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『おはなししよう』


「こういうの変だと思うの」
リェイジャは1冊の古本を読み終えると、目の前の友達、クオェウハを見る。
「確かに、歴史の一部において、君の種族は悪者とされていた」
クオェウハの銀色の眼、とても透き通っている。リェイジャはその奥を思う。
「『あかずきんちゃん』も、『七匹の子ヤギ』も、あなたがそんなにがっかりするなら、私がお話を書く」
そう言いながら、リェイジャは長い耳をぴくぴくさせ、うれしそうに『国語ノート』にひとつの物語を書き上げた。
「では、今からお話します。いい?ちゃんと聞くのよ!あるところに狼がいて、とっても強くて優しくて、みんなのヒーローになって、ロボットパンチを繰り出して!悪い奴から火星を護るの!」
勢いのあまり粗筋を全部言ってしまう元気な小兎。そんな子のために、狼は月面コロニーの『草原絨毯』に寝転ぶ。こうすればリェイジャと同じ目線でいられるから。
兎のリェイジャはクオェウハに頬ずりする。「私を食べてもいいのよ」
あははははは!狼が大口をガバッと開けて笑う。ナイフの様な牙が並ぶ。
「『昔々。ファンタジーの神と名のる、1基の惑星人工知能システムが人類から我々を別けて久しく』」クオェウハがこの世界創生の一行目を暗唱する。コロニーの幼稚園生でも知っていることばだ。
天蓋にはきらきら光る、星々。
「君のお話を聴きたい。君の言葉で、君の声で」
狼は、兎の耳にキスをした。

(了)

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