「住宅が資産になる日」へのシナリオ


■日本は「住宅が資産」ではない不思議な国

 日本の不動産の最大の問題は「住宅が資産では無い」ことです。数十年間、膨大なローンを返済した結果、その住宅は資産でも何でも無く、単に済むことが出来る器でしかありません。このような理不尽な事態に対して誰も本気でクレームを付けません。

 そもそも住宅ローンに担保設定とともに保証料を負担していますし、その保証は金融機関に対する保証ですので、デフォルトした際には保証会社から融資機関に保障されますが、債務者には生涯にわたり返済義務が付いて回ります。
 多くの国民は何となく住宅は資産だと思い、少なくとも土地があれば安心だと思ってきました。
 しかし、さすがにバブルの終焉後の長い景気停滞時期後の回復もリーマンショックで水をさされ、近年での空き家の増大等の顕在化等を背景に住宅は売れないと実感してきました。今日では、住宅は資産では無い、即ち、買った日の翌日から価格が下がりつづけて、ローン完済度になっても売れず、貸せずで、資産とは程遠いことが認識されてきました。相続した不動産が売れずに「負動産」と呼ばれるようにもなりました。
 我が国の住宅には資産としての価値が無いため「賃貸か持家か」の比較議論が常に話題となってきました。また、国民の主な購入目的は「資産形成」というよりは、「安心」(退職後は居住費不要で住み続けられる)でした。
 日本は総じて安全性、快適性、効率性、信頼性の高い社会ですが最も肝心な国民の資産であるべき住宅が資産では無いという不思議な国です。政府による民間や国民への関与を国防等に限定している米国でさえ、国民が資産としての住宅を保有することを国の責務と考えています。何故、日本は「資産価値のある住宅」を国民に供給することが国の責務ではなく無く、また、個人も関連企業もそのように考えないのでしょうか?
 下記の記載なども含めて「住宅が資産になる日(プラチナ出版)」にまとめましたので是非ご覧ください。


■今こそ、新規供給こそ必要です。

 需要減少や空き家増大の中、空き家の増加抑制のために「新規供給を制限して中古物件の流通化」が必要とされています。しかし、そもそも日本の「中古住宅」と呼ばれている住宅は単に旧い住宅というだけのもの(「中古の物件」と呼ぶべきです)であり、諸外国のような住宅マーケットを構成している「既存住宅」ではありません。インスペクションや手続きの透明化等による限られた中古の物件の流通促進は重要なことですが、抜本的な解決ではありません。また、リノベーション(素晴らしいリノベは多々ありますが、中古を買い叩いて新築もどきに装っているものが多いですね)や空き家対策を行政・業界が挙げて取り組んでいますが、本質的な資産化ではありません。
 要は古くなったから価値が無くなったではなく、元々、価値が無いのです。長年にわたって、作り続けた価値が無い住宅を流通させるのは基本的に無理があります。また、現状では大半の新築物件は、価値の無い中古・空き家になるだけの空き家予備軍に過ぎませんので、元を断たなければ意味がありません。新築を減らして中古の物件を利用する政策は一見良さそうですが、空き家が継続的に増大してきたのは供給数が過多であったからではなく、供給された住宅に資産価値がなかったためであったからですので、本来はこれから資産価値のある新築を供給することが必要です。

■住宅の資産化を目標にすべきです。

 リーマンショック後の景気後退も大分改善されてきて、再開発事業等も次々と竣工しています。ましたが、景気回復の割には豊かさを感じないのもまさに住宅が資産で無いことにも起因しています。
 住宅の資産化は単に住宅単体や個人の資産の問題ではなく、「都市・社会の資産」の問題でもあります。現在は分野別にバラバラの施策が講じられていますが、改めて、「住宅の資産化」を政策目標とした実現方策を講じることが喫緊の課題と言えます。住宅を語らずして、都市、国土、日本社会の将来像は語れないものです。
「住宅は資産で無い」が、必ず「住宅が資産となる日」、「適切な負担で資産となる住宅を取得することが出来る日」は来ます。手遅れ感はあるものの、十分間に合います。

■住宅市場の形成が必要です

 つくられた住宅を適切な維持管理により「いつでも売却・賃貸できる」状況になっている状態が「住宅市場」であり、住宅に資産価値があるから市場が形成されます。現在は中古の物件の集積はありますが、住宅市場ではありません。もちろん、都心部等の立地条件が優れている地域でのマンション等は一定の価格水準を維持していますし、取引もありますが、それは全体から見れば一部の状況です。
 超高齢社会の中で、今や住宅は終の棲家ではありません。とっくに「住宅双六」は変化し、多様な上りの図式となっています。高齢者夫婦あるいは一人暮らしは困難ですので、施設等に転居しようとしても売却による住替えはできません。かつては郊外の広い戸建住宅を売って都心部のマンションに住み替えること等がひとつの高齢期の住まい方としてありました。また、生活費の補てんや施設に移った後に戻ってくるために売却しないで住宅を担保に融資を受けるリバース・モーゲージ等も考えられます。
 転居等の必要がなくても、住宅ローンを数十年にわたり数千万円を返済してきたものが、全く売れない、価値が無い状況をどうして、素直に受け入れられるでしょうか。
手遅れにならないうちに「資産価値のある住宅供給による住宅市場の形成」が不可欠です。

■デザイン・マネジメントがポイントです

 例えば、エネルギーゼロ住宅(ZEH)等は社会的に重要・必要ですが、直接的に資産価値に反映しません。耐震性・断熱性・機密性等の機能・性能は住宅の資産価値の必要条件です。既存の住宅の多くはまだこれらの必要条件が十分具備されていないため、これらを充足すれば現行の物件とは差別化することは出来ます。とは言え、必要条件にすぎませんのでいくらカーボンニュートラルで気密性・断熱性が高いだけでは資産価値が高まるわけではありません。
 戦後は住宅難からの脱却のためにしばらくはとにかく大量供給を目指し、それが一段落した後にまずは住宅としての必要条件を早々に充足させる必要がありましたが、まだまだ、不十分です。本来はその上で、さらに地域に根付いた「将来に亘って定評を得られる」デザインの形成がポイントとなります。建築後には時代の変化による技術革新等による設備更新やりファームは適宜行うことが必要ですが、全体のデザイン(外観そして基本プラン)は変えることは出来ません。この変えることが出来ないことがデザインの重要性ですので、デザインが将来を見据えた普遍性を有していることが必要です。 
 米国では1929年の大恐慌以来、住宅の資産化を政策目標にし、業界団体も生産や価格の合理化を進めましたが、その前提は「定評を得られているクラシカルなデザイン」です。著名な建築家(例えば当時のフランクロイド・ライト)による住宅も長年の評価を得られてなければ資産として認められず、国の保険の対象外でした。
 そして、住宅・住環境をマネジメントすることが重要です。我が国は早々に田園都市やラドバーンの計画論は取り入れましたが、住宅地経営手法すなわち住環境のマネジメントは導入しませんでした。


■住宅が資産になる日

 今後、本腰を入れて住宅を資産とするには、都市・住宅政策面、住宅産業面、金融面、都市空間面、そして何より「国民の意識面」での改革が必要となります。
 一定の住宅需要(まだ、80万戸/年以上供給されています)がある間に関連業界や政府が多面的な取組みを実践して住宅の資産化を図ることが最重要課題です。
 残された時間は10年程度ですが、少しでも早く取り組むことにより「住宅が資産になる日」は必ず到来しますし、そうで無ければ国民の生活はいつまでも変わりません。


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