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スウィフトの入口~ガリヴァー旅行記・第四章「馬の国」


(ややネタバレ)
シェイクスピアが活躍したルネサンス以降、イギリス社会は大きく発展します。革命と共和制(1649~1660)を経て、他国より大きく先行して近代的な市民社会へと進んで行ったのです。

活動の自由を得た市民階級によって産業が発達し、イギリスは先進国への道を歩んで行きます。

そして18世紀に入ると新聞や雑誌が普及します。このことが「近代小説」を育み、大衆性の高いイギリス小説の下地が作られたのでした。

一般市民はそこに古典的な詩や難しい論文は求めていませんでした。分かりやすい散文がふさわしく、ここで「大衆小説」が生まれました。

内容も読者の好みに応じて様々なバラエティのものが書かれました。
中でも実話をもとに書かれたデフォーの「ロビンソン・クルーソー」(1720頃)は、読み易い航海日誌として人気を得ました。

また、同時期に書かれたスイフトの「ガリヴァーー旅行記」(1726)も広く読まれた作品です。

この「ガリヴァー旅行記」は、主に第一章「小人の国」と第二章「巨人の国」が我が国でも児童書として愛され続けています。

しかし、人間に対する憎悪と絶望が激し過ぎることが理由でしょうか、児童版ではほとんど紹介されていない章があります。

旅行記の第四章は「馬の国」という話です。

この国は馬が治めており、皆が平和な理想郷で暮らしています。

ここには馬に支配されている、「ヤフー」という野蛮な生物がいます。
彼らは同族同士で殺し合う、悪臭を放つ醜く野蛮な生き物です。すなわち「人間」のことなのです。

主人公のガリヴァーはヤフーに対して強い嫌悪を抱くようになります。
そして故郷に戻ってからは人を避け、飼い馬ばかりと過ごすようになります。

「ガリヴァーは今さら」という方も、この章から再読されてみると、別の観点から「寓話」を楽しめるかも知れません。


ジョナサン・スウィフト
(1667- 1745~アイルランド・作家、随筆家、詩人)

「ガリヴァー旅行記」の作者として有名。
諷刺作家として世界的に知られている。