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母との電話 ~終活と年齢詐称~

11日ぶりに母と電話した。

電話不精の私、、、というか人付き合い不精の私には普通なのだが、予ねてより、母がしこたま酔っ払ったとき限定で

「あんた!私の声を聞きたいな~とか思う時ないの!?」

「母ちゃん(私の母方祖母)が生きてた時は、私、毎日電話してたのよ?!なのに!あんた!私から電話しなかったら全然電話してこない!」

「もー、この子は娘じゃない!息子よ!」

と、親子水入らずで顔馴染みの居酒屋で呑んでいると説教された。
2階建ての階段から1番遠いところに居るのに、建物中に響き渡る甲高い声で吠えられ、周囲の客の注目を浴び、仲良しの店長は爆笑するというやり取りを何度か重ねていたので、それからは週1程度で電話するようにしていた。

地元を離れ、東京に出てきてからは、義務的だった電話もちょっとだけ私の寂しさの拠り所になっていた。


そんな母との電話を1週間と4日しなかっただけで、私はモヤモヤしていた。

たぶん、単に忘れてただけなら『しまった!また息子呼ばわりされる!』と思うだけだが(それもどうなのか)今回はちょっと事情が違った。

最後に電話をし、その直後送ったLINEのせいである。


2週間ほど前に遡る。
母はいつも突拍子のない自由奔放が座右の銘のような人だが、その時も銘に恥じぬ奔放さを繰り広げ


「私って今年、70歳じゃない?で、今月は誕生日でしょ?

 だからさー、記念にお墓買うことにしたのよー!!


突拍子もないし、理由も訳わかんないし、マジ何言ってんのこの人。

「いやねぇ、知り合いが『終活でお墓買った』って話をしててね~、私も蓄えがあるうちに終活しなきゃと思ってさー。終活よ、終活ぅ~」

終活をやたら連発しながら、所々『うちの子達は当てにならん』と毒をまぶし、お墓の購入がまるで新車のフェラーリや新築タワマンを買うような喜々としたノリでベラベラ喋る。

終活って、墓買うって、そんなポジティブイベントだったのか。

「70歳ってキリが良いし~、今年はほら、お墓を買うのに良い年だから、今度見に行くのよ~。次男くん(兄)に資料請求お願いしてたからさ~」

私の息子’sの誘拐犯にされかけた兄が、今度は母親の墓担当に任命されたらしい。哀れ、兄。

ちなみに私は3人兄弟で長男・次男・長女(私)なのだが、長男は遥か昔に『俺、長男やめるわ☆』と母に負けぬ奔放野郎で、それ以降、次男が長男に繰り上がった。兄弟は繰り上がれるらしい。


そして後日、いざ墓見学に行った母。

見学後にくれた電話で『ここならアンタ達もお参りに来やすいわよね!墓石も可愛かったのよ~!』とノリノリで死ぬ気満々。

「もうここにするわ!70万で永大供養が50年ですって!3人まで入れるらしいから、アンタ達2人、一緒に入れるわよ♪」

母独特の甲高い笑い声で暗に『はよ死んで、あの世で楽しも♪』と悪魔の誘いを受ける娘とその婿(殿)。

殿は『ママちゃん、死んでも寂しいからって早く呼ばんでよ!!』と毒を毒で制すが『えー、それは分かんないわよ~』と母は婿の毒なんぞ屁とも感じていない。

人生初のメモリアルパークデートを堪能し、興奮冷めやらぬ母は日曜の朝9時からテンションも声も甲高さMAXで、マシンガンの如く喋り倒し、1人満足して電話を切った。

そして私は、ふとある事に気付く。


「ママちゃん、今年、69歳だな」


最初に終活の電話を受けた時から、ずっと感じていた違和感。

『私、70歳なるから~』と連発されながら感じていた違和感。


「私と干支一緒だから、今年70歳には・・・成らんな」


母の言う『70歳』は数えで言えば、まぁそうなんだけど、あの人、数えで歳を数える人だったかしら。そんな習性もってなかった気がする。

電話を切る際に、これから長距離ドライブをすると言っていたので、とりあえずLINEで知らせることにした。


【ママちゃん今年69歳だよ。それとも何かね。数えで言ってる?】


母の謎の年齢詐称に殿と2人、頭をひねった。



それから11日の時間が経った。

母から連絡は来ない。

既読は付いたが、返事もない。


おや。

まさかの、ひねくれモードですか?


自由奔放で毒を巻き散らすのが仕事のような母は、謎のひねくれポイントを持っている。

いわゆる、面倒くさいタイプの人間なのである。


あのLINEでひねくれる要素があったのか分からないが、母のひねくれポイントも掴めてないので何も分からずのまま11日が経っていた。

愛ある娘のLINEが気に障ったのかしらん?と、恐る恐る電話した11日目。


「はいはーい!なにー?どしたー?」


私の考えすぎる性格は誰譲りなのか知りたいほど、母の能天気な声が響く。


私「うん。69歳と70歳でひねくれたのかと思いまして」
母「あー。今度誕生日きたら70歳でしょ?」
私「いや、違うから。今度誕生日きたら69歳だから」
母「えー、そうなのー?いいよ、もう1歳くらい(大笑い)。
  あ、今度の土曜日、お墓の契約しに行くのよ!」
私「69歳なのに?」
母「1歳くらいイイって!」

あんだけキリが良いとか記念だとか言ってたのはどうした。

お墓を買う大義名分が消え去ったのに、母はそんな事言ったかしら?くらいの勢いで墓を欲した。

「それよりさー、もうこの1週間体調悪くって~。ぎっくり腰みたいなのしちゃって大変だったのよ!」

地味な年齢詐称と墓を買う理由を『それより』で片付けられ、この1週間の病人具合の説明を延々受ける私。

「でも今度の土曜日はお墓の契約するし、あ、あとスマホも新しいのにしてくるわ!」

終活してる割にスマホを新機種に替える違和感。
まぁ壊れてたから仕方ないけど、なんだか違和感。

「もー、この携帯ショップの店員さんがダメダメでね~」

と、病人自慢から携帯ショップの店員のダメ出しに移り、母のマシンガンが止まらない。

そして相変わらず1人で喋り倒し満足すると

「じゃ、そういう事なので~。日曜には新しい電話で電話できるからねー」

と、2,000km離れてる私に新しいスマホだろうが何だろうが関係ないのに、さも関係あるかのように言い切って、母との11日ぶりの電話は終わった。



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