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ぼくの旅

ある雨の日、僕は水の無いプールに飛び込んで頭に怪我をした。ガッんと音がして頭の中に血が溜まって手術した。


当然のことだが、プールに飛び込んだ瞬間から意識はない。だから空白だ。
どのくらい時間が経過したかはわからない。


小さいロボットが沢山出てきて、ワイワイガヤガヤと喋っていた。

「おい、ここの穴はおまえの担当だ、こっちの出っ張りはおまえだ。」
「なに、手順書がないだって?」
「俺は、手が足りないとさっき呼ばれたから、この現場は何かさえわかってないからな!」

「このブルドーザーはここだ。」
「アー! 穴がどんどん広がる。みんな手を貸してくれ。」
「俺のパンツに、間違って土砂をいれたのは誰だ。」
「明かりをくれ、真っ暗で何も見えない。」

現場はかなり混乱していて、小さいロボットが登ったり降りたり、掘ったり埋めたりしていた。
僕には音が全く聞こえない。

突然、銀色のピカピカ光った小さいロボットがクレーンでスマホのような物体を持ってきて、僕の頭の前あたりに置いた。

「これをこの場所に設置しょう。技術ロボットは集合!」

今度は、灰色の小さいロボットが10台やってきて、

「おい、配線には気をつけてくれ。ショートしないようにな!」
「土台がガタガタで物が置けないぞ!」
「いてて、俺の足を挟むな!」

今度は胸に赤十字のマークの小さいロボットが2台やってきて、

「怪我人はどこだ!足の上の物をとにかく早く上げろ!」
「足が壊れている。足の部品をくれ!」

しばらくワイワイガヤガヤが長い時間続き、

「やっと、設置完了!」

万歳万歳、拍手が聞こえた。

酒に酔ったような、揺れる舟でどこかに流されていくような、空中の風船にぶら下げられているような、そんな感じの中で、僕の考えていることが頭の前方のスマホ画面に瞬時に入力され、あまりの便利さに驚いていると、僕は空のはずのプールの水から這い上がった。
やたらと身体と頭が揺れていた。空のプールの水で溺れていたらしい。僕は再びよろけて、空のプールの水の中に落ちた。

今度は、大きな鉄人28号のようなロボットが僕を軽々と腕だけで抱えて、空のプールの水から引き出してくれた。

「ありがとう! あれ、小さいロボットたちは何処に行ったのかなぁ? 鉄人28号君」
「小さいロボットは、もう全台引き上げましたよ。任務完了だから。」
「どこにあなたを運びましょうか?」

僕は、どこか柔らかいところに運んでくれるように鉄人28号に頼んだ。
相変わらず僕の考えたことがスマホ画面に即座に入力されて、それが鉄人28号にすぐに伝わるので、僕は感動していた。
そして、やたらと柔らかい小さい風船のかたまりの中でもがきながら、泥酔した僕は、ふらふらと何時間も歩いたていた。
宇良ばあちゃんの顔が見え、にっこり笑った。
しばらく風船だらけの道を左に左に歩き続けた。

また小さいロボットが出てきて交通整理をしていて、左側の道に進むように促してくれた。その道はだんだんと上の方に向かい、水の無いプールの水の上にでた。

僕は再び鉄人28号から抱え上げられて、
大きく息をついて、パッと目を開けた。
宇良ばあちゃんの顔が見え、宇良ばあちゃんが顔を撫でてくれていた。

「良かったねぇ、おかえり」

ぼくの旅はこうして終わった。

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