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「すもも太郎ズ」(「桃太郎」の二次創作:ファンタジー)

「なぁ、これどうしたんだい」
「え?だって、今日はすごい雨じゃない」
「そうだけど・・」
「お家で出来ることをしようと思って、作ったの。すもものコンフィチュール」
 キッチンの妻がにこやかに笑う。
 夫は戸惑いの表情を浮かべている。
「そうじゃない。僕が言っているのは、こっち」

 キィ、キィ、きゃあ、きゃあ。

 シンクの脇に小人が12人。身長2センチ。
「だって、生まれちゃったのよ。すももの種を取らなきゃいけないじゃない。割ったら出てきたの」
「12個割ったんだ」
「そうよ」
「・・・いや、どうすんのこれ」
 妻は呆れた表情で
「まぁぁ。育てるに決まってるわ、生まれちゃったんだもの」
「えっと・・・どうやって」
「ご飯はお砂糖よ。コンフィチュールなんですもの」
「はぁ・・・」
 30代の若夫婦。実子はなかった。昔風に言うならDINKS、ダブルインカムノーキッズ。北欧風のインテリアでまとめた洒落たマンションに12人の小人。
 夫は妻が平気でいるのが不思議でならない。だが妙なもので、相手が平気でいると自分が慌てるのがおかしい気がして、夫は妻の子育て(?)を見守ることにした。小人たちは妻によく懐いて聞き分けも良かった。

 暫くして。
「あなた。どうしましょう。この子たち鬼退治に行きたいって言うの」
「そう言われても」
「鬼、ねぇ・・・何処かにいないかしら」
 夫は小人の子育ては妻に任せっきりだったので、今回も任せることにした。どうせ、ぬいぐるみか紙粘土で鬼の人形をこさえて鬼退治ごっこでもさせるのだろう。

 数日後。
「う、うぅっ・・どうして急に・・・」
 夫は実家で悲嘆に暮れていた。母親が急死したのだ。同行した妻が優しく夫の背中を撫でる。
「あなた・・・」
 通夜と葬儀は慌ただしく過ぎた。夫の実家は資産家で、父親は既に亡く夫は一人っ子。夫は莫大な財産を引き継いだ。落ち着いた頃、夫は妻を労った。
「色々と手伝ってくれて有難う・・・僕の家族は君だけになってしまったよ。仲良くしていこうな・・・・」
「勿論よ。それに、ほら。可愛い子がたくさんいるじゃない。仲良く賑やかに暮らしましょうね」
 夫は大人しく頷く。まだ心の傷は癒えない。一人っ子の夫は母親に猫可愛がりされて育ったのだ。愛されるあまり、妻と結婚する時は苦労した。結婚後も夫婦への干渉がひどく、特になかなか子どもが出来ないことについて妻を責めていた。
(ひどいことも言われてたのに、お葬式では甲斐甲斐しく働いてくれたな。良い妻を持ったな・・・)
 真夜中ベッドで目が覚めた夫は隣を見た。だが、妻が居ない。
 リビングの方から気配がするので覗きに行った。
 妻が小人たちに角砂糖をあげている。それも普段は上げない輸入物の高級角砂糖。一人一人、指先で優しく頭を撫でて
「ご苦労様」「有り難う」「よくやったわね」
(・・・・・)
 夫は声を掛けられずに立ち尽くしていた。母は何故急死したのか。医者も首を捻っていた。嫌な想像が頭を過ぎる。
 そして、そっとベッドに戻った。気づかれないように。
 何しろあの小人たちは、妻の言うことは何でも聞くのだから・・・。



(コンフィチュールを煮たら、お話も一つ出来ました♪)
(ヨーグルトに入れると色がとっても綺麗です♪)

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