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カンヌライオンズ2021 Outdoor部門に見る「着飾らないクリエーティブ」

2021年6月21日~25日に渡り開催されたカンヌライオンズ2021。すべての部門の受賞作が発表され、様々な広告関連のメディアでも受賞作に関する議論が交わされています。

今回は数ある部門の中でもOutdoor Lionsの受賞作を見て、私が感じたことを簡単にまとめてみました。

7月5日、7日、9日、12日、14日のお昼12時~13時00分には、Clubhouseにてカンヌライオンズ受賞作について数人でディスカッションを実施していますので是非聴きに来てみてください。

Outdoor Lionsはその名の通り、屋外で実施された広告やプロモーションを対象とした部門です。2018年のグランプリである「Fearless Girl」のようなインスタレーションであったり、2020 / 2021のグランプリであるRENAULT(ルノー)の「VILLAGE ELECTRIQUE」のような社会実験的施策など、平面クリエーティブにとどまらない多種多様な作品が見られます。

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世の中のリアルな姿を映し出す「着飾らないクリエーティブ」が印象的

今年度のカンヌライオンズのグランプリ受賞作を見ると、多くの作品が社会的な課題を直接的に解決に導こうとする意識を持っている印象を受けました。Outdoor部門においてもその傾向は同じで、見栄えが華やかであったり、印象的なデザインの作品よりも、アウトプットに華やかさは無くとも世の中のリアルをありのまま描き、伝えるべきメッセージをまっすぐに伝えるクリエーティブが高く評価されています。

ゴールドを受賞したAlpargatasの「BACKSTAGE」シリーズは自社の代表ブランドである「havaianas」のビーチサンダルを訴求するため、ニューヨークのファッションウィークに合わせて掲出されたOOHです。ニューヨークとパリで開催されたファッションイベントのバッグステージを描き、華やかな衣装を扱うイベントの裏側では多くの人がおしゃれと実用性を兼ね備えた「havaianas」を愛用していることを伝えています。

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ファッションブランドのグラフィックにもかかわらず、自社の製品を美しく見せる加工は施しておらず、モデルがサンダルを着けている場面を徹底的にリアルに切り取った、嘘のないクリエーティブとなっています。生活者のメディアリテラシーが高まっている現代では、実際にその商品を使用しているか分からないタレントが商品の良さを語る広告よりも、「BACKSTAGE」のように現実以上に着飾らないクリエーティブのほうが好感を得られるのではないでしょうか。


同じくゴールドを受賞しているRED CROSS(赤十字社)の「Run. For. Life.」シリーズは、赤十字社が果たす役割をシンプルなグラフィックで表現したものです。

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多くの人々が自分の命を守るために危機から逃れる中、赤十字社が人々を救うべく危険に立ち向かっていく様を端的に表現しています。「赤十字社の人々をスーパーヒーローに例える」といったような現実から逸脱した表現は用いておらず、実際に起こりうるシーンを描いたものであるからこそ、赤十字社がいかに世の中に貢献しているかを想像することができます。


現実をほとんど脚色せずに描くという点は、グランプリを受賞したバーガーキングの「 The Moldy Whopper」も同様です。描かれているのは「人工防腐剤を使用していないワッパーが35日間かけて腐っていく」というシンプルな事象であり、表現上に嘘が一切ありません。実証実験系の企画では、PR向けに良い結果が出た部分や面白い部分だけを切り取ったように見える少し嘘っぽい企画がありますが、疑いようのない事実を示している点も本施策が評価されている理由の一つだと思います。

食品のグラフィック広告といえば、いかにシズルを表現し生活者の食欲をそそるかを追求するのが王道ですが、実際には肉眼で見ることが難しい誇張されたシズル表現も多く、そういった嘘を感じる表現に生活者はだんだんと魅力を感じなくなってくるのではないでしょうか。

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今回、Outdoor部門の3作品を例に挙げて「着飾らないクリエーティブ」について語りましたが、他部門についても同様の傾向が見られるのではないかと思います。嘘をつかないことは、広告クリエーティブの基本中の基本ではありますが、嘘ではなかったとしても商品や企業の魅力を現実以上のものとして描く場合は、「しっかりと笑いに落とし込む」といったストーリー上の工夫が必要なのではないでしょうか。

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