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映画『メカバース:少年とロボット』レビュー

【『ガンヘッド』で『トップをねらえ!』で『パシフィック・リム』で『バンブルビー』なシンガポールのロボット映画】

 なぜか平日の午後に舞台挨拶付き上映があったシンガポールのロボット映画『メカバース :少年とロボット』は、CGを使ってロボットを描写しつつ描くのは地球の水資源を求めて攻めてきた木星蜥蜴、ではなく火星の後継者でもない火星に拠点を置く敵対勢力で、それを地球では戦闘メカやら何やらを駆使して撃退しようと戦っている、そのメカの中に時折ガンヘッドめいた形態にもなったりする二足歩行ロボットが混じっていては、主力級の戦いを繰り広げるところから幕を開ける。

 そんな部隊にあってエースとして活躍していたロボット乗りが、カイという主人公の少年の父親。けれども戦いの中で命を散らし、なおかつ避難したカイとその母親のうち母親も戦場へと出て行ってそのまま帰ってこなくなった。家で待つカイは優れたメカニックとしての腕を発揮しつつも、自身はロボット乗りになろうとしてそうした兵器を扱う部隊に志願。喘息持ちで体力も乏しい中、筆記試験では優秀な成績を収めたこと、そしておそらくは父親の存在が知られていたこともあって合格し、厳しい訓練に入ることになる。

 いわゆる『トップをねらえ!』なフォーマット。若本規夫ではなく森川智之が声を務める厳しい教官が出て来てブルァとは叫ばず時折語尾が妙に甲高くなるしゃべりをしては、マッチョだったり1番好きだったりガジェットおたくだったりする癖ありまくりな新入隊員たちを鍛え上げる。その中でも落ちこぼれのカイは体力がないためロボットにも重武装をつけられない。ひょろひょろのロボットとひょろひょろのパイロットの組み合わせで果たして実戦で働けるのか、といったあたりで挫折があってそれでもどうにか乗り越えた展開の先、カイにとって大きな見せ場がやってくる。それも訓練ではなく実戦として。

 『パシフィック・リム』的フォーマットでもある作品はレジェンダリーほどお金もない中でシンガポール人のリッチ・ホー監督が11年をかけて完成へとこぎつけたという作品だけあってロケの部分はありものを使っている感じがあるものの、ことロボットに関してはしっかりと造形されて実写の中に溶け込んでそれほどの違和感を覚えさせない。しっかりと重量感があってそれでいてスピード感もある絵を見せてくれる。そこはCGが頑張ったっていうか、これが今の水準ってことなんだろう。

 アクションにも迫力があって観ていてググッと引き込まれる。果たして板野一郎さんとかそうした人のメカ戦を観ているかは分からないけれど、リッチ・ホー監督はウルトラマンを見て育ちドラゴンボールを読み込みマクロスも観て来た人だけあってそうした自分が好きなものをちゃんと取り組んで見せようとしていつところがある。クライマックスで敵メカを相手にほとんど総力戦のようなものを見せるシーンもそれぞれが役割を持って動きしっかりと果たした上で決着を見せた先に感動を用意してあって、気持ちよく劇場を後にできる。

 そもそもがどうして火星からはるばる地球へと水を取りに来るのか、それよりは土星の氷でも持ってきた方が早いんじゃないかとか思わないでもないし、戦いそのものの決着がついた訳ではないので戦争はまだ続くだろうとも思わせる。そうした意味で世界観があって大きな物語の上に個別のストーリーが配置されているような緻密さはないけれど、その局面において親の意思を継いでロボットに乗り込み戦う少年の挫折と成長、そしてロボットとの友情を描くストーリーとしてまとまっていて、感動もできるから日本人でも安心、というより日本人なら安心の映画と言えるだろう。

 ガンヘッドと違って日本語喋るし、ってのは吹き替え版が作られ小野賢章さんと花江夏樹さんが主人公のカイと相棒のロボット、リトルドラゴンを演じているからストーリーもそのまま耳に入ってくる。何しろこの2023年11月15日開催の舞台挨拶付き上映がワールドプレミア。それを日本で日本語吹き替えで上映してエンディングに超ときめき宣伝部が起用され作曲をグラミー賞受賞者の宅見将典さんが担当しているとかどれだけ日本が好きなんだ。なおかつそのエンディングがそのままワールドワイドで展開されるというからどれだけ日本を意識しているんだ。そんな監督の心意気に応えたくなってくる。

 その監督、映画の途中にちょろちょろ出て来たカイの父親の知り合いにして戦場で戦うキャプテンを演じていた挑発の兄さんその人だったから驚いたというか、それだけ気持ちと体を映画に捧げて来た11年だったってことなんだろう。やはり応援せざるを得ない。ちなみに映画では本人の声は津田健次郎さん。自分の顔に津田健次郎さんの声が重なるのをスクリーンで観られるなんて監督して作り上げた意味もあったよね。(タニグチリウイチ)

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