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次世代サイエンスパークの展開

■はじめに

 コロナ禍の下、地方創生・都市政策等の新たな展開が問われており、また、昨今のDXの流れが反映して多様な政策が打ち出されています。Society 5.0の先行的な社会実装の場としての「スマートシティ」やそれをさらに進展させた「スーパーシティ」等です。
一方、従来より地域の産業競争力を高めるために工場誘致関連政策が行われており、工場とともに研究機関が重視されてきました。旧くは筑波研究学園都市そして関西研究学術都市(けいはんな)等がその代表ですが、並行して各地でリサーチパーク等が設営されてきました。
 新たなフェーズに入っている新都市、既存市街地再生等も含めてDXの視点とともに海外も意識したイノベーションを活性化させて国内外の知見を集める仕掛けとして「サイエンスパーク」の導入が有効だと思われます。


■都市・産業政策の研究開発機能の高次化

 地域間競争に勝つために、産業競争力の源泉は、「人材」とそれに付随する「技術」であることに基づいて、これまでに地域振興・産業振興策として多様な政策が打たれてきました。
 1980年代以降、高度技術工業集積地域開発促進法(テクノポリス法・1983年)、地域産業の高度化に寄与する特定事業の集積の促進に関する法律(頭脳立地法・1998年)、地方拠点都市地域の整備及び産業業務施設の再配置の促進に関する法律(地方拠点法・1992年)が法制化され、続いて、1997年に 地域産業集積活性化法( 2007年 企業立地促進法), 1999年に 新事業促進法 (2005年 新事業活動促進法 )等により「産業クラスターの創出」等が展開されました。
 この過程で1986年の民活法制定を背景にした「リサーチコア構想」において「神奈川サイエンスパーク」(KSP)等が認定され、大都市圏も含めて国家戦略特区が指定され、国際競争力を高めるプロジェクト(例えば、羽田空港近接エリアでの「キングスカイフロント構想」等)が提唱されました。
 全国各地でこのような趣旨で200件以上が「サイエンスシティ・サイエンスパーク・リサーチパーク・テクノポール」等*1と呼ばれているエリアが設定されました。例えば、国際的に知られている公的研究機関集積の「つくば研究学園都市」、民間ベースの「関西文化学術研究都市」(けいはんな)「京都リサーチパーク」、「湘南国際村」等、多様な立地施設、規模、形態等が見られます。その多くは国内の研究機関や関連施設等を誘致しており、一定の成果を挙げています。
 しかし、研究開発能力をさらに高めるためにも海外からの高次な研究機関や企業・人材を誘致することが有益です。国は海外へのアピールを喚起していますが、これまでは海外に向けての積極的な誘致活動はほとんど行っていません。
 一方海外でも多くの類似施設は多くあり、世界レベルで誘致合戦をしています。そのための多様な情報発信やサービス提供をおこなっている国際組織が「国際サイエンスパーク協会」です。
*1:必ずしも統一的な明確な定義はありませんが、ここでは官民の研究開発機関や大学が立地し、高度な産業・研究機能集積を目的としたエリアを「サイエンスパーク」と総称します。

■国際サイエンスパーク協会(ISPA)

 世界各地に存在するサイエンシティ・サイエンスパークをネットワークのする国際組織であるISPA(International Association of Science Parks and Areas of Innovation)は1984年に創設されました。2018年時点で76ヵ国、373地区の運営組織が加盟。国内では「京都リサーチパーク」が加盟しています。「けいはんな」も以前は加盟していましたがその後脱退しました。
本部はマラガ(スペイン)の「マラガサイエンスパーク」の一画のオフィスにあります。

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 毎年、世界の加盟都市で世界大会が開催され、加盟組織の表彰や多様な議論がされています。
 2013年にIAPSの本部を訪問した翌年の2014年の世界大会を視察しましたが、大規模な会場で多数の関係者が参加し、多くの分科会が設営されており充実した内容でした。さらに会議前後のおもてなしイベントや食事等も何とか参加者に注目を集めようとする意欲が分かるものでした。食事の際は各国の参加者と同席しましたが日本からの参加者ということで関心が高く話しかけられたものでした。
 優秀な研究者や優良な研究組織・企業を世界中から誘致する目的としては加盟組織はお互いにライバルですが、他のエリアと差別化するための「サイエンスパーク」の一層の認知度の向上や相互に勉強し合う面からは連携しています。この世界的な協働的な取組みが誘致に有効ですので、我が国も多くの組織が加盟してさらなる展開を図るべきだと思います。

 世界には多くの多様なサイエンスパークがありますが、ISPA加盟の中から、実際に訪問して、ヒアリングをした、いくつか事例を紹介したいと思います。紙面の制約から訪問組織の一部の概要をまとめました。他の事例や詳細については改めて、後日、取り上げたいと思います。

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■海外のサイエンスパーク

 海外には400以上の多様な形態のサイエンスパークがあります。
 例えば、有名なオランダの「フードバレー」はワーヘニング大学等を核に「フードバレー協会」が世界から食品関連の企業を誘致するためのプラットフォームを運営しています。施設は分散立地し、地域を限定していません。 協会の誘致担当者はPRや企業誘致の経験者が採用されています。
シンガポールのサイエンスパークは政府が主導し、アジアのR&Dの中心を目指して、アセンダス(政府系デべ)が開発運営しています。シンガポール国立大学等が中心となっていますが、研究者同士の交流等に力を入れており、他のどのエリアもマネジメント組織による運営が重要な役割を果たしています。

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<世界のサイエンスパーク事例>

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出所:平成25年度サイエンスシティの取組に関する効果的な海外情報発信方策のあり方に関する調査検討業務報告書(平成26年3月国土交通省 都市局 都市政策課)

■スマートシティからスーパーシティへ

 近年は企業誘致よりはDX対応の政策が重要視されているようです。
 サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)として、「狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)」に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱されたものです。https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/

 Society 5.0の先行的な社会実装の場が「スマートシティ」であり、これをさらに進展させたものが「スーパーシティ」です。
 エネルギーや交通、防災など、日本でもさまざまな分野で進めてきたスマートシティプロジェクトを内閣府地方創生チームではこれをさらに推し進め、IoTやAI、ビッグデータなどを活用した先進的サービスを実装する「スーパーシティ」構想として推進しています。(「スーパーシティ」の実現を推進する「スーパーシティ法案」(改正国家戦略特区法)が2020年5月27日に成立)。「スパーシティー構想」はこの国家戦略特区により実行されます。
 スーパーシティとは、AIやビッグデータなどの最新テクノロジーを活用し、社会の課題を解決する未来都市です。スーパーシティでは、都市OSを軸にして、地域住民に様々なサービスを提供し、住民福祉・利便向上を図ります。分野を横断的に連携するプラットフォームである「都市OS」とは、様々なデータを分野横断的に収集・整理するデータ連携基盤のことです。この仕組みにより、都市内、都市間でのサービス連携やデータ連携が円滑に進むことを目指しています。
 スーパーシティの具体像として内閣府は、以下の3つの要素を満たす「まるごと未来都市」の実現を目指すとしています。
①移動、物流、支払い、行政、医療・介護、教育、エネルギー・水、環境・ゴミ、防犯、防災・安全の10領域のうち少なくとも5領域以上をカバーし、生活全般にまたがること
②2030年頃に実現される未来社会での生活を加速実現すること
③住民が参画し、住民目線でより良い未来社会の実現がなされるようネットワークを最大限に利用すること

 スマートシティもスーパーシティーもIot活用による利便性・効率性の高い空間づくりには有用ですが、いずれも、最も大事な「都市の資産化」については触れていません。
 都市政策で最も重要なのは「将来に亘って持続的に国民が快適に、そして資産となる空間づくり」であり、IT技術の整備等はあくまでその手段・必要条件に過ぎません。

 これらの先駆者通産省のとしては坂村氏が提唱した「トロン電脳都市」構想がありましたね。「電脳住宅」も含めて、今話題になっているスマートシティやスーパーシティのコンセプトを包含していましたし、候補地であった千葉エリアは面白い空間になったと思います。

 返す返すもトロンが通産省の横やりが無く実現していたら今頃、マイクロソフトもなく日本がITを牛耳っていたはずですので残念でした。

■次世代サイta

エンスパークの展開の重要性

 アフターコロナの都市・国土像が模索されていますが地方創生のあり方についてはコロナ禍以t前から課題でした。インバウンドに過剰に依存しないとか人口増加を目標にしないとか様々な切り口があります。
 その中で国自体の研究開発能力の向上(人材、企業等)を図ることが重要であり、その実現の方策として「サイエンスパーク」の整備が有用だと思います。ISPAの定義にもあるように研究開発とともにイノベーション創発が重要です。
 従来型の工場団地への工場誘致型ではなく、また、単に研究機関に用地を処分するだけではないイノベーションを起こせる国際的なサイエンスパークマネジメントを含む方策が必要とされています。
 現在、ISPAに唯一加盟しているのは老舗の「京都リサーチパーク」だけですが多様な取り組みを続けています。世界最大級の「けいはんな」は複数の自治体の共同運営であり、土地処分はURが担っているためどうしても用地処分が主たる業務となり、その後の一元的・継続的なマネジメントには疎くなってしまっています。
 また、鳴り物入りでスタートした「湘南国際村」は三井不動産をしても運営が出来なくなり、手放してしまいました。大手のデベと言えども単に用地処分の感覚では世界の競争には勝てないということです。
 サイエンスパークは実は立地フリーです。もちろん空港等に近接していることは有用ですが国際的な情報交換はネットで十分ですし、国際会議などはそう頻繁にあるものではないため交通が多少不便でも問題はありません。
 大事なのはサイエンスパーク内の研究者間の密接・多様な交流です。研究者達は相互にライバル(特に同じ分野では)ですが会って話すことによりアイデアが触発されるなど刺激し合うことを求めています。
 したがって。パークの運営者はこの研究者間の自然な交流機会を創造し、勧誘することが重要です。また、当然、誘致活動も国際的に広く、多様に継続的に行うことが不可欠です。上述したISPAへの加盟、世界大会の主催そして日頃のきめ細かい営業活動が必要です。
 マレーシアのサイバージャヤでのヒアリング相手は誘致・広報担当であり、ヒアリングの翌朝には当該パークの売り込みのために米国に出向くとのことでした(営業先はマル秘とのことです)。また、オランダのフードバレー協会の広報担当者は前職でのPR活動や企業誘致実績、エリア内の研究者間のコミュニケーション能力を買われた人材でした。
 我が国ではどうしても土地処分のための税軽減や補助金等が主たる施策になるため、国際的な人材・企業の誘致合戦に参入すらできませんでした。
 言い換えるとこの点をにきちんと対応すれば誘致・運営可能と思われます。世界中の数百のパークがライバルであることを認識しつつ、また、適当なサイエンスパークを探している人材・企業も多くいることも認識して欲しいものです。残念ながら企業が進出しようとしてISPAにアクセスしても日本の状況は全く分かりませんので、小規模でも積極的に動けば十分交渉可能かと思います。
 自治体、大学、不動産業、地域金融等によるマネジメント・コンソーシアムの設立と国際的に活動できる広報・営業・マッチング能力等のある人材確保がポイントだと思います。
 また、サイエンスパーク自体の魅力・特徴を正確に表現・アピールすることは不可欠です。
 各地のスマートシティは地域の特性に応じた多様な形態がありますが、新規開発型(グリーンフィールド型)の新たに開発するものにおいては規模の大小に関係無く「次世代のサイエンスパークの展開」が可能であり、地方創生の大きな力になります。近年でも大都市圏や地方圏において一定規模の新規開発が行われましたが前年ながらこのコンプトを導入した案件はありません。先日鍬入れをした、裾野市の工場跡地で整備されるトヨタのスマートシティ(ウーブン・シティ)は壮大な実験都市であり、GIBが設計する等、面白い空間が出来ると思います。トヨタという世界的大企業ブランドもあり、富士山の麓と言うユニークな地域でもあるので世界中から研究者・企業を受け入れる次世代サイエンスシティとすればさらに意義が高まると思われます。
首都圏でも少なからず大規模開発可能エリアもありますのでこれに取り組まれることを期待します。

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