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#69 天の川

 今日は、七夕である。七夕の話題も限りなくあるのだが、今回は天の川の話を書いておきたい。筆者の記憶の中では、中国西域、シルクロードの砂漠で見上げた天の川と、小学校低学年の頃に青森の実家の前で見上げた天の川が鮮明に残っている。特に、何度目かの中国旅行で訪れた新疆ウイグル自治区キジル千仏洞の近くで見上げた夜空の美しさは生涯忘れえないであろう。クチャ県に所在するキジル千仏洞は、西域を代表する石窟寺院であり、極彩色の仏教壁画が残されていることで著名である。1998年にも一度訪れていたが、この際は近くに宿泊施設などなく、アクスからバスで道なき道を8時間近くかけて走り、キジル千仏洞を見学後、近傍のクチャに泊ったのか、コルラまでやはり何時間もかけて行ったのか記憶は定かでない。二度目はすでに2000年代に入っていたが、この時はキジル千仏洞の敷地内にバラックのような宿泊施設が出来上がっていて、夜にツアー団長の先生の一部屋に集まって酒を飲んだ後、それぞれの部屋に戻る際に偶然夜空を見上げたのであった。
 降るような星空とは、まさにこのことを言うのかと感じ入ったが、筆舌に尽くしがたいとはその通りであり、言葉ではとても表現できない。手を伸ばせば触れそうなほどに星が近くに見えたのである。とにかく見える星の数が多すぎて、天の川もくっきり白く見えていた。英語のMilky Way(ミルクの河)とは言い得て妙である。シルクロードの砂漠地帯は空気が乾燥するため、特に綺麗に見えるのではあろうが、周囲に光がないとはこういうことかと体感できたのはいい経験であった。
 子供の頃に青森の実家で見た天の川も記憶にあるが、もちろんシルクロードほどの美しさではなかった。それでもぼんやりと白っぽい光のかたまりが見えていて、たしか夏休みだったと思うが、同世代のお向かいさんとともに夜空を見上げて、あれが天の川で、あれは星座で、などと話したことを憶えている。北半球では夏の方が天の川は鮮明に見えるという。当時は1980年代の前半だったはずであり、青森市の郊外ではまだ天の川が見えるほど周囲に光が少なかったのであろう。一般的に、我が国で天の川が見れなくなるのは高度成長期の1970年代と言われており、都市部の夜間の光が多くなることに由来する。ということは、それまでは天の川が見えるほどに夜空が美しかったということでもあり、今でも田舎に行けば美しい夜空はそのままである。

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