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エロイカ変奏曲

 大学生のときに最も印象に残った本は、間違いなくこの本です。
 とはいっても、ものすごく感動的なストーリーというわけでもないし、友人に「これが一番好き」と言って貸しても「自分にはよくわからなかった」と言われ、確かにそういう本であるとは思います。

「あれはもう、常識の欠落なんてもんじゃない。何もかもが欠落してるんだ」
(本文より)
 ……にしても、ひどい言い様……。

 多分、この物語は不完全なのだと思います。
 作者が初期のころに書いた話であり、どちらかというとメインは書き手とピアニストとの会話であり、ただそれだけでは小説にならないから無理やり設定を作って小説の形に収めた、そんな印象を受けないでもありません。
 しかし、それでいいのです。なぜなら「不完全さ」がこの小説のテーマでもあるからです。不完全である者が、自分のあるべき姿を目指すために目覚めるまでの過程を描いた作品なので(と私は思う)、これでいいのです。

「――たいていの人は、ただ生きているだけで、そして、それはそれでいいのよ。ただこの世の中には、ほんのわずかだけ、宿命を背負った人々がいるのよ」
(本文より)

 いつの間にやら「中二病」とかいう言葉がはやっていて、なんだかよくわからないなあと思いつつグーグルで調べてみたら、「自分のことを特別な使命を持った人だと勘違いすること」みたいなことが書かれています。
 興味がないから、「中二病」がどのような状況で使われている言葉なのかあまり考えていなかったのですが、その定義でいくなら、これに出てくる「真木五木」という女性は間違いなく中二病でしょう。しかし、なんか文句あんの? と言いたくもなります。
 おそらく中二病というのは、そういう人のことをさげすむ言葉として使われているのだろうけれども、私からしてみると、同じ会社に何十年も勤めているのに、人に言われたことしかできない、考えることを放棄した、毎日通勤さえして上司の言うことだけ聞いてれば年功序列で給料も上がり馘首されることもなく、「出世には興味ない」という顔をしながら向上心を失った人々は、「終わった人」に見えるし、そういう人たちが「あの人は自分のことを特別だと思ってて」とか、そういう人たちが放棄した仕事を黙々と片付ける人をみて「楽しそうにしてる」などと他人事のように言っているのです。そういうのを見ていると、「生きてて楽しいですか?」の一言も言いたくなってしまいたくなるものです。

……なんだか話がおそろしく脱線してしまいましたが、一度は読んでみて損はない本です。今読むと「若いっていいな!」って感想になったりもしますが。
 ぜひ、ピアノの「エロイカ変奏曲」をBGMに読んでみてほしいものです。

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