと予測した。
あくまで仮説は仮説なので、ここまで濃縮できるかは怪しい。この記事の目的は調べたことのメモと共有である。

カカオ茶を蒸留酒で煮出しして、ウイスキーボンボンを作ればそれに近いことはできる筈。こちらの方がお手軽。

まとめ

英語で調べたり、論文を読んだりと予想以上に本格的になった。調べたことに労力は使ったが、企業秘密にする程の内容でもないのでインターネットに公開する。知識は共有しないと簡単に忘れられてしまう。


最古の人工顔料、エジプシャンブルーは紀元前3,000年には製造されていたが、製造方法を後世に残さなかったせいで製造方法が再発見されたのは1,800年代に入ってからだ。
ビタミンCは500年間で7回も再発見されている。これも全て情報を見知らぬ誰かと共有できていれば防げた回り道である(最近になってやっと、知識の共有が簡単にできる技術、法律、制度が整備されたからなんだけど)。

もっと手法を洗練させたい。集合知は偉大だ。

手作りチョコレート(市販品を溶かして固めただけのものとは違う)、高濃度フェネチルアミン依存性強化チョコレートの合わせ技で、憧れの先輩を堕とそう!

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