ひらめき☆マンガ教室:第3回ネーム感想

 こんばんは。聴講生の「うりた」です。

 正規受講生の皆様、タイトなスケジュールの中でのご提出、大変お疲れ様でした。おひとりおひとりの漫画を、なるたけ丁寧に読みつつ、感想を書きました。拙筆ながら、参考いただければ幸いです。

 この感想noteに今更ながら着手したのは、紛れもなく、ヨコウタダさんや、とらじろうさんという偉大な先達に感化をうけた影響です。彼らがいるなら、僕ごときが何書いたって虚無以外の何にもならんだろうと思っていましたが、まあ、多様な意見はきっと大事だし、僕自身、学友たちと交流する起点をつくって、もっと仲良くなりたいなぁと思っていたので、今回、なけなしの勇気を出してみようとした次第です

 ということで、これまでは、つたないながらも、Twitterで少しずつ感想を書き続けてきましたが、試みとして一度、漫画を読んで浮かんできたさまざまを、noteでまとめることにします。

 幾分、冗長であったり、踏み込みすぎることを書くかもしれませんが、どうか、いちマンガ好きの戯れと思って聞き流してくださいませ。

 というわけで、さっそくはじめさせていただきます。

※思ったことをなるべく書き出していますが、スケジュール・体力の都合上、どうしても書ききれない部分があります。みなさんのネームはすべて読み、なおかつメモしています。別途追加の感想等ご要望でしたら、ツイッター、ディスコード、飲み会、なんでもご連絡ください。

⓪【全体の感想】

 ほかの方々の感想を拝見してもそうですが、着実に皆さん、ひらマンでの
学びを体得されていっているように思います。構成の工夫がみられ格段に読みやすくなってる方、画面上での動きやお芝居に磨きがかかっている方、お題の解釈を丁寧に言語化されている方、その進化ぶりはさまざまですが、着実に成長の軌跡を残されていっている。継続は力なり。一歩ずつやっていきましょう。

①『ソネザキ童心チュウ。』シバ


 シバさんの作品の特色のひとつは、やはりその線の力強さや迫力。そして表情のつけ方のうまさですね。感情を、顔や動きにのせるのがとってもうまい。作中においても主人公のヒラノさんの驚きや焦りのリアクションが光ります。

 さて、本作全体の感想ですが、単刀直入に申し上げて、ややオチの驚きにかけるような印象を受けました。

 ラストの段。ソネザキさんが親友の手をとる、作品最大の山場ですが、それを見た際の「ソネザキさん、よかったねー。」という感情がどうにもわいてきづらいように思います。

 というのも、この<一瞬の価値>がどうにも読み取ることができなかったからです。ソネザキさんは、町から遠く離れた田舎で、ひとり生きる、認知症の進行も深刻なご老人のはずですが、その悲哀感を一層誘うような、情報がなんとなく抜け落ちているように思います。(田舎の隔絶感【町からの距離】、家族関係の情報、認知症の進行具合など)また、親友との出会いがいつぶりのものであったかというような情報もわからないので、それがどれほど喜ばしい出来事なのか、という感情移入の指標が見出せませんでした。なんだか、そうしたドラマ性を引き立てる情報が盛り込まれれば、シバさんの画風とあいまって、さらに楽しめるかなと。

②『春終い』ahee

 あへーさんワールドは、ほんとうにこれまで味わったことのない漫画体験ができて面白い。セリフ回しがカッコいいのもそうだし、単純に厭世的とも言い切れない、独特の仄暗い空気感をつくるのが滅茶苦茶にうまくてすごい。なにを蓄積すれば、こんな作品を生み出せるのだろうと。そんなこんなで、彼の作品には、初期のころからアディクトされています。

 一方で、自分はこの作品の冒頭部分で、いくつか迷子になってしまい、ストーリーにすんなり入り込めなかったというのが正直なところでもあります。とりわけ混乱したポイントとしては、時系列と性別があげられます。

●時系列について
 冒頭の混乱は、僕の場合下記のような経過で発生しました。登場する台詞、私の反応を併記しています。

冒頭シーン:「冬開けて」(おけ、春に事故起こすのね)
→「一か月もたってないし」「卒業単位は?」(なるほど、もうすぐ春なのか。冬にしては軽装だし。じゃあ事故も近いうちに起こるのかな)
→「今年は卒業するだろー」(ん?今年っていつ?今年度?それとも今年の4月?というかこの時点で何月?)
→「春休みにさぁ」(あれ、もう春過ぎた?今から事故起きるの?)
→「夏休みさー。タイに行くんだ」(今何月だ?来年の冬開けに事故起こすのか?わからないな)

 以上のように、はじまりに置いたオチの季節と物語進行の時系列がぶつかりあってしまい、その混乱で、話がうまく入ってこなかったのが実感です。ここは、何らかの配慮が必要かもしれません。

●性の区別
 ここをとやかく言うと、怒られが発生しそうですが、あえて書きます。
 ヒロインの男女の区別が分からず、この二人の関係性の目途が立たなかったという点があります(髪型、文末・主語における女性語の不使用、ボーイッシュな服装)。まず、この女の子を最初男と誤認してしまった影響で、「結婚してくれませんか」の場面でようやく状況を理解して、あーなるほどとなりましたが、それまでの重ねられた演出が、女性を前提としていなかったために、「あれ、この子が女性だとすると、ここまでのふたりのやりとりってどう読み替えられるんだっけ」と振り返ることばかりに気をとられてしまい、このコマでの「転」の展開が伝わり切らない印象を受けました。そうした性差をなるべくつけないというスタイルもちろん良いと思いますが、こと音声のないメディアである漫画で表現し、なおかつ恋愛がひとつの基軸になるのであれば、ここはどうしてもクリティカルな部分になってしまうのではと思いますので、なにか見通しの立ちやすい指標があるとありがたい気がします。とはいっても、好みの問題でしょうか。

③『本能でぃてくとっ!』あまこう

●魅力
 キャラクターの強キャラ弱キャラの立場逆転劇は結構好きです。わくわくするんですよね、その切り替わりの瞬間ってものに。あまこうさんのこの作品では、その劇的性をフックとして物語を組み立てられていて、読者に見せたいものがはっきりしていてよいと思いました。

 ヒロインの妖崎さんめちゃくちゃ可愛いですね。前半部では、彼女が身にまとう、どことなく人間離れした美しさがすごくつたわってくるように描写がされていて、これからこのヒロインとどうなるの?という期待感が沸き上がってきます。特に、2Pのバストアップは素晴らしくて、前頁の堅本くんの大柄さとは対照的な、細く繊細で可憐な「外面」が上手に表現できていると思います。彼女、結構いいじゃんなんて、まんまと騙されてしまいました。一方で、後半部の一転してド変態の本性を現した彼女の表情もかなりよくて、気持ちのいい落差感を味わえました。

●気になる点、というよりも好みの話に近いか。 ⑴独特のフェチズムが欲しいな…
 →これは、ぼく自身の単なる趣味のきらいがありますが、こうした変態がクローズアップされる恋愛劇には、変態さんのつきぬけた変態性、もしくは独特なフェチズムがほしいなーと贅沢を言ってしまいますね。もちらん、劇中では、堅本くんの健康的な肉体美が、妖崎さんの口から滔々と語られていますが、反面そうした人間なら探すのは現実的にそう難しくないのでは?と思ってしまいます。彼でなければならない理由が希薄な気がすると言い換えてもいいかもしれません。吸血鬼ならではの男性のタイプ(吸血鬼ならそうかもね、と思わず頷いてしまうような、特定のパーツへのフェチズム)など描くのも一考でしょうか。そうすれば、堅本くんの唯一無二性がはっきりしてくるのではと思えましたもので。

 ⑵没にされたという、黒髪ぱっつん娘のお話も、ぜひ読んでみたいです。

④『理想の同居生活』俗人ちんさん

●魅力
 さすがノベルゲー好きの俗人ちんさん。いもうとちゃんの朝起こす描写、御玉というガジェット、両親不在の空間など、往年の作品を想起させてくれて、いっそノスタルジーすら感じます。いもうと萌え萌えですね。八重歯っ娘の最高っぷりをひさびさに味わえて、ぼくは大満足です。また、物語の進行もおさまりよく、なおかつ最後のページの寄る辺のない絶望感もよく表現できているように思います。

●気になる点
 ⑴物語のアップダウンがそこまでにないままに着地してしまった印象があります。主人公が大きな努力をみせるまでもなく、終わってしまったので、もったいないなと感じるともいえます。
 もう少し踏み込んでいえば、主人公にもっと希望をもたせてから、失意のどん底に叩き落したほうが、ラストの絶望感はより一層引き立つのではと、思います。(これを端的に表す言葉として自分が想起したのが、Fate/zeroにおけるジルドレの有名なセリフでした。希望から絶望に切り替わる瞬間こそが最も恐怖として上等なものであると定義する彼の発言には、ひとつの真理があるように思います。)例えば、「オンラインでの一次面接を通過し、次は本社での二次面接、スーツも買い揃える、しかしドアの前で~」、というような、起伏の流れがパッと思いつきます。しかしそれはそれでありきたりすぎるきらいもありますし、実際はもっとそのマンガの独自性をつくれるように調理しないといけないと思うので、難しいところだと思いますが。

 ⑵題字がコマのなかで埋もれてしまっているため、枠線の太さを変える、打ち込みではなく手書きにして装飾するなど、一工夫ほしいですね。

恐怖というものには鮮度があります。
怯えれば怯えるほどに、感情とは死んでいくものなのです。
真の意味での恐怖とは、静的な状態ではなく変化の動態――
希望から絶望へと切り替わる、その瞬間のことを言う。
如何でしたか?瑞々しく新鮮な恐怖と死の味は…(Fate/Zero ジルドレ)

⑤『アイツを好きなキミが好き』藤原白白

●魅力
 ヒロインのコロコロと変化していく表情の楽しみにあふれる作品。「アイツを想う彼女のカオが好きだ」という主人公の感情に、まず一歩共感に踏み込んでいける仕立てになっているように思います。また、主人公のつかず離れずの恋慕の感情や、嫉妬を抑えきれない弱さが、さりげないコマの中で丁寧に描かれているのも印象的です(ベンチに座るふたりの距離、思わず彼女の話をさえぎってしまうワンシーンなど)。

●気になる点
⑴ 主人公の腹痛癖について
 何度か読み直して初めて、腹痛の擬態語「キリキリ」が、コマの中に再三登場していることに気が付きました。この腹痛は、主人公の感情を表すシグナルでありかつ、物語の起伏を示すシグナルとなる、とても大事な「音」であると思います。なるべく埋もれないようにする工夫が必要かなと。。
⑵ 職業がわからない
 これは、ぼくが学生を経て、昔ながらのサラリーマンになってしまったからなのでしょうが、フリーランスの実態がよくわからないため、今、この富士の麓で二人がどんな仕事をしているのか、またどのように連携して働いているのかが理解できずに、そこで没入できなくなっていたきらいがあります。このために、この二人の積み上げてきた「歴史」がよくわからず、主人公の感情を見積もることができませんでした。(つい最近出会い、仕事で組むようになったのか、または、実は結構な昔馴染みなのか)


⑥『SPICE LOVE』かれーとさうな

 スラップスティックブースター炸裂。すべてをぶっとばす勢いがある、疾走感にあふれた作品ですよね。文字量が多いので、本来であれば読み飛ばしてしまうはずなんですが、この世界観だと、あ、これ読まなきゃわかんねえやって、逆に読み込んじゃって、不思議と読みにくさは感じませんでした。しかも、このノリの中で細かいレシピを残そうとしているのが、かえっておかしみがあってよいですね。反面、これはギャグをやって笑わせたいのか、もしくはこのシュールな世界観から、カレーの魅力を知ってもらいたい(香辛料に興味を持ってほしい、掲載するレシピを作ってもらいたいのか)のか、という焦点がややボケているところがあるように思えて、ドタバタで面白かったけど、結局カレーについては何もわからず、一体なんだったんだろうという感情で読み終えてしまいます。これはご自身のコメントでも述べられている通り、ぜひともスパイスへの愛情、カレーの神髄を伝えられるようなレシピを、ふんだんに盛り込んでいただけるとよいかなーと。


⑦『君との距離』かずみ

 かずみさんの超絶素敵なところは、「小さい頃に誰しもが抱いていただろう、まっすぐな心」をこれまたまっすぐな切り口で、そして一途な気持ちで描き切っているところにあるように思います。すごくその気持ち作品から伝わってくるんですよね。今回の作品もまさにそうした思いの詰まったものだと思います。10代のころの甘酸っぱさが伝わってくる内容、たまらないです。

 いちご100%を参考になさったとありますが、まず僕も一読して思った感想がそれで、
あの作品の白眉だった、密着のシチュエーションや、ヒロインのエッチな肉感表現を、うまーくご自身の創作に落とし込まれているという印象です。かずみさんのかわいらしい絵柄に、子供エッチなドキドキ感が伝わってくるのがたまらない。

 気になったのは、決めゴマの前後の部分で、メガネのおっさんが絡んでくるシーンなんですが、「ほんとうにこの人、悪いことしていたのか?」という疑問が晴れないままでした。痴漢しているならもちろん納得できるのですが、確証が得られるコマが登場しないままだったので、結局、何が起きていたのかがいまひとつわかりかねました。このために、手をそっと置く、山場のシーンも、「何から彼女を守るための行為なのか」がいまいちわからずに、ストンと落ち切らないところがあります。また、この場面では、ふたりの位置が、急に移動した印象を受け、一瞬混乱しました。というのも、2P目での「すし詰めシーン」では電車の真ん中にいたはずなので、上記シーンで主人公が手を置いた壁が突然発生したように映り、戸惑ってしまったという流れです。こうした、社内における位置関係も明確にわかれば、ひっかかりも少なくなると思います。ぜひご検討を。

⑧『いぬのようなひび』こぐまあや

●魅力
 こぐまあやさんの絵、すごい好きなんですよね。リアリティのある描写・会話劇が魅力のご本人の作風にぴったりの画風で、いとも簡単に作品世界に吸い込まれて行ってしまいます。今回が初めての男性主人公の起用ということもあって、作風を広げようとする実験的な態度もうかがえるようで、楽しく読ませていただきました。ヒロインの狂気や主人公のいびつな愛情具合なんかが丁寧に描かれていて、単純に「うわー、やべえ関係だ。どうなるんだこりゃあ」と画面のスクロールが俄然スピードアップしてましたね。

●気になる点

 ⑴記号的表現

 真に迫るような表情の描き、嫉妬の感情、後ろめたさの雰囲気づくりなど、さすがの漫画力で、一貫したリアリティを構築しているだけに、ときどき、記号的な表現が現れると、いっきにノイズとして浮きだってしまう印象があります。終盤で登場する、「キモオタ」くんが顕著な例で、そのルックスや動きが、あまりにも漫画的(ステレオタイプ)すぎて、ともすると、物語の基軸が喜劇にぶれてしまいそうな危うさがある気がします。せっかくの持ち味であるリアルなストーリーテリングがかき消されてしまうというか。

 ⑵ 松岡と藤代・石田の関係

 この準ヒロインが、ふたりとどのような関係なのかがよくわからず終いでした。顔見知りようですし、なにかこれは同じ部活とか、第3の幼馴染とかそういう関係か?これは新しい場面展開があるのかなと思いましたが、特にそこには触れられずに終わってしまったので。妙に気になってしまいました。

 ⑶ 飛び降りについて

 冒頭の飛び降りですが、さすがにこの高さでは死んでしまうのではないかと?せめて、死なない公算があるようなシーンが挟まっていれば納得がいくと思われます。

⑨『漢らしさってなんですか?』kinoshitamarisa

●魅力
木下さんは、ほんとに絵がうまいし、読みやすい。マンガをすいすい読めてしまう構成のわかりやすさもあって、読書のストレスが極めて少ない。
目つきの悪い、あらくれ気質の主人公が、実は真逆のかわいいもの好きだけど、恥ずかしくて表に出せないギャップにひたすら萌える作品、いいですよね。こうしたモチーフは、カタルシスもつきもので、自分の秘密の趣味嗜好を認め合える友を見出せるラストも定番。漫画好きだと会社で公言できない自分にとっても、こういう出会いいいよなーとシンプルにあこがれてしまいます。

●気になる点

 ⑴ 西島高校の頭について

 具体的な作品名が思い出せず、大変恐縮ですが、この筋の物語では、ライバルとなる相手方も、主人公と同等の「可愛さ」とは縁のない造形が選ばれていることが多いように思います。(むしろ、主人公よりも厳つくて、不細工な場合が多い気がします。)
ここで、西島高校の頭、西条くんに話を戻すと、彼はすでに軟派なファッションに、王子様味のある甘いルックスを兼ね備えており、しかもなぜか女子と頻繁な交流をしています。これらの条件を前提に鑑賞をしてみると、彼からTポットカフェのアイテムが出てきたときの、驚きは、ほとんどなかったのが実感です。とはいえ、木下さんの
描かれる王子様キャラはとっても魅力的なので、上のような指摘はそれを否定するようなきらいもあり、難しいところだと思います。主人公のギャップを見せたいのか、イケメンたちの微笑ましいやりとりを見せたいのか、作品の中心をどちらにするのかという選択の問題であるような気もします。

 ⑵ 凡ミスでしょうが、やはりページ順序は整えていただけると助かります。普通に迷いました。

⑩『隣の彼女の口のギラギラ』ハミ山クリニカ

 これは爆弾です。やばいです。木っ端微塵です。

⑪『ブルー・メッセージ』コバヤシ

 コバヤシさんの絵、ほんとかわいいですよね。キャラクターに一気に注意をひきつけられます。ご自身のコメントとして言及されているように、外的描写については申し分ないですね。一方、課題となさっている内面描写に力を入れたということですが、そこを自覚して努力なさっているのが素晴らしい。
 露出度高めにして、モチベーションを調達してるっていうのがすごく面白くて、なるほど、そんな創作態度もたしかにありだと、コバヤシさんのこれまでの試行錯誤が透けて見えるようで大変興味深い。

●気になる点

 ⑴ 恋愛障壁の低さ
ふたりを隔てる障壁が「年の差のみ」であり、またそれを、主人公のゴリ押しでぶち破るだけの物語となっている印象があります。意外性がなく、カタルシスに乏しいというか。何か、「かぐや姫」のような、恋愛を成就するためにクリアしなければならない、ゲーム性のある障壁があれば、ストーリー抑揚も生まれる気がします。

 また、これはここ数年の僕の実感なのですが、近年発表される漫画の数多くに触れていくうちに、単なる「年齢差恋愛」に驚かなくなってる自分がいる気がします。こうしたモチーフは「私と少年」が象徴するように、近年数多く描かれていますが、その「年の差」はもはやタブーに触れるレベルまでにならないと、ドラマを生み出すインパクトは生まれないかもしれないですね(もちろん演出しだいなので、一概には言えない話ですが)。この観点でいうと、結局主人公は何歳?個人的には未成年だとあつい。

⑵ 画面内の動きの少なさ
 物語の現在地点が、バーカウンターに固定されているために、画面内の躍動感がやや弱い印象を受けます。もちろん、動機付けのための回想を織り交ぜるなどして、視点の移動を図り、うまくそこを中和させようという試みも見えますが、やはり物足りなさがつきまといます。

⑫『ぼっち』シギハラ

 物語の感触がすっごい僕好みで、ラストの主人公の独白は、まるで自分の心が見透かされているような居心地の悪さ(褒め言葉)を感じました。
意図されているわかりやすさの工夫はうまくいっていると思います。ナレーションで彼女の状況がよく理解できますので、すんなりとストーリーの流れにのれます。
 椚さんも、常人から離れすぎているせいでしょうか、屈託のない会話ができるくせに、ひとりが真に好きというねじれが、かえって本物感を伝えてくれるようです。(椚さんの首傾ける立ち姿、妙に癖になる)

●気になる点
ラストの絶望のセリフの重みが、やや足りない印象を受けます。換言すれば、「これからは友達もできて、ようやく孤独で惨めな自分とおさらばできる!」という希望の描写が少ないために、落ちたときの高低差がつけられていないように思ったためです。ストーリー展開的に言い換えれば、起承転結でいう、承と転の境目にもっと力を入れれば、もっと主人公の絶望感を色濃く演出できるのではないかと。頭に浮かぶのは、主人公が、先述のような妄想をいっぱいに膨らませたり、「今日は一緒にランチだ!」のソワソワ感を見せる時間幅を、気持ち長めに取ったりする工夫とかでしょうか。

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