優しさは技術

優しさとは技術

優しさとは技術

息子には発達の凸凹がある。まだ5歳なのでその程度や内容がはっきりしないのだが、どんな障害にしろ重度というわけではなさそうだ。ただ言葉の発達は明らかに独特で、独自の文法や単語の意味付でもって話すので、保育所ではお友達に「何いってるのかわからへん・・・。」とよく言われてしまっている。

ただし、息子は保育所の適切なサポートに支えられて奇跡的なほどに自己肯定感に溢れ、穏やかで朗らかだ。

保育所では年相応に喧嘩もしてくる。いっときは唾を吐くとか砂をかけるとかの乱暴も見られて、母としては少々焦ったが、これは本人の成長と保育所の適切なサポートにより半年に満たない期間ですっかり消えた。今でも口喧嘩の能力は低いので、手がでる時はある。しかし根本的に乱暴をするのは自分も怖い、というタイプなので攻撃力はとっても低い。

私が保育所にお迎えに行った時、息子になにか悲しいことがあったのか、喧嘩したのか、わんわん泣いて床に座り込んでいるときもある。私はそういう時、基本的に何もしない。少し離れてみている。

お友達が何人も息子を囲んで、事情を聴こうとしたり、慰めようとしたり、話合いを持とうとしたりしてくれている。でもなにしろ「何言ってるのかわからへん。」ので、そのうちみんな呆れたり飽きたり諦めたりしてどこかに行ってしまう。

そうやって息子が一人になって床に座り込んでいるときに、息子のおままごと仲間の女の子Sちゃんが、そっと近寄ってきてくれることがある。

一人になった息子に自作の折り紙作品をそっと渡してくれる。息子は心得たとばかり、しゃくりあげながら受け取って自分のバックに大事にしまう。言葉は交わさない。でもふたりの間に言語化されない何かが通っているのは見ていればわかる。

優しさって技術なんだなぁと思う。他のお友達だって最初は息子に優しくしたかったのだけど、やり方がわからない。息子にはいつもの自分達のやり方が通じない。だから離れていかざるを得なかった。でもSちゃんだけは知っていたんだ。

息子には小さな失敗をたくさん繰り返して、心身の両方にたくさん小さな傷をつけたり、つけられたりして、大きくなって欲しい。その経験が長い人生の中で取り返しのつかない大失敗をしたり、二度と回復できないような傷を他人と自分につけてしまう可能性を低めるための唯一の方法だから。

そしてその中で、どのように人に優しくできるのかも学んでほしい。優しくしたいと思った時に、竦まず恐れず、どうやったら自分の気持ちを相手に手渡せるのか知って欲しい。「あの子、根はやさしいんだけどね・・・」と言われるのではなく、優しさを上手に表現できる技術をもって欲しい。

なぜって、あなたは誰かに優しくされたり守られたりするだけの存在じゃないから。良いお手本が身近にいるからね、君も誰かに優しくしたり誰かを守ったりできる人になれるよ。人に愛情や優しさを表現することができる人は、大事だから。世の中に必要な人材だから。

それを母と君に最初に教えてくれたのはSちゃんだ。母はSちゃんに足を向けて寝られないよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?