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夏が来れば思い出す...

雨ばかり降っているから気づかなかった。いや、気づかないふりをしていたのかもしれない。
知らぬ間にやってきてた。

夏が!

夏が嫌いなわけではない。でも、好きでもない。
暑いのは本当勘弁だし、肌がジリジリ焼けるのも本当無理なんだけれども、それはもはや地球上に住む限り仕方ないと割り切ろう。

とにかく何が嫌って虫。
虫が容赦なく現れては私の領域を侵してくるのが堪らなく勘弁。
窓も開けてないのに家の中にそこそこ大きい虫がいた時は家に穴でも空いてんのかと思ってしまう。
夫婦2人とも虫が苦手なので、虫が姿を見せた時にはお祭り騒ぎだ。たとえ小さな虫でも、家中が緊迫感に包まれる。

哺乳類以外の動物は基本苦手でやらしてもろてるので、本当関わりたくない。
虫たちには聞こえないのをいい事に嫌いだ、気持ち悪いだなどと毎度喚いている。

そんな夏に特に主張が激しいのが、セミだ。

1週間の連休に入った私。
連休2日目久しぶりに我が家の猫の額ほどの庭のお手入れをと思い、人工芝に散乱する枯葉を軍手をはめた手で取っていく。汗を垂らしながら軍手に枯葉がくっつくのをイライラしながら取っているなかに、まるで私は枯葉ですと言いたげに蝉の片羽が綺麗な状態で落ちていた。

拾おうとしていた私は思わず変な声を出した。
羽だけでもちょっと無理だった。

セミというのはミーンミーンと大きい声で叫ぶ。なんであんなにも「私はここにいるよ」と青山テルマ的な主張をするのだろうか。

とにかくうるさい。
それだけならまぁ許す。彼らも生きている。みんなみんな生きているんだ。友達として見た事はないけれど。

何が嫌って、多分ちょっとセミに好かれてるっぽい。私。

昔、駅のホームを歩いていたら前からセミが突進してきた。掌に収まるほどのサイズのセミだけど突進という表現でいいくらい勢いが闘牛だった。森の中じゃなく近くに木なんてない、人のそこそこいる駅。そこそこ人がいるにも関わらず私に向かってきた。

向こうは避ける気さらさら無さそうだったのでプロボクサー並みに顔だけ避けた。
至近距離で見るセミは、こんなこと言うの申し訳ないけどおどろおどろしかった。

またある時、以前住んでいたアパートの横が公園だった。暑さがおさまり植物たちの成長も穏やかになり出した頃に年に一度だけ伐採に来る程度の雑に扱われた公園なので夏も終わりに近づくと公園は森と化す。
きっとあの草村の中は様々な虫の住処となっている。

そのアパートで初めて迎えた夏、ベランダに洗濯物を干していた時は見たことない大きい虫が家の中によくこんにちはしていた。それから、夏に関わらず冬でも外に洗濯物を干す事をやめた。ベランダを開けるのは虫の侵入を許すことになる。玄関でさえも、何かに追われている人のようにサッと開けてサッと入室し、虫の入る隙を与えないよう心がける日々だった。
海にかかった橋のイルミネーションやらの夜景が見えると謳われた庭付きのアパートだったけれどそれ以降庭に出る事もなく、むしろ庭すら森になりそうな雑草に溢れてしまいそうだった。(夫がたまに雑草抜いてくれたけど)

さて、森と化した公園には毎日セミの合唱が鳴り響き、日々アパートの廊下にはセミが何匹か転がってバタバタしている。こんなとこに迷い込むな、森へ帰れ。私は心の中で毒付いた。

そんなある日、森(本当は公園)の横を通ってアパートの自宅に着いて部屋に入った瞬間に見た。
自分が履いているパンツのポケット部分にセミが付いていた。なぜこの短い脚を木と間違える。

セミと目があった瞬間に暑さも忘れて絶叫した私。冷静に考えればまだ玄関なのだから一旦外に出て払えばいいものの、あまりの恐怖に反射的に手でセミを払い除けた。

まぁそしたら、セミは飛び立つ。
狭い家の中を我が物顔で飛んでいった。たぶんそんな顔してたと思う。

セミが家の中にいる。この状況が無理だという気持ちとなんとかしなければという思いがせめぎ合う。しかも、1LDKの狭い家だというのにしばらくどこに行ったか見つけられずセミは行方不明に。
さすがにセミとの同居はご勘弁。一晩だって共に過ごしたくはない。探さねばおちおち夕飯の支度もできない。

困り果てている間、愛犬はずっと吠えている。異常事態に気づいているようだった。愛犬が一点を見つめて吠えているので視線を追ってみるとそこにはセミが。セミに向かって吠えてくれていた。お陰で獲物を捉える事が出来た。

グッジョブと叫びながらよく見ると奴はソファにくっついていた。よくも、我が家のソファで堂々と寛ぐなんて図々しい。

とりあえずこのセミをどう外に持っていくか。
手で持つのは確実に無理だ。私のメンタルがもたない。私はない頭をフルに使った。
家中を見渡して使えそうなものを探す。棚の上にあったクッキーか何かが入っていた丸い缶とその辺の情報誌を手に取り私はソファに向かった。その姿はローマ帝国の剣と盾を持った兵士のようだ。私の手には缶と情報誌だが心は兵士と変わりない。
私は意を決し素早く缶をソファに当てて、奴の身動きを取れなくした。セミは飛び立つ事なく缶の中に大人しく収まっているようだ。
そしてソファと缶の間に情報誌をサッと滑り込ませた。少しでも隙間があればまた部屋を飛び回るかもしれないとビグビグしながらも缶に蓋をする事に成功。
そのまま玄関を出て森の近くで私は無事にセミを外の世界へ解き放った。


夏が来れば、セミが鳴くたびにあの出来事を思い出す。
思い出すだけでおぞましい。

鳴きたいか 鳴きたきゃ鳴きな 蝉時雨

セミよ鳴くがいい。いくらでも鳴け。

それは許すから私には金輪際近づかないでくれ。

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