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【CAP】バブルよのう【COM】

 先日、『カプコンファイティングコレクション』(以降『CFC』)が発売された。カプコンの2D対戦格闘ゲーム詰め合わせといったおもむきのあるソフトで、すでに先行して発売されていた『ストリートファイター30thアニバーサリーコレクション』と合わせると、同社の2D格ゲーはほぼほぼ網羅されることになる(『JOJO』とかはさすがに無理だったみたいだけど)。
 こうなると、第2弾として3D格ゲー詰め合わせも欲しくなるところだが、それはともかく、今回は『CFC』に収録されている全10タイトルのうちの半分を占める『ヴァンパイア』シリーズと新声社にまつわる昔話。

 実をいうと、初代の『ヴァンパイア』はほとんど遊んだことがない。とりあえず早朝から営業しているゲーセンに出かけ(当時あったのよ、本厚木には)、CPU戦でエンディングを観たくらいで離れてしまった。そもそも『ヴァンパイア』が稼働した1994年夏といえば、ADKの『GANGAN行進曲』、そしていわずと知れたSNKの『KOF94』が登場しており、ネオジオユーザーだったぼくは、ゲーセンに行く暇を惜しんでそれらのタイトルを自宅で遊んでいたのである。
 その翌年、続編の『ヴァンパイアハンター』がリリースされたわけだが、この頃ぼくは、

 このコンテストをきっかけとして、『ゲーメスト』で知られる新声社に出入りしていた。当時の新声社は、世の格ゲーバブルに乗って業績が上がっていたようで、『ゲーメスト』を月刊から隔週刊(厳密には月2回刊行)にしたり、『波動拳の謎』のような関連書籍を刊行したりと、かなり意欲的に事業の幅を広げているところだったとおぼしい。
 新声社からぼくに声がかかったのもその一環で、要するに、アーケードゲームのノベライズを主とする文庫を創刊するので、ぜひそこで原稿を書いてもらいたい、という話だった。

 そして、神田にあった編集部におもむいての最初の打ち合わせの日。
 いまさら説明するまでもないが、ぼくはSNKだのネオジオだのが大好きな人間なので、すぐさまその席上で、
「『餓狼3』のノベライズやりましょう! ギースギース! ギィスウゥゥゥゥ!
 と猛アピールしたのだが、
「あ、SNKはナシで」
 とあっさりバッサリ(理由は今もって不明)。しかしぼくはめげない。
「そっ、それじゃ……最近のぼくのお気に入り、サンソフトの『ギャラクシーファイト』でどうですか!? スぺオペですよ!」
 と食い下がってみた。がしかし、
「あれはムックもそんなに売れなかったから……」
 と、攻略ムックの売り上げを理由にこちらも却下されてしまった(これも事実かどうかはぼくには判らない)。
「じゃあ何ならいいんですか? というか、そもそもその文庫、創刊時期っていつぐらいなんですか?」
「夏だよ」
「え? そんな先? まだ1年以上もあるじゃないですか!」
「違う違う、今年の夏。8月末くらいかなあ」
「……え?」
 ちなみにこの時95年4月(だったと思う)。8月末に本屋さんに新刊を並べたいのなら、単純に考えて、最悪でも7月なかばくらいには原稿が完成していなければならない。当然、イラストをつけるのなら、完成した原稿を読んでから描くのでは間に合わないので、カラー優先でプロットを参考にしてどうにか描いてもらうしかない。ただでさえ8月はお盆があってスケジュールがタイトになりがちなのである。
 そこから逆算していくと、どう考えても、この場でノベライズするゲームタイトルを決定し、メーカー側に打診して許可をもらい、それを受けてプロット提出、それが通ったら原稿執筆開始――などとやっている暇はない。というか、今すぐ原稿を書き始めないと間に合わない可能性も出てくる。プロット段階でのチェックだけでなく、完成した原稿もメーカーのチェックを受けなければならないからだ。

 そこでぼくはふと気づいた。
 ……これはもしや、編集部のほうではすでにノベライズするタイトルを決定していて、メーカーの許可ももらっているのでは? ここでぼくに意見を聞いているのは単なるポーズなのではあるまいか?
 案の定、担当さんがぼくに説明し始めた。
「実は『ヴァンパイアハンター』を書いてもらいたいんだよね」
「はあ」
「あのゲームってキャラの個性が強いでしょ? だから、おのおのを主人公にして、○○編とか××編とかって、何作品も出せたらいいなって」
「はあ」
 やはりそういうことだったか、と思いはしたが、ぼくも『ヴァンパイア』シリーズは好きなので、ここは素直に受けることにした。
「それじゃぼく、中国モノが得意だし、『ハンター』の新キャラということで、レイレイ編を――」
「あ、レイレイ編はもう書く人が決まってるんだ」
「はあ!?」
 その時、ぼくの足元で怒りゲージがぎゅいーん! と急速に溜まっていくのが判った。
 以下、次回へ続く。

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