うるぽろのショートショート9日目:放課後のクイズ
目が覚めると、アユミは真っ暗な部屋の中にいた。
両手は椅子の背後に縛られ、足はしっかり固定されている。
感覚が戻るにつれて、ここが自分の卒業した高校の教室だと気付く。
だが、どうしてここにいるのか、まったく思い出せない。
彼女があたりを見渡していると、突然、教室内に賑やかな音楽が鳴り響いた。
音の出どころは教卓の上にあるスピーカー。キーンというマイクのノイズのあと、男性の声が教室中に響き渡る。
「クイズ!あなたが正解!」
そのタイトルコールを聞いて、彼女はさらに混乱した。明らかに異様な状況で、なぜ私はクイズに答えることになっているのか…。
「クイズのルールは簡単。必ず正解すること。間違えたら、あなたはここで死ぬ。」
彼女の心臓は跳ね上がり、恐怖が全身を駆け巡った。
「でも大丈夫。クイズはとーっても簡単です。なぜなら、あなたが答えたものが正解だからです!」
「え…どういう…」
彼女の質問を遮るかのように司会者は淡々と続ける。
「では、第一問。日本で一番大きな山は?」
簡単な質問だったが、彼女の頭は混乱しており真っ白だった。とにかく、答えなければならないことだけは理解できる。
彼女は絞り出すように答えた。
「……富士山……」
一瞬の沈黙の後、スピーカーから元気な声が返ってきた。
「ピンポーン!大正解!」
彼女はほっと一息ついたが、同時に次の問題への不安が膨らんでいく。
「第二問」と男性の声が再び響き、次の質問が出される。彼女はまたも答えるが、その瞬間、胸がざわめいた。
実に簡単な質問ばかりが続いていたのだ。
「第三問。あなたの娘のフルネームは?」
彼女は心臓が止まりそうになったと同時に、このクイズがただのゲームではないと確信した。
彼女は震えながら答えた。
「ナガノ、ユキ……」
「ピンポーン!正解!」
再び元気な声が響くが、彼女は焦燥感に包まれていた。
娘の名前が出されたことで、ユキに何かが起こるのではないかという恐怖がこみ上げてきたのだ。
この世でたった1人の、私の最愛の娘。
司会者が次の問題を出す。
「第四問。あなたの名前は?」
「ナガノアユミよ!あなたは、誰なの?何のためにこんなことを…!」
娘に何かあったらと思うと、冷静ではいられない。早くここを脱出しなければー。
彼女は脱出を試みようとモゾモゾと手足を動かすが、硬く縛られた紐に阻まれてしまう。
「ピンポーン!正解。それでは、最終問題だ。」
今までとは打って変わって司会者の低く真剣な声色が、教室の空気を重々しくした。
「第五問。ユキちゃんの、お父さんのフルネームは?」
その問いに彼女は凍りついた。
答えたくない。同時に、あぁ、ついにこの日が来てしまったかと落胆する。
彼女は心の中で葛藤し、ついに口を開いた。
「……ハセベコタロウ……」
長い沈黙の後、教室の扉がガララと音を立てて開かれた。
そこに立っていたのは、彼女の娘ユキと、同級生の男子だった。
「お母さん、どういうこと……?ハセベコタロウって……誰?お父さんの名前は、ナガノキョウヤでしょ…?」
ユキの声は震え、目には困惑と怒りが入り混じっていた。
その後、男子が続けて言った。
「やっぱりな。ユキちゃん、君は浮気で出来た子なんだよ。だから、別れよう。」
それはまさしく、スピーカーから聞こえてきたクイズ司会者の声だった。
「そんな…」と、ユキは涙目を浮かべている。
男子はゆっくりとアユミに近付き、カッターナイフで手足の拘束を解いた。
「おばさん、手荒なマネをして悪かったよ。じゃあ、俺は帰るから。」
そう言い、男子は何事も無かったかのように立ち去った。
教室には母と娘。2人の影が月明かりに照らされて、弱々しい影をつくっている。
「ユキちゃん、今まであなたに隠し事をしていてごめんなさいね。こんなことをしないといけないほど、お母さんはあなたを追い詰めていたのね…」
そして、ふと疑問がよぎる。
「だけど、…なぜ浮気のことをあなたが知っているの?」
ユキは赤い目を擦りながら答える。
「彼のお父さんの遺品整理をしている時に、見つけちゃったんだって。17年前に届いた、お母さんからの手紙。」
「え…?」
「彼の名前。ハセベヨシトっていうの。お母さんが浮気してたのは、亡くなった彼のお父さんなんだよ。」
そこでアユミは全てを悟った。
そして、彼女は深い息をつき「良かった…」と心の中で呟く。
本当の秘密は守られたのだから。
17年前。私たち夫婦は子どもを授かることが出来ないと分かった時、絶望した。
そんな中、SNS上で知った『遺伝子提供者』の存在。
ユキは、遺伝子提供者「ハセベコタロウ」との取引で授かった子だったのだ。
そう、「浮気」なんかじゃない。ユキは私と夫の子どもなのだ。誰が何と言おうと。
ハセベコタロウの子どもが、別世帯に300人を超えていたとしても…。
作品解説
どんな形であっても、我が子を愛する母親のお話です。
ヨシトくんとユキちゃんはハセベコタロウの遺伝子を受け継いでいるので、事実上のきょうだいになります。
2人はそのことに気付いて、この計画を企てました。
うーん。自分で作ったお話ながら、この後の展開を考えると残酷で…胸が苦しくなってしまいました。
公開するか迷いましたが、これは作り話だということで割り切ることにしました。
楽しんでいただけましたら嬉しいです。
表紙のイラストは、クイズを出題するヨシトくんでした。
父親を亡くしたうえに、「もしかしたら自分と恋人は血が繋がっているのかもしれない…」と気付いてしまったので、自暴自棄になっています。
※noteはアカウントを持っていなくても、ログインしていなくても「いいね」を押すことが出来ます。
創作の励みになりますので、ぜひどなた様も「いいね」を宜しくお願いします!