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彼らの残した「足跡」を探す。

彼女は「ログインしているかがわかる機能が好き!」と言った。
私は「今かぶってる! やったね!」と言った。
遠く離れた土地にある端末の画面越し、久しぶりの出会いに顔が綻んだ。

突然いなくなった彼女が、戻ってきた。


−−−


ネット上で一言二言交わしただけでも、印象は強く残る。
私が前の職場に着いて少ししてから始めたSNSがあって、そこで知り合った人がいる。私はその人のことを「太陽」と称したことがあった。
常に元気いっぱいの投稿、反応がとても面白く、何事にも全力で挑み、友達もたくさんいた。
彼らが「成人」のくくりに該当する20歳を超えたあたりから、この場所の動きが鈍ってきた。それぞれが思い出したように戻ってきては少しだけ「足跡」を残し、また離れていくといった具合。私は彼らよりも年上で、知り合った頃すでに20歳前後だった。
私も退会しては戻るを繰り返したことがある。一度目は「真面目に小説を書く」と言って退会して約5日で我慢できずに登録し直した。その後はいたりいなかったりの繰り返し、つまり放置したままで何年過ぎたかわからない。通り過ぎた過去のことだ。
「確認してすぐに戻る」をする、ログインするだけの状態が長く続いた。

そのSNS自体はパソコン版のサービスを終了して機能不全(?)に陥りかけている。動かしにくい専用アプリ版と、まだまともに動いているブラウザ版でなんとか繋いでいるといった状態。しかし専用アプリ版は評判が悪い。私はブラウザで検索して接続しているけど、これも結構めんどくさい。

彼女との初めての「リアルな出会い」は2014年3月末だったか。私が前の職場を辞める4ヶ月前のこと。
人見知り全開の私は顔と名前を一致させるのにものすごく苦労し、そこに「いさせてもらっている」のが申し訳ないくらいに小さくなっていた。

2015年頃から動きが急に鈍くなったのは上記の理由。それぞれの事情と、たのしかった場所を「離れる時期」が来たから。
冒頭に上げた彼女が音信不通になったのは理由があるけど、ここでは伏せる。思い切った行動すぎて周りの反応も様々。私ももちろん困惑し、混乱もした。

しかし、彼女は2018年あたりに「こっそり」戻ってきていた。
私が連絡をもらったのは2019年の6月半ばだった。というか私が先に気づいたようなものだけど、もうこのSNSの利用者は限りなく少なくなっているということもあって「確認」されなかったのだと言い聞かせた。
そのSNSは足跡機能(ページに飛んだらつくもの)があり、いつもの癖で確認した。見た覚えのある名前、画像は当然本人を写したものではないから、本人かどうかまではページに飛ぶまでわからないという。
何回か「足跡」を見て、綴られた日記を読み、私は彼女を「本人」と認識した。適当な理由で去っていったわけではないと判断し、友達申請をした。私の投稿は「友達のみ」の公開にしていたので、それ以外の人はなにがあっても見られないようにした。

私が日記を投稿したのは2017年7月。そこにもきちんとコメントを残してくれた。内容は一言もなく去っていったのに、どうして戻ってきたのだと咎めるような内容。
彼女もその後で去っていった理由を日記に書いてくれた。読むだけ読んで伝言板に感想を残しておこうとなって、対応を待った。

「誤解させちゃって申し訳ない…」


−−−


時は過ぎて2020年。呼び方は昔と変わっていなかったことが嬉しかった。私は彼女の本名を知っていて、おそらく彼女も私の本名を知っている、と思う。
「アスカさん」「飛鳥姉さん」彼女は私をこう呼ぶ。
私も昔の呼び方を書いた。「くすぐったい」と返答があった。
懐かしい呼び方に昔を思い出しつつ、くすぐったさを覚えたのならなおいい。思い出したように戻ってきてくれるのであれば、表面上では忘れていても「どこかでまだ覚えている」ということ。
昔のようには戻れないけど、と彼女は言っていたし、私も戻れないと思っている。時間旅行はできないし、思い出話に花を咲かせるくらいしか。

彼女の残した「足跡」を探す。彼女と話せるのはそこしかないから、行って「足跡」を残す。
もちろん誰もいなくても行く。

もう「秘密基地」化している。廃墟の基地みたいな感じ。進歩するサービスもあれば、風化していくサービスもある。
昔に集まっていた人たちは現実に向かっていき、ここに戻ってくることはもうないのかもしれない。

再開は2年くらい前に果たしているけど、それより前にあるのは6年以上も前のこと。


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#冒頭3行選手権  で書いたのはこれのことです。
真面目に書いてもいいけど、公開はめちゃくちゃ遅くなるような気がしますし、公開せずに蓋をするかもしれません。

「また会ったね」なのか「久しぶり」なのか「もう会えないのかと思った」なのか。

いただいたサポートは「自分探し(できてないけど)」のために使わせていただければなぁと思ってます。