【11月号対談再掲】僕らは、みんな死ぬ。だから答えのない旅に「共感」と「生きがい」を持っていく。
皆様こんにちは。『Wednesday Style』編集部です。
今月も、12月よりご購読いただいた方向けに11月号対談を再掲いたします。12月はご購読いただくことでヤンデルさんとの本対談記事に加え、今月公開予定の『Wednesday Style』特別編、藤村D・嬉野Dのひとり語りと、音声コンテンツ「腹を割って話すラジオ」をお楽しみいただけます。
※本記事は2019年11月号の記事と同じものです。お買い間違いの無いよう、お気を付けください!
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藤村さん対談の再掲はコチラ
それでは、ヤンデルさんとの対談をお楽しみください!
見たものにストーリーを乗せて話すと、聞き手にも情景が伝わっていく。
T木:
お待たせいたしました。第1部がずいぶん押しましたので、休憩というほどの休憩もありませんでしたが、これから第2部を始めさせていただきたいと思います。
もうほとんど見えているので、改めて呼び込む必要もなさそうですが、『水曜どうでしょう』ディレクターの嬉野雅道さんと、ヤンデル先生です!
会場:(拍手)
嬉野:
よろしくお願いします。
T木:
あら? ヤンデル先生は、ビールだけ持ってこられましたが、マイクも持ってきてください。
会場:(笑)
T木:
びっくりしましたね。嬉野さんは、第1部をお聞きになって、いかがでしたか?
嬉野:
いやぁ、藤村さんは受注体質だったんですね。
T木:
受注体質っていうのは、実はこのnoteのイベントでもよく出てくるワードではありますよね。
嬉野:
私だけかと思ってたら、藤村さんも受注体質なんだもんね。
T木:
「条件が決まっている中で、どう面白くするか」っていうのが一番燃えるとおっしゃってました。
ヤンデル先生:
実は僕もよく言います。自分は受注体質だって。でも、藤村さんが受注体質っていうのは、「ぎえっ!」って感じですね。「既にあるの素材をどう切り分けるか」みたいな、そういうニュアンス。
嬉野:
「ここにあるものでなんとかする」っていうのは、出発点として、私も非常に好きですね。
「狩りから始めて、どういう動物をとってきて、そこから何を作るのか?」っていうのを背負わされると嫌でしょうがないんです。「誰かが狩ってきた獲物を渡されて、これで一体何ができますか?」って言われると、いろいろと考えるんだけど。
ヤンデル先生:
生粋の料理人のような感じですね。
嬉野:
料理はしないんだけど、「その素材で何ができるかな」っていうのを考えるっていうのは好きですね。
ヤンデル先生:
いつも思うんですけど、おふたりとも見ているものに対する解像度がすごく高いですよね。
嬉野:
どういうことですか?
ヤンデル先生:
例えば、僕がおふたりの立場で、「新しい番組をやります」ってなった時に、大泉さんを抜擢する自信がないです。たぶんそこまで見抜けない。
嬉野:
あれはでも、見つけてきたのは、鈴井さんの元奥さんだから。
会場:(笑)
ヤンデル先生:
「この人がいいと思うよ!」って提案された時に、「じゃあ、彼でいきましょう!」っていう判断ができる自信がないんですよ。きっと、オロオロしちゃうだろうなって。
嬉野:
あー、なるほどね。
ヤンデル先生:
そこで番組を始めて、大泉さんの個性を見極めながら、どんどん番組の方向性を調整していくさまは、本当にお見事です。
ヤンデル先生:
何かを見て、良さを見つけることに関しては……大泉さんがミュージックステーションに出演されることを、ホームページの日記に書かれていたことがありました。あなた方が見ている光景がそのまま伝わってくるような文面で。「自分が見てるものを、これだけ人に伝わるように書けるんだ」って驚いたんです。
嬉野:
なるほど。そういうふうに「ここから見ればいいよ」っていうようなことを書いてたのが、あなたに刺さったんですかね。
ヤンデル先生:
そうですね。モノの見方を教えてもらったという感じです。
嬉野:
確かに、見方を教わると、いろんなことが面白くなってくるよね。
最近だと、ラグビーのワールドカップが開催されるにあたって、藤村さんにラグビーの見方っていうのを教えてもらったんですよ。彼、ラグビー部出身だから。
ヤンデル先生:
YouTubeでやってたやつですよね。なぜか他局の番組に合わせて(笑)。見ました見ました。
嬉野:
僕は、あれを事前に教えてもらったお陰でね、今回のラグビーワールドカップはすごく面白かったのよ。
今まではルールがわからず、何となくパスが回ると試合が展開してるんだろうなくらいに思ってたんだけど、彼に聞いてみたら「そうじゃないんだ」と。
ヤンデル先生:
はい、はい。
嬉野:
「ラグビーでパスを回すというのは、どんどん後退しているということなんだ」っていうわけ。自分よりも後ろにしかパスを出せないわけですから。だから、「パスっていうのは、フォワードがあんなに相手とぶつかりながらやっとの想いで前進させたのを、後退させる行為なんだ」と。
見るべきなのは、どれだけ前進したかっていうところなんだって教えてもらうとさ、相手に阻まれながらも選手が前進していくさまに感動するんだよ。
ヤンデル先生:
いやぁ、今改めて思いましたけど、おふたりとも「見たものにストーリーを乗せる」っていうのが、際立って上手いですね……。
ヤンデル先生:
藤村さんがそういう表現を使ってラグビーを解説されていることにも、嬉野さんがそれを受けて自分の感動が変化している様子をそのように語られることにもグッと来ます。YouTubeも見ましたし、藤村さんがラグビーについて書いたnoteのコラムも読みましたが、どれも本当に面白い。
なお、コラムを、ワールドカップの人気にあやかって再掲載したのも知ってます。「noteの購買者数をひとりでも増やすべ」みたいな感じで。
会場:(笑)
ヤンデル先生:
それも納得の面白さだから、全然いいんですけど。
T木:
初月無料で読んでいただけます。
(※現在、初月無料キャンペーンは終了しています)
ヤンデル先生:
今日はクーポンコードも配ってる。
T木:
後ろに置いてありますので、お帰りの際に是非!
会場:(笑)
ヤンデル先生:
よし、宣伝はこれくらいでいいね(笑)!
YouTubeでは、あなた方はラガーマンの気持ちを代弁するような見方をされていますね。熱意とか視点とか。
嬉野:
そうだね。もうさぁ、スコットランド戦とか見てると感動するんですよ。
嬉野:
前に何かで読んだことがあるんですよ。「感動するっていうのは、そこに自分を見るからだ」って。
ヤンデル先生:
あー、わかる、わかる、わかる。完全に他人ではないんですね。
嬉野:
そう。ラグビーなんかやったことないんだけども、あれは人生に近いわけですよ。阻まれても前に進むしかないっていうのを、何度も何度も続けるってことでしょう。
ヤンデル先生:
切ないなあ。
嬉野:
だから、そこにきっと、自分というものが見える瞬間があるんじゃないかと思うわけ。「これが生きるってことなんだ」っていうを、ラグビー観戦を通して知る時に感動するんです。
だから、やっぱり感動するスタート地点には、たぶん自分がいるんですよ。
ヤンデル先生:
はぁー。すごい。
嬉野:
そこに自分を見出せないものには感動できないっていうのが、人間なんじゃないかなと思うよね。
人間的には対極でありながら、気付けば同じ獲物を狙ってる両D陣。
ヤンデル先生:
おふたりとも「見たものにストーリーを乗せる」のが素晴らしく上手なんですけど、それぞれのスタンスの違いもまた面白くて。
「藤村さんがそう説明してたよ」っていうのを語る嬉野さんの言葉によって、藤村さん自身が一段とカッコよく見えます。それは、嬉野さんの素晴らしさでもあるんです。
嬉野:
なるほど。
ヤンデル先生:
お二方は、見方とか切り分け方が微妙に違うんですよね。藤村さんが現場の熱量をあたかも自分のことのように例えながら話すのを、嬉野さんは「こんなふうに彼が語ってて、素晴らしいと思ったよ」と言う。
それを両方から聞いていると、「自分ごと感」みたいなのが僕に迫ってきます。
嬉野:
聞いてる話が「自分ごと」になっていく。
ヤンデル先生:
そうなんです。「自分ごと」って超キーワードで、僕らの世界では、それをいかに練り込んでいくかみたいことがトピックスでもあります。やっぱり、医療っていうのは、他人事だとダメなので……。
嬉野:
藤村さんと僕は、もう23年も一緒にやってますけど、本当に真逆……といってもいいんじゃないですかね。人類の端と端くらい違うんじゃないかなって。その違いっていうことを前提としながら、ずっとやってきてますよね。
僕が選択しないような方法っていうのを、彼は苦もなく選択するわけでしょう。上司にウソをついて、ロケに出かけたりとかさ。
会場:(笑)
ヤンデル先生:
それは、HTB社屋内でする話ではないのでは(笑)。
嬉野:
でもさ、会社に黙って企画を進めたりするとさ、上司に対して「あれは彼らが暴走して、勝手にやったんです」っていう言い訳を与えることができるじゃない。彼はそういうふうにして、上司にウソをついてるわけよ。だから、むしろ裏でやる。
そういうのを見てるとさ、人類としては真逆にいるオレも「なるほど、ウソっていうのは大事なんだな」とか思うじゃないですか。
会場:(笑)
ヤンデル先生:
学びが。
嬉野:
そうやって、ウソをつく理由っていうのをもらうんですよ。やっぱり人間はさ、理由なくして行動はできないから。
そういう経験も含めて、人類の端と端にいる人間が、23年も一緒にやってきたことで得たものは大きいなって思うわけです。
ヤンデル先生:
嬉野さんは今、「理由」っていう言葉を使いましたけど、お互いが端と端だと言いながらも、おふたりで一緒に何かをする理由をちゃんと見極めてらっしゃいますね。
「自分の中での筋道が通るから」っていうんじゃなくて、「あいつが、あんなふうに言ってるってことは、きっとそうなんだ」っていう理由。それはカッコいいです。
嬉野:
あー、それは獲物がそこにいるってことだね。端と端にありながらも、「あいつを狩る」っていう共通の認識はある。
ヤンデル先生:
そうか、狩場における違う視野か。オレは獲物を正面から見てて、あいつは側面から見てるみたいなところはあるのかもしれませんね。
ヤンデル先生:
あと、今ちょっと思い出したんですけど、藤村さんがした話を嬉野さんが素晴らしいって話すパターンだけじゃなく、逆の展開もよくあって。
嬉野:
そうかい?
ヤンデル先生:
ある日、藤村さんがホームページに日記を書いたんです。いつもより抑えた筆致で「嬉野さんが突然、僕のところにやって来て、よくわからない話をはじめたけれども、いつの間にか聞き入ってしまって……」みたいな内容のことを。
嬉野:
あぁー、書いてましたね。
ヤンデル先生:
その日記を見ると、「嬉野さんは、一体どんな魅力的な話をしたんだろうか」ってワクワクするわけです。
また、他の日には、今度は藤村さんが、「深夜の喫茶店で、嬉野さんが、朝まで僕の言うことを、すごく真剣にうなずいて聞いてくれたんだ」みたいなことを書くわけですよ。
嬉野:
あったね。
ヤンデル先生:
どっちかが話して、どっちかが受け止めるという一方的な関係性ではなく、逆もあるんだなっていうのが、ホームページをずっと見てるとわかってくるんです。
そんな時に満を持して本が出版されたりすると、僕はもう全部買うわけです。「ふたりとも話が面白いってわかってるからな!」みたいな感じで。
会場:(笑)
嬉野:
僕と藤村さんはね、見つめてるものは同じような気がするんですよ。僕は、ずっと「どっかに行かなきゃいけない」と思ってて。
ヤンデル先生:
どっかに行かなきゃいけない?
嬉野:
そう。どっかに行かなきゃいけないと思ってるんです。どこだかはわからないんだけど。
ヤンデル先生:
行く先はどこだかわからない。
嬉野:
わからない。だけど行くところがあると思ってるんです。昔からそうなの。それがあるから、いまだに死なずに生きてるんだと思うわけ。
で、藤村さんが芝居を始めて、しばらくたった頃に言ったんですよ。「役者って、やっぱ演技じゃないと思うんだよね」って。それで、「じゃあ何なの?」って聞いたら、「舞台上での存在感だと思うんだよ」って言うわけです。
ヤンデル先生:
ふむ。
嬉野:
で、「存在感って、どうやったら得られるの?」って聞いたら、「わかんない」って言うんです。この時に、すごく自分と近しいものを覚えたわけ。
ヤンデル先生:
ああー。
嬉野:
つまりね、人類には自分が到達する答えっていうのが、前提として渡されていると思うんだ。答えはもう出てるってことです。
そこにどうやって辿り着くか、いつ辿り着くか、そこはどこなのかっていうのは、到達するまでわからないんじゃないかなって思うわけ。辿り着いた時に初めて、「ああ、ここだ」ってわかるんじゃないかなって。そういうことをね、藤村さんの話を聞いた時に思ったんですよ。「ひょっとしたら、人間はみんな何かしらのものを持って生きてるのかもしれない」って。
ヤンデル先生:
面白いなぁ。その場所は、ボヤっとも見えてないのに。
嬉野:
そうです。その場所っていうのは、今はまだないところかもしれない。今、ここにはHTBの新社屋があるけど、これから10年、20年、30年って時代は進んでいくわけじゃない。その途中で生まれる場所っていうのも、あるだろうからさ。
目的地のことしか考えていなかったヤンデル先生が、過程に興味を持ったわけ。
ヤンデル先生:
今の話を聞いていて、思い浮かんだ人がいました。文化人類学者の磯野真穂さんっていう方なんですけど。
嬉野:
女性ですか。
ヤンデル先生:
そうです。大体僕と同年代の方です。この間、『急に具合が悪くなる』(晶文社)っていう対談の本を出されました。
嬉野:
いいタイトルですね、それ(笑)。
ヤンデル先生:
ですよね(笑)。めちゃくちゃいい本なんです。この前、「令和最強の本」ってツイートしました。まだ令和元年ですけど。
会場:(笑)
ヤンデル先生:
その本の対談相手が、進行したガンを患う、同年代の女性で。乳ガンの再発を繰り返している方です。ふたりで、手紙のやりとりをしていくという本なんですけど。
具体的なあらすじについては、僕が余計なことを言わない方がいいと思いますのでお話しませんが、その中に目的地に関する概念があって。
嬉野:
目的地。
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