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お題小説『いつかは二人で・ベストな関係・放課後の校庭』
ふわりと翻るスカートの裾を眺めていた。雨が浄化していったかのような澄んだ空気の中でも、彼女は一際澄んで見えた。纏めにくい、と文句を言うその真っ直ぐな長い髪が、風を受けてさらりとそよぐ。
雨上がり。放課後の校庭の片隅で、私と彼女はいつも細やかな会話を交わしては歌う。ある時は童謡だったり、流行っているアイドルソングだったり、時にはロックだったり。特にジャンルは決めていなかった。いや、何を歌うのかすら決めていなかった。どちらかが思い付いたように何かを口ずさみ、もう一方がそれに合わせる。
「いつかは二人で動画出したいね」
彼女は屈託のない笑顔で言い、私は「恥ずかしいからヤダ」と返す。
いつも同じやり取りだ。一年以上、何も変わらない。
二人だけの心地よい時間。この関係に、僅かな戸惑いを覚えだしたのはいつだろう。
――変わらない いつも踏み出せず
僕は何も言えないまま ただ君の横顔を見てる
彼女の口から、穏やかなメロディともどかしい気持ちを綴る言葉が溢れる。つい先日からやたら聴くようになった、男性グループの新曲。今日選ばれたのはこの曲らしい。
――君は何も知らないままで 風に舞う花びら追いかけて
出会ってから一年も想いを告げられずにいる男性の歌。私はこの歌を好きになれない。女々しい男性の心情が、あまりにも私と重なり過ぎて。
――薄紅が積もる 僕の心に
あの日からずっと 君への想いが
いつか こぼれてしまう前に
届くかな 君に 届いてよだなんて
そんなこと 言えやしないよな
サビに入る直前から、彼女の声に合わせてコーラスを入れる。声は重なって溶け合う。広い校庭では反響もせずにただ拡がるその声を、私は必死に追いかけていた。
高くまろい彼女の声と、時折かすれる私の声。私が彼女に「可愛い声してるね」と言うと、彼女はいつも「リオはハスキーでカッコイイ声だよね」と返す。私では見つけられなかった私を、彼女はいつも見つけてくれる。
もっと近くにいたい。もっと触れたい。音を追うために揺れるその白い指に。顔を覗かせた太陽の光を湛える豊かな睫毛に。優しい音楽を彩るその唇に。
――いつの日か 君のその隣に
立ってみたいんだよなんて 言葉にできればいいのに
自分が歌っているのか、想いを告げているのか分からなくなる。その度に音をなぞることに集中した。私が男なら、この曲にかこつけて想いを伝えられたのかもしれない。
でも、そうじゃないから。だから、きっと、よかったんだと思う。
仲良く腕を組んで、手を繋いで、くだらない話で盛り上がって、こうして、二人だけで歌を歌って――
そう、『友達』だからできること。これは、私が男だったら築けない関係だから。
――届くかな 君に 届いてよだなんて
そんなこと 言えやしないよな
歌いきり、彼女は私を見つめて微笑む。彼女の周囲だけが淡く輝いて見えた。
「……ねえ、リオ。やっぱり、今度動画撮ろうよ」
私、リオとならいけると思うんだよね、と熱弁されたけど、私は「ムリ」と却下する。動画だなんて本格的なことを始めれば、この関係が変わってしまう気がしたから。
「えー……絶対楽しいのに……」
「嫌です。恥ずかしいもん」
何度も繰り返しているやり取りを今日もなぞる。そう。これが私たちのベストな関係なのだから。
「リオと一緒なら思い切って撮れそうなのになー」
「またまた、ご冗談を」
「もーっ! 私はいっつも本気だよ!」
たたっ、と私に駆け寄り、彼女は腕を絡めてきた。ふわりと花のような甘い香りがする。
「まあ、でもいいや。こうやって二人で歌うだけでも楽しいし」
私も、と返そうか迷って、それでも口から出たのは別の言葉だった。
「そうそう。それで満足してよ。動画なんて撮られてたら集中できないし」
「そんなの慣れちゃったら平気だよー……ねえ、今度さ――」
「駄目です」
言葉に被せるように却下すると、すぐ隣で彼女は頬を膨らませた。そんな拗ねた顔まで可愛いのはズルいと思う。
ここに確かにあるのは、左腕にかかる温もりと、僅かに膨れたキメの細かい頬。神様、どうか願わくば、私たちはずっとこの距離のままで。
いつまでも、届かない想いのままで。
今回もこちら『お題.com』さまより、ランダムで3つお題をお借りしました。ちょっぴり百合香る切ないストーリーになりましたね。
私は基本的に腐女子なのですが、こういう女の子同士の距離が近い友人関係が好きだったりします。何故かほんわかしちゃうんですよ。
作中の歌詞はめちゃくちゃ考えました……ラブソングの歌詞とか、全然思い付かないです……! 詩は感性が問われるので難しいですね。
お題3つもいいのですが、お題1つに絞ってしっかり書き込むのも練習になるかなぁ、と考えています。機会があったらやってみよう。
ではではー、またお会いしましょう。洞施うろこでした。
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