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【CAP】弱K強K中P中P↑【COM】

 前回から続いて『ヴァンパイアハンター』のノベライズの話。

 はなから『ハンター』のノベライズをやると決めていて、こちらの意見を聞いたのは単なるポーズだったというのは、まあ、スケジュールのことを考えれば許せなくもない。そもそものスケジュールに無理があるといえなくもないが、それもこの際だから目をつぶろう。
 ただ、『ハンター』だけで何パターンもの作品を出すというのなら、かかわる作家たちにひと通り希望を聞いて、誰がどのキャラを主人公にしてどんなものを書くのか、せめてそのへんを決めてから作業にかかるべきじゃないのか? もしこれで、
「あ、きみの担当はフォボスね
 などといわれたりしたら、何をどう書いていいか判らない。少なくとも夏に刊行なんて夢のまた夢だった。対戦に際して厳然としたキャラ差があるのと同じように、執筆に際してもキャラ差は存在するのである。それに、たとえばビクトルが主人公の小説とフェリシアが主人公の小説とではどちらが売れるか? と考えると、売上(=印税)の面でもキャラ差が生じるのは明々白々だった。
 なのに、すでに『ハンター』の新主人公格であるレイレイは押さえられてしまっているという。ぼくはそこに不公平さを感じた。確かに当時のぼくはデビューして一年にも満たない新人だったが、だからといって後回しにされるのは何か違う気がする。
「なので、嬉野さんにはもうひとりの主人公の――」
「じゃあぼくはモリガンで」
「いや、ドノーー」
モリガンで」
 レイレイが取られているならもはやモリガンを取るしかない。というか、『ハンター』の時点で登場している全キャラの中で、ぼくはモリガンがトップティア、一番人気だと思っていた。だったらモリガンを選ぶのは当然、だって強キャラなんだもん
 それにほら、ドノヴァンは……鬱々とした話にしかなりそうにない上に、レイレイと並ぶ二枚看板の片割れといいつつ、強くないというか、弱いというか……ねえ? 実際はどうなのか知らないけど、ぼくにとっては弱キャラにしか思えなかったし。
 とにかくぼくは「モリガンで!」を繰り返し、そのまま押し切った。
 ちなみに、『ハンター』でのぼくの持ちキャラがモリガンではなくサスカッチだということは、原稿が完成するまでいわなかった。

 そしてぼくは、スケジュールに間に合うようにちゃんと原稿を上げた。モリガンのほかにはデミトリがちらっと出てくるだけで、敵役にはデミトリの遠縁という設定のオリジナルキャラを登場させたが、それも結局、複数の作家がそれぞれのキャラを主人公にしてノベライズする、という企画の趣旨に合わせた結果である(あまりほかのプレイアブルキャラを出せない)。
 カバーイラストとモノクロイラストは、確かどちらも『ゲーメストワールド』誌上でおこなわれた『ハンター』イラストコンテストの応募者によるもので、一種の連動企画だったのだと思う。新創刊する文庫の一発目でなぜそんな冒険をしたのか判らないが、ぼくとしては初めてのノベライズをやりきったのであとのことはどうでもよかった。
 というか、この『ヴァンパイアハンター外伝 モリガン編』が発売される前の時点で、
「……あれ? ちょっとこのレーベルってヤバくない?
 とうすうす感じ始めていた。
 春から夏にかけては、とにかく少しでも早く原稿を上げることだけを考えていたため、ぼくも今後の展開について特に尋ねたりしなかったのだが、原稿アップ後にふと気になって、担当さんに聞いてみた。
「そういえば、創刊時のラインナップってどうなってるんです? ぼくのモリガンのやつに、あとはレイレイ編と、ほかには何が出るんですか?」
「いや、レイレイ編はもっと先だよ」
「……は?」
 ぼくが最初の打ち合わせをした時にはすでにレイレイ編は書き手が決まっていた、すなわちその作家さんはぼくより先に執筆に取りかかっていたはずだろうに、なぜぼくより刊行が遅いのか。
 ……いや待て、もともとスケジュールはキツかったし、ぼくより数日早く執筆にかかっていたとしても、それでも間に合わないということはふつうにあるだろう。仕方ない、これは仕方ないかもな、うん。
「じゃあほかのタイトルは?」
創刊時に出るのはあとは『ストⅡ』だけだね」
「え……? 創刊ラインナップが2冊……?」
 まったくもってやる気が感じられない。というか、偉い人たちは本気で文庫を展開していくつもりがあるのか? 聞けば、そもそも文庫部門には編集者がふたりしかいないという。そしてそのふたりとも、新声社が文庫を創刊するに当たって採用した人材で、つまりはゲームのことはよく知らないらしい(少なくとも『メスト』編集部の人たちのようなゲーム好きではない)。
 さらに、8月末に創刊第1弾として新刊2点を刊行したあとは、10月にゲームのノベライズではなくオリジナル小説を2点刊行、そしてその次は12月刊になるという。新しく船出したばかりのレーベルの毎月の刊行点数が2点というだけでも少ないのに、この文庫は隔月で2点ずつ――これでは書店で棚を確保することなどできっこない。
 文庫の創刊時には、多少は無理をしてでもとにかくたくさんの新刊をラインナップし、書店で平積み、面出しをしてもらって読者にアピールする――ぼくがデビューしたレーベルの編集長はそんなことをいっていたが、この文庫ではそれがまったくできていないし、その予定すらない。
 さらにもうひとつヤバいな、と感じたのは、印税が3回に分割されて支払われるという契約書を見た時だった。ぼくももう四半世紀以上作家業をしているが、たかだか100万にも満たない文庫の初版印税支払いを分割にする出版社に当たったのは、あとにも先にもここだけだった。だから、少なくとも文庫部門は、事業の幅を広げるために一応手を出してはみたけれど、さほど潤沢な予算があるわけでもないし、会社としてはそこまで重要視されてもいないんだろうな、ということが透けて見えてしまった。

 果たして、95年8月に創刊したゲーメストZ文庫は、1年ともたずに新刊が発売されなくなり、計7点の作品を世に送り出しただけに終わった。
 ちなみに、創刊時点ですでに「イラストはうたたねひろゆき!」と帯で予告されていたレイレイ編は、作家が執筆の途中でなぜだか書けなくなったらしい。
「じゃあそっちも」
 と、レイレイ主人公のやつもぼくがやることになって、初期『アトリエ』シリーズの桜瀬琥姫さんのイラストで95年の12月に刊行された。まあ、やりかけの仕事を残すようなことはなかったので、そういう意味ではよかったと思う。

 こっちは高っ!


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