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拝啓、カムパネルラ様

2019年も間もなく終わりますが、いかがお過ごしですか。最後にあなたを見かけたのは、放課後の教室でしたね。

一心不乱に解いていた計算ドリルからふと顔を上げて、「これが終わったら天王星に行くんだ」といつもの調子でへらりと笑うから、それは遠いわ元気でなと、缶入りのメンソレータムを餞別に投げつけましたっけ。あれ、さすがにもう使い切りました?

ああ。違う、本当に最後に会ったときは、言葉は交わさなかったのでした。

化粧が大嫌いで、「普段使いのメイク道具あります?」ってスタッフさんにきかれても、年頃の女の子なのに「いいえ、1つも持ってないんです」って答えるしかなかったのよ、とお母さんが泣き笑いしていて、どこまでもあなたらしいなと。

終わりと同じようにはじまりは突然で、あれは入学式の朝でしたね。

下駄箱の前でボソボソと質問された気がして、よせばいいのにうっかり返事をしてしまったのでした。あーあ。怪異には返事しちゃだめって昔から言われているのに。なお、あなたはあなたでわたしのこと、独り言に回答する不審者だと思ったと聞きました。お互いの反応にすごい顔になりましたよね。

なんとなく隣にいることが当たり前になって、木刀をハンドメイドしてみたり「今ならいけるかも」と窓から飛んでみたり、さんざん馬鹿もやりましたね。

いつも一緒ではなくなっても、この先ずっと、人生のどこかで出くわす度に馬鹿をやれると思っていたのだけれど。

そうそう、聞いて驚け。今年ついに、わたし結婚しましたよ。

「アンタみたいにボーッとしてたら一生結婚できないね!万一結婚式によばれたら指さして嗤ってやる!!」と互いにヒートアップしてなだめられたこともありましたね。あれはわたしの本心です。いつでも招待されて笑う準備はできていました。あなたはどうでした?

わたしはね。まさか、結婚式より先に葬式によばれるとは思っていませんでした。

夢であなたが天王星に旅立ってからずっと、「ああ、置いて行かれた」と思っていました。でも、周りの人間や社会が目まぐるしく変わっていく中で最近思うのです。本当は逆で、わたしが、わたしたちが、あなたを過去に置いてきてしまったのかもしれないと。

あなたが好きだった哲学の一派によると、時間は円環するらしいですね。

いつか、もう1周して出会うことがあれば、今度はあなたから声をかけてくれませんか。入学式の朝のような、できうる限りの「なんじゃコイツ」顔で対応しますから。

いつまでも待っています。
宇宙旅行のお土産も忘れるなよ!!

ジョバンニより

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