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うろこ流! 小説の書き方講座 #5[○人称って何? 視点って?]

 どもどもー! 「当て字でインパクトでも狙ってるんですかその苗字」でお馴染み、洞施(うろせ)うろこです!
 普段はWEB上でをのこ同士が懸想する小説を書いたり、それに関するイラストを描いたり、それを投稿サイトに載せたりしています。

 小説書き歴が長い素人が初心者向けに贈る小説講座。第五回目は『○人称って何? 視点って?』という話をしていきたいと思います。ふぉろみー!


第五回『○人称って何? 視点って?』

 今回のテーマは『○人称と視点』です。
 三人称? 一人称? 神視点とか聞くけどそれって何? という疑問にお答えします。それから、視点のブレや揺らぎなんかのお話もしていきますね。


・『人称(視点)の種類』

 みなさま、いざ小説を書こうとして、一人称と三人称、どっちがいいのか迷ったりしませんでしたか?
 三人称だととても小説っぽいけど、一人称の方が書きやすそう……一見そうですよね。でも、意外にこれ、落とし穴があったりするのです。

 その落とし穴については後ほど述べるとして、まず、人称ってどれくらいあるの? というお話をします。

 まず人称(視点)には、

※一人称視点
※三人称一元視点
※三人称多元視点
※三人称(別名 神視点)
※二人称

 があります。

 え、二人称って何? ていうか、三人称多い!
 まあ、驚きますよね。そんな細分化されてたのか、と。正直、『人称』という単語がゲシュタルト崩壊起こしそうな並び方しています。

 ひとまず、あまり使うことのない二人称と三人称多元視点はそっと脇に寄せておいて……
 一見書きやすい一人称視点からご説明しましょう。



・一人称視点の利点と、陥りがちな失敗。

 一人称視点では、主人公(語り手)の視点で物語が進んで行きます。口調は当然、主人公のものです。

一人称視点の例:
 頭を抱えて唸っていたら、突然派手な音を立てて部屋の扉が開かれました。先ほどの美形が戻ってきたのかと思ったら、また別の男性のようです……って、何ですか!? また美形じゃないですか!
「ウロコ! 急に騒いで頭でもいかれたのか!?」
 ……ちょっと。入ってきて即、人をディスるとか教育が行き届いてないんじゃないですか?
 その無法者――蜂蜜色の髪をポニーテールにした男性――はツカツカとこちらに歩み寄り、蹲ってた私の腕を取って立ち上がらせました。意外と優しい手付きです。
「転んだ時に頭を打ったってカイルに聞いたからなぁ……ほら、お兄ちゃんに見せて」
 あ、この碧眼の方は兄上なんですか。いや、だからって頭いかれた発言はどうかと思います。
 どこかあどけない顔立ちの兄上? は私を抱えるとそっと側頭部に両手を添えます。俯いてるのでよく見えていませんが、会話からして打ったらしい部分を確認されているのでしょう。
「うーん……見たところキズもないし、平気そうなんだけどな」
 兄上さま? 頭はキズが見えない場合の方が危険だったりするんですよ? 内出血は見えないから手遅れになりがちなんですよ?


 ……今書きかけのコメディから例文を持ってきたので少々はっちゃけた文章ですが、一人称視点はこの通り、視点の主(概ね主人公)が経験したこと、感じたことを書いていきます。
 ちなみに、主人公のウロコは前日に頭を打った影響により、前世の人格が突然現れてしまったという設定です。

 一人称は主人公が考えたことがそのまま描かれるので、それはもう心情が分かりやすい視点です。そのお陰で読者の方も感情移入できてじっくり読めるんです。
 書き手の方も柔らかい口調のまま書けるので堅苦しくなく書いていけます。

 と、ここまでだと一人称視点っていいところばっかり! だと思いますよね。

 実は、この視点には落とし穴があったりするのです。

 それは、『主人公の視点しかない!』という点です。

 あれ? そのお陰で書きやすいし読みやすいって言ってなかった?
 それは確かにその通りです。しかし、主人公の視界はそれほど広くはないのですよ。

 作者はその世界で同時に起こっていることを知っています。この例文であれば、部屋に入ってきたのがウロコの兄で、先ほどまでいた男性ではなかったという事実を扉が開く前から知っているんです。
 しかし、頭を抱えて蹲っていたウロコは、兄を見上げるまでその事実を知りません。

 一人称視点においては、語り手の認識していないことは絶対に表現してはいけません。
 更には、語り手の知識レベルに合わせる必要があります。下手に5歳児の視点にしてしまった場合は5歳の知能レベルで話さなければならないですし、IQ200なんて天才の視点にしてしまったらまあ大変。

 一人称視点はその書きやすさの反面、制限の多い視点とも言えますね。



・三人称一元視点の基本と利点。

 一つの場面で特定の人物を追い掛けるカメラのような視点です。主人公のいる場所を中心に、起こった出来事や主人公の考えなどを表現できます。

三人称一元視点の例:
 ウロコが頭を抱えて唸っていると唐突に部屋の扉が開かれた。扉が壁にぶつかって派手な音が鳴る。ウロコは先ほどの美形が戻ってきたのかとそちらを見遣ったが、どうやら別の男性のようだ。こちらの容姿もなかなかに端麗である。
「ウロコ! 急に騒いで頭でもいかれたのか!?」
(ちょっと。入ってきて即、人をディスるとか教育が行き届いてないんじゃないですか?)
 あまりに無遠慮な物言いにムッとしつつ、ウロコは蜂蜜色の髪を高く結わえる男性を見上げた。彼は足早に歩み寄り、蹲っていた彼女の腕を取って立ち上がらせる。思っていたよりもずっと優しい手付きだ。
「転んだ時に頭を打ったってカイルに聞いたからなぁ……ほら、お兄ちゃんに見せて」
 どうやら、この金髪碧眼の男性はウロコの兄上らしい。『彼女』はひとまず手に入れたウロコの情報を脳内で整理する。……それにしても妹を相手に『頭いかれた』発言はどうなのだろうか。
 どこかあどけない顔立ちの彼はウロコを抱えると、そっと側頭部に両手を添えた。俯いてるのでウロコからはよく見えないが、会話から推察するに打った部分を確認されているのだろう。
「うーん……見たところキズもないし、平気そうなんだけどな」
 頭を強く打った時は、寧ろ傷が表立って見えない方が危険な場合がある。内出血は外部からでは見えないので、手遅れになりがちなのだ。ウロコは半ば呆れて眉を寄せた。


 一人称視点の例文を、三人称一元視点に書き換えたものです。ウロコを主に追い掛けた視点で、かつウロコの心情が()に括られて書かれています。
 決してウロコの語り口ではないものの、ウロコの認識を中心に表現されているのが分かりますね。追っている景色は一人称視点とよく似ています。

 しかし、三人称一元視点には一人称視点にない利点があるのです!

 それが、『主人公のいる空間であれば、主人公の目に映らない出来事でも描写できる』です!

 例文ではウロコの視線に合わせた表現になっていますが、三人称一元視点では部屋の扉を開けた兄が金髪碧眼であるという描写があったとしても何の問題もなく進めることができます。例え、ウロコが見上げる前だったとしても。

 これは意外に大きいですよ。一人称では表現できないような主人公の意識外の人物の動きや、表情を描写できるんですから。
 主人公と表向き仲良くしている人物が、主人公が背を向けている間に憎々しげな目を向けていた、なんてことまで書けるんです。あくまでカメラワークの中にいることが前提ではありますけれど。
 これを利用すると、主人公が見落とした伏線を読者に提示できちゃいますね。三人称一元視点、ぜひ活かしてみてください。



・三人称(神視点)の利点と注意点。

 こちらはよく『神視点』と呼ばれます。神様のように物語を俯瞰して書く手法ですね。

三人称(神)視点の例:
 ウロコは頭を抱えて唸っていた。先に出した大声に反応してだろう。金髪碧眼の眉目秀麗な男性が部屋の扉を勢いよく開く。勢いに任せた扉は壁に当たり、耳障りな音を立てた。先ほどまでウロコの様子を窺っていた長兄のカイルではなく、次兄のキースである。
 ウロコは扉の音と乱入してきた男性に面食らったのか、丸い目を更に見開いてキースを見上げた。
「ウロコ! 急に騒いで頭でもいかれたのか!?」
 妹に前振りもなく掛ける言葉とは考え難いが、キースの常である。だが、彼に悪意はない。少々言葉の選択を誤る……というよりも、絶望的なほどに間違えることがあるだけだ。
 ウロコは完全に呆れ果てた表情でキースを見ている。が、それを意に介した様子もなく、彼は妹の腕を優しく取って立ち上がらせた。丁寧な手付きである。妹を大切にしているのはその所作からも充分に伝わるだろう。
「転んだ時に頭を打ったってカイルに聞いたからなぁ……ほら、お兄ちゃんに見せて」
 キースの言葉で、ウロコは彼が自身の兄であると知ったようだ。何も分からないままに『ウロコ』の身体で覚醒してしてしまった『彼女』からすれば、重要な情報である。
 キースは妹を抱えるようにしながら前日に彼女が打ってしまった部分を覗き込んだ。何分、頭であるので不安を覚えているらしい。
「うーん……見たところキズもないし、平気そうなんだけどな」
 眉を寄せて尚もウロコの頭部を眺めて呟くが、頭部は傷やたんこぶが見えない場合の方が危険だ。ウロコの中にいる『彼女』もそう考えているのだろう。眉間に僅かにシワが寄っている。

 このように、そこにある事実や、今まで明らかにしていないことまでも――いや、その気になれば別の場所で何が起こっているのかすら書くことができます。
 神視点の時に登場人物の心情を書くことはあまりないと思われます(三人称多元視点という分類にして書くこともなくはない)
 神様なので登場人物の心理も分かっているかもしれませんが、書いてしまうとどの人物にフォーカスを当てているのか分かりにくくなってしまいますからね。

 神視点の利点は、意図的に情報を隠したり提示したりできるところでしょう。
 戦記もので敵・味方の動きを同時に追わせたり、スパイの動きを読者に見せたり。
 その逆もまたしかりです。スパイが味方陣営にいる状況でも、敢えて名を伏せて隠したりと、好き放題に情報を操ることができます。

 その反面、視点が誰にも定まっていないようなものなので、登場人物への共感や反発などの感受性に訴える力は弱いです。ジャンルによってはとても残念な結果になるかもしれません。恋愛小説で誰にも感情移入できなかったらつまらないですよね。


 人称(視点)による違いで、受ける印象はだいぶ変わりますね。
 では、初心者向けの人称(視点)ってどれがお勧めなんでしょう。
 視点の揺らぎということにも触れつつ、説明しますね。



・視点を揺らがせないために。

 さて、商業誌ではあり得ないと思いますが、WEB小説を読んでいて一体どの登場人物の話なのか分からなくなることありませんか?
 例えば、こんな感じで……

視点が定まらない例:
 A子はこわごわと周りを見回した。腕をさすりながら本当に幽霊でも出そうな雰囲気、などと思う。
 その様子を見たB太はコイツ、こういうところもあるのかと妙な感心をした。いつもは気丈で口うるさいヤツだが、明らかに怖がって震えている姿は女子高生らしい可愛らしさだ。
 イチャついてんじゃないわよ、と影から二人に苛立ち紛れの視線を送り、Y美は舌打ちをする。どうせ聞こえないんだから問題はない。何しろ、A子が怖がっているだろう幽霊は私なんだから。


 幽霊だからY美ちゃんです。
 それはさておき、例文では肝試しに来た二人とそこにいる幽霊さん三者の心情が書かれています。
 さあ問題です! この場面の主人公は誰でしょうか?

 ……
 …………
 ………………って、そんなの分かるわけないじゃないですか!!

 この場面ではみんなの心の声がはっきり現れています。なんと、視点が三つもありますね。三人称多元視点と言います。

 例文のように短い場面だけ切り取ってしまえばどうにか対処もできますが、この複数人がフォーカスされた状態で長い場面に……更には人数が増えていったらどうでしょう。
 それはもう、誰が誰やら。主人公ってダレー? 状態になってしまいますね。

 このように、読者が誰を追っていいのか分からなくなるのが視点の揺らぎで、こうなってしまうと残念ながらストーリーへの没入が難しくなります。だって、主人公が分からないんだもん!

 この視点の揺らぎを防ぐにはどうすればいいのか。それは単純。視点を一つに絞っちゃえばいいんです。

 先ほどご紹介した中に、視点が一つしかない書き方がありましたね。

 つまり一人称視点か三人称一元視点にすればいいんです!
 更に言えば、初心者向けなのは実は『三人称一元視点』だったりします。

 一人称視点は話し言葉なので書きやすくはあるんですが『一人称視点の利点と、陥りがちな失敗』の項でお話した通り、書ける内容にかなり制限が出ます。
 ただし読者からの親近感が得られるのは一人称視点の最も魅力的なところなので、上手く扱えるとかなりの武器になります、と付け加えておきますね。


 いかがでしたか? 今回は『○人称と視点』についてお話しました。
 初心者さんが結構陥りやすい罠でもある視点の揺らぎ。適切な人称(視点)を選んで揺らぎを回避しましょう!

 次回は『ジャンルはどうしたらいいの? テーマは必要?』といったことについてお話したいと思います。

 ではではー、またお会いしましょう。洞施うろこでした。


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