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2024年のうた (五月)

2024年のうた

五月

エマホイがひっそりひとりでうたった歌をひとりでひっそりと聴く

雨脚が強まり音も騒がしく蛙も鳴いて胸騒ぎする

どんよりとして肌寒い雨降りの日も沈む気分は沈みゆく

本を読むすべて忘れてしまうため何の役にも立たぬ抵抗

ちからなく腕をのばして指先で感じる紙の本の手ざわり

目の前に何もなかった頃のこと思いださせるまぶしい西日

エマリンどうか夢を諦めないできっと輝く星になれるよ

からっぽになった瞳に飛び込んでくる光と影をつかまえて

今年もクリスマスにはオーギーレンのあの物語を聞くだろう

できるなら自分の足で歩きたい美味しい空気を吸い込みたい

もっと楽しいことをいっぱい思いつくような毎日を生きたい

無事に縦糸が完成したので少しだけ横糸を入れました

いつの日かすっかり忘れてしまうだろうこんな五月の晴れの日も

瀬戸際に立たされている最中にも何の役にも立たぬことする

少しずつ言葉で掘り進めてゆけばいつかどこかに出られるはず

もう半ば死んでるように生きているうっすら透けて見えているかも

ぼんやりとしているうちに日は傾いてどっと疲れて眠くなる

生きようとする気はあれど生活をする能力はあきらかにない

滑らかな澄んだ流れが沸き立ちて際立つ音が飛沫をあげる

百年の時間をかけて朽ちてゆき黒く凍てつく大地にかえる

瀬戸際に立たされている最中にも何の役にも立たぬうた詠む

気がつけばどんよりとしている心にスワンズがすんなりしみいる

わたしならたぶんとこかに野ざらしで百の風にもなれないだろう

ぐずぐずになりこのまま溶けて跡形もなく消え去ってしまいそう

このまま進んでも引き戻されてもどちらにしても未来はくらい

進んでもこのままここに残ってもどちらにしても未来はくらい

目を閉じて顎を上げ腕の力をだらりと抜いて突っ立っている

まだ夏は立つ前なれどもうすでにすっかり春が夏めいている

ゆるやかにシャカシャカタンと鳴るタンバリンのリズムがゆがんでゆるむ

誰かひとりが鳴きだすとわれもわれもと合唱をはじめる蛙

両手の掌の手相を眺める姿勢で目をとじてエア読書

風の音がしているひゅうっと流されてゆくように飛んでいる蝶

わたしに見えてるものが見えぬ人とわたしに見えぬものを見る人

うっすらと開いた窓の隙間から時おり細く吹き込む五月

初夏の朝つぴつぴと鳴く四十雀まっすぐ胸に突き刺さるうた

若き芽がゆっくりとそのみをひらき青き若葉になろうとしてる

今は亡き人の面影を今は亡き人の映像の中に見る

吹く風にふきとばされてひからびた言葉はどこか遠いところに

どうすればいいのかぐらいはわかるけどそれがなかなかできずになやむ

毛先からしたたる汗が無防備な首筋をぽちりと刺してくる

ダイヤルをまわせどなにもきこえない遠くはなれたさみしい星で

憎しみに満ちた世界に飛び火してくすぶり続けるインティファーダ

こんな風にして死んでゆくよりもこんな風にして生きてゆきたい

火が消えてどこもかしこもすっかりわたしは冷たくなってしまった

朝がきてまた新しい一日が始まるような気配がしてる

もうなにも自分にできる気がしないこのかなしいほどの無力感

上のほうではシジュウカラ下のほうではカエルが鳴いているのです

ポリーニの重厚な響きに陰影つける軽やかさ柔らかさ

左の腕にほそおいながあい毛が生えていてふわふわ揺れている

雨粒の重みに耐えきれずくったりとうなだれている薔薇の花

また何かつまらないことばかりを考えてしまうわたしの頭

いつまでもこのやわらかな音の響きの中にひたっていたいのに

わたしの頭のなかの記憶のこぶは歳をとってもニューウェイヴ

みっちりと空をおおっていた雲がまばらになってあらわれる色

ぺしゃんこに押し潰されて薄っぺらな文字列となりし三十一字

ロケットギターとトレインギターに夢中になってた高校二年

無秩序な動きうみだす無秩序な秩序がそこで働いている

みのまわりあらゆるものがゆっくりと色あせてゆくわたしとともに

声と声とが重なって七つの異なるリズムの差異と反復

あなたが行きたいと思っている場所へわたしはあなたを連れてゆく

寝ているうちにはみ出してごろり寝返り布団のなかにもどる朝

呆気なくそこになんにも最初からなかったように消えてしまうよ

星はおち一息にのむ雷を笑いころげる祝祭の夜

立夏を過ぎてまた春先の肌寒さむちゃくちゃになる季節感

あきらかにどこの部品もがたがたでもうすぐきっと動かなくなる

いつかまた海に行こうよもう一度急な坂道くだった浜辺

口笛を吹いてちっとも動じないわたしに似てる見知らぬわたし

思ったとおりハローワークの求人も書類だけみて不採用

田植えの前の一面の田んぼの水面に響く蛙の啼き声

光と影が目に飛びこんでくるただそれだけでなんにも見えない

なすがままなされるがまま落ちてゆくどこまでも器官なき身体

嬉しいだとか楽しいだとかいうような感情を思い出したい

あまりむりしてわらおうとしなくていいよあわれにみえてしまうから

少し前なら天変地異の前兆と言われるようなことなれど

母の日に真っ赤な薔薇のなか一輪のピンクの薔薇が咲いている

母の日に真っ赤な薔薇が咲くなかに一輪だけの桃色の薔薇

なんならば道をぐるっと回り込みまたその道に戻る手もある

太陽フレアで磁気嵐が起こり気圧の谷で強風が吹く

奥ふかく体のなかでたくさんのわたしが叫び声を挙げてる

ちっぽけで深みもなにもありもせぬみそひともじのヴネメデのうた

雨音にかさなって集まり流れゆく雨水の音がきこえる

軒下で雨のしずくに濡れながらひっそりと咲いてる朧月

のっぺりと花のかたちをなくすほどしとどにふる花くたしの雨

夢も希望もないとこで言葉で穿つ絶望からの逃げる道

草臥れたメッツのキャップを被ってるトシコアキヨシの心意気

昨年の暑さにやられ葉が減ったがじゅまるの木に若葉がいでる

ちっとも生きていやしない世界のなかにまざりたいもっと生きたい

あなたのこともあなたのこともわからないわたしだけしかわからない

不思議なほどに涙もでない人のことならいくらでも泣けるのに

本当のことなんてもうどの窓を覗きこんでも見えてはこない

なにひとつまともな人のすることをできてないのにうたを詠む人

見るからにどうしようもない感じの見るからに詩人のような人

頭の中の整理整頓がまったくついてないけど心地よい

風に向かって唾を吐き風に倍にして返されるストローマン

ナンゼレスどこを切ってもエレポップ反時代的金太郎飴

水はった田んぼのうえを燕のように五月の風と泳ぎたい

水挿しのがじゅまるの枝のさきっちょに葉っぱの赤ちゃんが生まれた

なぜそれをいつも望んでいるときに望み通りにえられないのか

雨音だけがしずかに聞こえてくる夜の夜中にため息をつく

狭い路地ふきぬけてゆく風がびゅううと薔薇の花弁を散らしてく

いつもとは逆側を下にして寝るスマホ画面に背中を向けて

一つ二つ三つ四つ五つ六つ七つ八つ好きな甘味は?

アフリカ大陸のほぼ中央に古代の石が横たわっている

息継ぎがうまくできない顔をあげ朝の空気に飛び込んでゆく

どちらの道をえらんでも結局は真っ暗闇に迷いこむだけ

寝てる間にたらした涎の痕跡を左のそでに見つけました

今ここで起死回生の一手をと思えば思うほど手がつまる

正しくて間違っている来ては去る短く長いぼくらの時間

足のばすよりも折りまげて小さくまあるくなっていると落ちつく

ずっしりと重たいものをためこんで身動きとれぬものとなりけり

ぎこぎこと貝殻こすりあわせるような音させてないてる蛙

ただよいて夢にみるよな田園の緑のなかでせせらぎをきく

すべての希望が沈んだ海の底あなたのことを探しにゆくよ

くるくるとまわる地球のうえで寝転がっているうちに朝になる

ちょっとでも触れると痛みが走るのとはまた違うタイプの痛み

突然にぐんぐんのびるホヤの茎もうその先は行き止まりです

紅白の姫スイレンを眺めたり俗世の底でまごまごしたり

すみきった自由がほしいほんとうのもっと自由な自由がほしい

逃げさるために逃げている昼間も夜も気がふさぐランニンアウェイ

雨の夜なんとはなしにサンラをきいて液状の宇宙ただよう

気圧の谷の急斜面ころがり落ちて身心ともに低調子

かなしくて仕方ないのは朝から雨が降っていたせいだけじゃない

何匹も河童狸のようなものつくりだしてはうなだれる日日

まだここにいる人なのにもうここにいないみたいに見えなくなった

そうだねたぶんその通りなんだろうけど納得できぬとこがある

端端に滲みでてくるネオリベラルな空気感いたたまれない

何でかなピートワイリーの歌声にとてもキュンとしてしまう夜

音もなく吹く風の中まだ世界は眠っている閉じたままの目

心の中に魂の中に血の中に骨の中にいるわたし

光の中の明るさと目隠しされた暗闇をいったりきたり

消えてゆく二度と戻らぬことばたち書きとめておく術もないまま

泣くに泣けない胸の内しるかしらずや大粒の雨のふる宵

たくさんの亀裂が走り埋まらない断裂だらけの後半生

逆さまにしてみても時計の針は過去へ時間を巻き戻さない

べったりとうつ伏せに寝て床面と同化するまでうすくつぶれる

ダイソーで買ったサボテンに今年も白い小さな花が咲いたよ

体のなかにたまってく余分な熱を足の裏から逃がしてく

もう二度と戻ってこない今日のわたしがどこかにかくれ泣いている

いつからか眠りつづけてまだ終わる気配がしない夢を見ている

灼熱の砂に埋もれたくじらの谷を乾いた風が吹き抜ける

すっかり有用性のかけらもない腑抜けになって塞ぎ込んでる

さっとつかんだ見えない糸で宙吊りになってる蜘蛛を外に出す

目を閉じて見えてるものが見たままなのか頭の中で咀嚼する

生きてゆくそのことだけで手一杯わたしのうたはブルースですか

どこにも着地しないまま五月の空をふわりふわりとながされて

打ちのめされているせいでなかみが何もないような気がしてしまう

飛ぶように時間は過ぎて去ってゆくごっそりすべて空白にして

窓のすき間から風が吹きこむ昼の空気が夜の空気になる

頭が暑さにまだなれていないのでうまく言葉をとりだせない

繰り返すどこがどこだかわからなくなって起点を見失うまで

夢の中でお先真っ暗になり大きな声で泣き喚いていた

どこかに戻ってゆくこともどこかに進み出てゆくこともできない

空間を取り戻すのか死んでしまった場所を生き返らせるのか

ニムルドのかわいた土にうずもれるすべて見てきたラマスの記憶

トンネルを抜けてもそこはトンネルでただ闇だけが深まってゆく

本当はちっとも動けなくなっているのになにもいわないでいる

立ち上がる気もおきぬほど抜け落ちてしまったままの力への意志

自分でも自分のことがわからないとき誰がわたしをわかるのか

すっとしずかに蓮の台がやってくるのが見えるナムアミダブツ

音もなく光もなくなった世界でわたしは何をよめるだろう

日曜の折込チラシ見るようにテーブルに置いておいてくれる

塀のうえ這い蹲ってじっとしている黄斑亀虫の奇態

二枚重ねの座布団にめりこむくらい顔半分を押しつける

ひとつひとつの鐘の音が永遠になりまた一瞬の夢となる

どこまでもこの道をゆくだけずっと先ゆく人の背を追いかけて

背を丸め黙ったままで目を閉じて二つの像が重なってゆく

曇り空くすんだ色にかたまって時の流れもとまってみえる

詩のできの悪さもすべて現実のひどさからくるものとしておく

吹いてくる風が不気味に生あたたかくじっとりしてる皐月かな

何年も先のことに思えた未来も今では遥か遠い過去

根気よくいつまでもなくすずめの声がどこかかなしくきこえます

刀身が自分で自分をふりおろす籠釣瓶はよく斬れるなあ

自分のことばを自分で拒絶して染み込ませずに弾いてしまう

危険から身を守るため少しずつ殻を硬くし睡りにおちる

記憶の底に何かの影が沈んでることばにならぬもののまま

どこかで前に見たような角を曲がってまた元の場所へと戻る

静かな部屋にひとり座って言葉が浮かんでくるのを待っている

眠り込んでるわたしのうえに新しい朝がずどんと落ちてくる

魂の温度について考えるひんやりとした空気の中で

小さな不安がいくつもいくつも折り重なってて押し潰される

巡礼者たちの歩みはつづく終わりのある旅は旅といえない

悲しみがふかくて身動きとれない何がわたしにできるのでしょう

砂漠の夜の遥かかなたにいつまでも消えずに燃える火が見える

おぼろげにうつしだされた浮腫んだようなわたしの顔をみるわたし

三月が終わり四月が終わり五月が終わっても続く絶望

何もかも自分のほうに向けられた刃物のように聞こえてしまう

内部の暗いトンネルを湿った風が吹き抜けるむせびなく音

ゆっくりとゆっくり走る列車がカーヴを曲がって近づいている

蛋白質が蛋白質をきる世界すべてみな土へとかえる

来たれ夢の子よ与えよ指輪をさあ今こそ歌えこの腐食を

非対称な力を見せつける罪われわれの弱さが露呈する

偽物の神の手をかざしても心から流れる血は止まらない

すうっと線を引かれると散り散りになる鳥のよにハーフアチャンス

撃ちおとし波おこし危害がおよぶ神の恵みに両手を挙げる

気にしないそれについてはもう何も考えませんもう気にしない

タイヤが回り運ばれる雪の降る凍りついてる大地の上を

ベッドから出るのがとても難しいそれはわたしの手に負えぬこと

空と大地がまみえる場所でもはや太陽が輝くことはない

呼んでいる水の中から横たわり表情のいろ間近に見せて

日の当たる場所で手に銃をもつわたしと鏡の中に見える顔

命中し打ちのめされてなんとなく網にかかって取りこまれてく

松明を掲げて欲望の回廊を照らし導く黒い影

真夜中にまた正午になるこの部屋では一日に終わりはこない

撒いたもの刈り取って地面に顔つけてすっぽり色に包まれる

待ちながら落ちてゆくのを眺めてる冬の嵐に閉じ込められて

広く平らな砂漠に立つ幹のない巨大な二本の石の脚

くるくる回る薔薇色のドレスは散りて失うものも何もない

エマは夢へと向かい生き続けその名を高く銀幕に刻する

たくさんの灯りがついと消えてゆく絶望と希望のメッセージ

憧れも虚栄心もなく薔薇の花は花瓶に挿され朽ちてゆく

エイントザットナッシングなぜなにもいってくれないまるで悲劇だ

もし次に目覚める時は快癒してマンドラゴラになっているやも

石からは血が流れ出しくるくると旋回をしてワルツを踊る

描かれた祈りではないささやきの言葉が雪のように漂う

夢は夢見るものの夢を見るものだと法廷で彼女はいった

一日の終わりに吐き出したものこれが取り憑いていたものなのか

正直者の仮面をかぶり隠匿された星々を巡りゆく

よこしまな手でねじ曲げられる道しるべどこにもたどりつかぬ愛

望んだら星にこの手が届くかも月にもこの手は届くだろう

空腹で毒が盛られた皿のうえ古びた嘘も美味に感ずる

侵略日から騎士たちは巡回をする灰色の街の通りを

さあ手をとって髪に花飾りつけ瞳の奥の心を覗く

今はもう地下にもぐっているようだ愛する人はみな死んでいる

玄関先にいた猫と同じ邪悪な目をしてるデヴィルウォマン

すべてみな台無しになる叡智によって人々が泣き叫んでる

遅すぎたもはや銃では勝ち取れぬのだ楽園は打ち捨てられた

宙に浮いたままになるその暗く深い思考がわたしは好きです

氷が溶けてまた夏がくる冬があったことなどすぐに忘れる

退屈で死ぬことになる人類史上初めての人になります

絶望を照らすランプの灯りこの暗い時間に何をすべきか

散歩する町はずれまでぶらぶらと宙に浮かんで地に触れぬ足

摘めるだけ摘む薔薇の花もしそれができぬのならばここを逃げ出す

皮肉屋でないのは奇跡無邪気さがきっとあなたを失敗させる

そよ風になり蝋燭を吹き消し寒々とした部屋で名を呼ばん

世界から隠れて屋根の上にいる空に浮かんだステンドグラス

ひとつだけ目ざめた星が湖の白鳥のように泳いでいる

赤道の上をノマドが通過する世界一周中のキャラバン

夜になり火が燃やされて輪になって踊るジプシー歌うジプシー

空に穴穿ち飛びたつ暗赤色の鳥よ高みへ昇りゆけ

運命と宿命との約束で明日は昨日の亡霊となる

すべては語り尽くされているこれ以上会話する意味はあるのか

船乗りは悲しんでいるたまさかに危険をおかし座礁した船

ラッチが壊れぶらぶらと揺れてるドアに我が人生を重ねてる

エメラルド色の船がゆくまだ見ぬ千の物語を秘めた海

決して妥協はしないちゃんと自分の目で見るまでは信じたくない

夜空は赤く千の明かりがまばゆく灯り黄金は盗まれる

何か変化が起きているそれは苦い結末になる気がしている

燃える焔の中で歌うブルース愛と痛みのデイジーチェイン

有名な人になるつもりでいたが何かを間違えていたようだ

使い古されたものと死んでるものをごちゃ混ぜにして嘘と生きる

こっちまで来るなら一緒に行こうクリストファー通りで落ちあって

気が抜けてしまった。なんというかもう、ほとんど気が抜けてしまったようになっている。なにかをする気力ももうほとんどなく、なにかをしようという気もほとんど起こらない。そもそも、なにをどうしていいのかがもうさっぱりわからない。気が抜けてしまって、ほとんど腑抜けのような状態になっている。
五月、最初の頃はこの非常に悪い状況をどうにかしようと思って、なにか気力のようなものを振り絞って、まだそれなりに頑張れていたのだが、なかばあたりで限界がきてしまったのか、みるみるうちに気が抜けてしまった。そして、もう完全にしなしななのである。
それでも、何か詠んだり、何か書いたりはしている。もはや自分にはそれぐらいのことしかできないような気がしている。それに、こんなに気が抜けていて腑抜けのようになっているときにしか詠めないものや書けないようなものもあるような気がするのである。そう思うと、完全にしなしなになってしまっていても、せっかくだから何か詠んでおこうだとか何か書いておこうという気にはなる。そんなことよりも先にもっと何とかしなくてはならないことがあることは、自分でも重々承知しているつもりではいるのだが、そこのところまでするような気力はもうなくなってしまっているのだ。それで、何の役にも立たない、無駄なことばかりしている。詠んだり、書いたり。もはや、そんなことをしていられる場合ではないのだけど、なんだかとても申し訳ない気持ちになりつつも、詠んだり書いたりしている。毎度毎度のことながら、ぎりぎりの食費だけ実父にめぐんでもらって生きている。自分が食べる分ぐらいは自分でなんとかしたいとは思っているのだけれど。それくらいのことも、今のわたしにはできていない。
がたがたになってしまっている生活を立て直すために、普通にちゃんとしている人たちのように、何か普通に仕事をしながら、趣味程度に詠んだり書いたりしてゆければいいかなと思い、それなりに頑張って職探しをしてみたりもしたのだが、そんなに世間は甘いものではないようで、すごくぼんやりとしている詠んだり書いたりばかりしている中年男性なんていうものを採用するようなことろはどこにもなかったのである。普通に考えれば、こんなに(見るからに)使えなさそうな人間というのもそうそういるものではないのだろう。変に頑張って(分不相応な)普通のことをしようと思って無理をしたからなのか、ひどく丁寧な不採用のお知らせがくるたびに、思い切り落ち込んでしまうことにもなったというわけである。もはや自分にできることなど何もないのではないかと思って、うじうじと思い詰めていった結果、完全に気が抜けてしまった。
でも、そんな時にも自分を自分に繋ぎ止めていてくれるのは、やはり詠んだり書いたりすることでしかなく、もしこれがなかったら本当に自分はどうなってしまっていたんだろうと思わざるをえない。世間一般的には何もできることがない人かもしれないが、自分にはやはりこれぐらいしかできることはないのだと自分では思っているのである。だから、本当にばかげた考えかもしれないが、詠んだり書いたりをしてゆくことで、このがたがたになってしまっている生活をほんの少しでもよいので、なんとか好転させてゆきたいと思うようにもなってきている(これまで散々やっても鳴かず飛ばずだったのに、なんでそれでなんとかしようと思うようになるのか、自分でもかなり謎なのだけれど)。もう何年も一年三百六十五日一日も休むことなく読んだり書いたりする生活を続けている。ちっともこれで稼げてはいないけれども、自分にできる労働といったらこれぐらいのことしかないような気がする。やはり、自分には詠んだり書いたりすることぐらいしか頑張ってできることはないのである。
情けないことばかり書いてしまって、本当に情けない。今月わたしが詠んだうたの中にひとつでもお気に召すようなものがありましたでしょうか。まことに拙いうたばかりですが、少しでも楽しんでいただけたならば幸いです。ひとつも楽しめなかったという方には、次回こそは楽しんでいただけるようにがんばります。精進いたします。

P.S.
かなり気が抜けてしまっている状態ですが、原稿の依頼などいつでもお待ちしております。電子メールや各種ソーシャルネットワーキングサーヴィスなどを通じてのご連絡お待ちしております。ノートの有料記事の購入やサポートのシステムを使ってのダイレクトな応援なども随時お待ち申しております。詩歌作品の掲載などに関する問い合わせ等もお気軽にどうぞ。何卒よろしくお願い申し上げます。

付録


お読みいただきありがとうございます。いただいたサポートはひとまず生きるため(資料用の本代及び古本代を含む)に使わせていただきます。なにとぞよろしくお願いいたします。