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うろこ流! 小説の書き方講座 #7[地の文と会話文、ちょうどいいバランスって?]

 どもどもー! 「苗字でキラキラネーム気取りとは斬新ですね」でお馴染み洞施(うろせ)うろこです。
 いつもはボーイズがいちゃこらするWEB小説を書いたり、そのボーイズの絵を描いたりしながらTwitterや投稿サイトをふらついています。

 小説書き歴が長い素人が初心者の方に送る小説講座。七回目の今回はTwitterでいただいたテーマ『地の文と会話文のバランス』についてお話したいと思います。れっつどぅいっ!


第七回『地の文と会話文、ちょうどいいバランスって?』

 今回のテーマですが、これがなかなか難しいお話だったりします。

 何せ千差万別。作家の個性が出るところでもあるので『ちょうどいい』が測りづらい。手紙方式で書かれる小説というものもあるので、もうこれ全部会話文とみなしていいんじゃ……なんて思っちゃいますよね。

 というわけで、まずは単純な統計データを取ってみましょう。



・文学作品ってどんな感じ?

 今回はサクッと文学作品をいくつか選んで【小説形態素解析CGI】というサイトにて解析してみました。

https://ennach.sakura.ne.jp/Morph/

 分析に使うのは著作権の切れた作品です。青空文庫さんありがとう!

https://www.aozora.gr.jp/


*坂口安吾『白痴』

 いきなり濃い目のチョイスですが、短編と言ったら坂口安吾という印象があるので……
 ちなみに結果はこうです。

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 いや地の文多いっすね! 97:2!!?
 重厚な語り口ではありますが、ここまで極端に差が出るとは意外でした。

 白痴は中盤からの急展開とそれによって強まる虚無感がいいですよ。最後の場面での主人公伊沢は、白痴の女とどれだけの違いがあるというんでしょうかね。なんて。



*江戸川乱歩『D坂の殺人事件』

 みんな大好き明智小五郎! 推理小説ということもあるので、そこそこ会話も多そうです。

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 51:48……ほぼ半々という結果になりました。読んでみると長い台詞が多く感じられますね。

 D坂って明智小五郎初登場の話でしたっけ? じとっと妖艶さが漂う日本らしい雰囲気の推理小説です。



*梶井基次郎『檸檬』

 爆弾!(違います)こちらは単純に好きな作家という理由で選びました。

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 これも97:2。とは言っても文体が柔らかくもあるので、読んでいてそれほど重さは感じませんね。

 檸檬は置き去りにする檸檬を爆弾に見立てるラストシーンが印象的過ぎるせいでやけにおかしな見方をされている気がしますが、自分でもどうにもならない鬱屈からほんの僅かだけ逃れる瞬間を切り取った(且つ、その爽快感を檸檬の香りの清涼感に乗せている)作品なんですよ!! と、好き過ぎて語ったり……



*夏目漱石『夢十夜』

 こんな夢を見たオムニバス。夏目先生はNTR属s……げふんげふん。

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 92:7。オムニバスだしショートショートだし、という面もあるかもしれないですね。

 第一夜の待ち続ける美しさと、第四夜の待ち続ける不気味さがとてもいい感じの対比になっているような気がします。

 今回は短編に絞っているのもありますが、文学作品は地の文が多めな印象ですね。
 同じ比率でも『白痴』と『檸檬』では読んだ感覚の重さが違うので、地の文でだいぶ違いが出ているなぁと思いました。



・WEB小説は?

 WEB小説に関してはかなり差が激しそうなので、なろう作品のランキングからランダムに選びました。
 地の文:台詞の比率です。

*作品A(短編・ライトな読み口)
 80:19

*作品B(長編序盤・ライトな読み口)
 79:20

*作品C(長編序盤・しっかりした読み口)
 76:23

*作品D(長編序盤・しっかりした読み口)
 84:15

*作品E(短編・台詞多い印象)
 47:52

*作品F(長編序盤・台詞多い印象)
 50:49

 ライトな読み口の作品も、しっかりした読み口の作品もあまり比率は変わりませんね。
 半々になってくると台詞が多い印象になるみたいです。作品E・Fは6、7個の台詞が繋がっている場面もありました。



・うろこは?

 オマケ程度に自作も調べて見ました。

*作品A(短編)
 63:36

*作品B(短編)
 76:23

*作品C(中編序盤)
 80:19

*作品D(長編序盤)
 78:21

 短編は台詞多めな印象ですね。だいぶコメディチックなものを選んだからというのもあるかもしれないです。



・統計中に思ったこと。

 形態素解析では単純に文字数での比率しか出ていないので、長台詞があるとそれだけ台詞の個数は減ります。なので、数字だけではいまいち分からない部分もありますね。

 文学作品は概ね地の文が9割以上になっています。『D坂~』はほぼ半々でしたが、こちらは長台詞が多く、台詞ばかりという印象はなかったです。

 WEB小説では大体8:2くらい。作品Cの結果が意外だったんですけど、おそらく長台詞がぽつぽつとあったからでしょう。
 半々になると台詞が多いという印象になりました。作品E・Fともに長台詞はほとんどありませんでしたね。



・つまり最適バランスは?

 台詞の長さにもよるので一概には言えないですが、純文学だと『地の文9:会話1』
 ライトノベルであったりWEB小説だったりすると『地の文8:会話2』くらいが適切かと思います。
 半々の比率だと、余程の長台詞でもない限りは会話が多いと感じるようです。



・こうなっているとバランスが……

 比率は大体分かりました。が、必ずしも比率が合っていればいいわけではないですね。

 もしも、台詞が一部に集中していたらどうなるでしょう。

例:
 店に入ると香ばしい匂いが鼻をくすぐった。焼き立てのパンの匂い。
 正午になる三十分前。まだ店内は空いていて、かつ、ランチタイムに合わせたパン達が焼き上げられ店頭に並ぶ。昼食のお供をゆっくり選ぶには絶好の時間なのである。
 今日も今日とてふっくら柔らかそうな白パン。その隣にはカリッと揚げられたスパイシーな香りのカレーパン。振り返った棚には歯ごたえが堪らないバゲットと、さっくりとした食感とバターが見事に調和したクロワッサンがある。
 嬉々としてパンを眺める私にカウンターから声がかかった。通ううちに顔馴染みになったみのりさんだ。
「いらっしゃいませ。何にいたします?」
「ああ、そうだね……みのりさんは何がおすすめかな」
「今日ですか?」
「そう。何にする?」
「春っぽくて暖かいから、ふんわり白パンですね!」
「昨日もそう言ってなかったかい?」
「だって、昨日も暖かかったですもん」
 私は呆れて肩をすくめてみせる。そんな私に答えて彼女はくすくすと笑った。

 ……お腹減ってきました……

 は、さておき。例文の形態素解析では、地の文71:台詞28でした。が、非常にバランスが悪いです。怒涛の台詞七連発!

 後半にドカっと台詞を集めたせいですね。ええ、敢えてこう書いてみました。

 というわけで、そこそこに地の文と台詞を混ぜてみましょう。

修正例:
 店に入ると香ばしい匂いが鼻をくすぐった。焼き立てのパンの匂い。
 正午になる三十分前。まだ店内は空いていて、かつ、ランチタイムに合わせたパン達が焼き上げられ店頭に並ぶ。昼食のお供をゆっくり選ぶには絶好の時間なのである。
 今日も今日とてふっくら柔らかそうな白パン。その隣にはカリッと揚げられたスパイシーな香りのカレーパン。振り返った棚には歯ごたえが堪らないバゲットと、さっくりとした食感とバターが見事に調和したクロワッサンがある。
「いらっしゃいませ。何にいたします?」
 嬉々としてパンを眺める私にカウンターから声がかかった。通ううちに顔馴染みになったみのりさんだ。
「ああ、そうだね……みのりさんは何がおすすめかな」
「今日ですか?」
「そう。何にする?」
「春っぽくて暖かいから、ふんわり白パンですね!」
 私は呆れて肩をすくめてみせる。
「昨日もそう言ってなかったかい?」
「だって、昨日も暖かかったですもん」
 そんな私に答えて彼女はくすくすと笑った。


 まあ、並び替えただけなので正直もうちょっと手を加えたいところですが……

 このように、台詞の間に地の文が入るだけでもバランスが改善された感じがしませんか?
 そう。飽くまで主観ですが、台詞の塊が続くよりも地の文を間に挟んでおいた方が、文章が流れるような印象があります。

 この書き方に慣れてくると徐々に台詞が連発することに不安を覚えたりもします。いやもう本当に、「」が三行並ぶとムズムズしちゃうんですよ。



・要はこれを避けよう。

 「台詞」が短くいくつも続くという状況を避けておけば、大抵はバランスが取れて見えると思います。
 推理小説なんかはトリックの説明なんかもあって、会話の比率が高くなってしまいがちです。それでもアンバランスにならないためには、ただただ台詞だけが並ぶという状況に陥らないように登場人物に何か軽い仕草をさせるといいかもしれないですね。でも溜息吐かせ過ぎたり、ひたすら腕を擦らせたらダメですよ(経験談)



 いかがでしたか? 今回は『地の文と台詞のバランス』を統計も交えつつ考えてみました。推理小説の台詞量って想像より遥かに多かったんですね。

 次回もTwitterでいただいたテーマ『いい書き出しって?』についてお話したいと思います。

 ではではー、またお会いしましょう。洞施うろこでした。


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