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映画『コララインとボタンの魔女』ヘンリー・セリック監督&上杉忠弘インタビュー

【人形アニメとは思えない豊かな表情は20万通りの組み合わせ】

〈ヘンリー・セリック監督〉

 『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』や『ジャイアント・ピーチ』で、世界中に熱烈なファンを持つヘンリー・セリック監督の最新作『コララインとボタンの魔女3D』が、2010年2月19日から日本で公開。人形を少しづつ動かして撮影していく手法で作られた作品は、女の子が両親をさらった魔女と対決するストーリーを、人形アニメーションとは思えない豊かな表情となめらかな動きで描いて、観客を幻想的な世界へと引っ張り込む。

 「何といってもコララインという女の子が魅力的だった」

 作家のニール・ゲイマンから贈られた小説『コララインとボタンの魔女』を読んだ時に、セリック監督は「自分が好みそうなものを良く分かっていると感じた」そうだ。「どこにでもいる普通の女の子。すごい力も持っていないし、とてつもない天才という訳でもない。そんな彼女が、凶悪な存在と対決しなければいけなくなって見せる勇気と賢さが大好きだった」

 田舎町に父母と引っ越したコララインには友だちがおらず、両親も仕事ばかりでかまってくれない。退屈な毎日にすねていた時、新しい家で秘密の扉を発見し、中に入ってみるとそこには優しい父母がいて、サーカスやミュージカルも楽しめる世界があった。ずっといたいと思ったコララインだったが、それは悪い魔女の企みだった…。

 「じっとしていられなくて、とても野性的な女の子のエネルギーが、コララインというキャラクターには溢れている」。キャラクターだけ抜き出してみれば、いつも口をゆがませ、眉をひそめている無愛想な女の子。それが映像となって動き始めると、宮崎駿監督の描く『風の谷のナウシカ』のナウシカや『魔女の宅急便』のキキのように、強さとかわいらしさを持ったヒロインとして迫ってくる。

 すごいのは、そうした映像が基本的には人形のコマ撮りによって作られていることだ。最新のCG(コンピューターグラフィックス)技術なら作り出せないことはないビジュアル。だが「人が直接触れることで、作品に人の命を乗り移って、それが観客に伝わる」とセリック監督。くるくると変わるコララインの表情は、20万通り以上の組合せの中から、異なった形の口や目のパーツを組み合わせ、差し替えながら撮影していった。

 こうして出来上がった映画にセリック監督は「玩具が動いているなんて思わないで、キャラクターとして感情移入して見て欲しい」と訴える。「今までのものとは違った、イマジネーションが広がっていく世界に新鮮さを感じてもらえれば嬉しい。日本人にはきっと響くものがあると確信している」

 2020年3月7日に発表となるアカデミー賞の長編アニメーション部門にディズニーの『カールじいさんの空飛ぶ家』とともにノミネートされた。「巨人のゴリアテに向かうダビデの立場」と相手の大きさに身をすくめるが、結果としてダビデはゴリアテをうち破った。『コラライン』は果たして?

〈美術担当は上杉忠弘〉

 『コララインとボタンの魔女3D』のキャラクターや空間から漂うファッショナブルな雰囲気は、日本人イラストレーターの上杉忠弘氏によって生み出された。「最近のアニメの美術があまり好きではなかった」セリック監督が、知人から紹介された上杉氏のイラストを見て「女性が持つデリケートな部分と、パワフルな部分を感覚として分かっている」と感じ、コララインを描くのに最適と起用した。

 「すごく嬉しかった」と上杉氏。当初の依頼はキャラクターだけだったが、「原作の世界が消えていくシーンを読んで、パッと頭に浮かんだイメージを描いて送った」ところ、気に入られてより深く関わることになった。

 ファッション系に強いセツ・モードセミナーの出身だけに、欧米に通用するおしゃれな雰囲気のイラストはお手の物かと思いきや「もともとアニメや漫画が大好きで、アニメ制作会社に入ろうと思ったこともあった」という上杉氏。漫画家の谷口ジロー氏の下でアシスタントをしていた時代もあった。

 「大きな振り幅で、そのうちのファッションが仕事になったが、僕としてはアニメや漫画の方によりたくさんのポケットを持っている。今までは表現する場所がなかったが、それを監督が見つけて引っ張り出してくれた」

 多様性にあふれた漫画やアニメが存在する日本で育った体験が、作品にディズニー的な米国のデザインとも、伝統を持つ欧州の雰囲気とも違ったテイストを滲ませていて「それに欧米の人が引っかかったのかも」。7日に発表されたアニメ界のアカデミー賞と呼ばれるアニー賞で最優秀美術賞を受賞し、才能は世界に認められた。

 「『コラライン』がヒットしたら、日本でもこのルックスが欲しいと声をかけるところが出てくるはず」とセリック監督。かつてあこがれた日本のアニメ界に“凱旋”する日も遠くなさそうだ。(タニグチリウイチ)

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