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「最後の審判員」(宮澤賢治「どんぐりと山猫」の二次創作:コメディ)

「ったく、出来レースだよなぁ」
 幹事の一人がボソッと呟いた。
「まぁそう言うな」
 別の幹事が慰める。

 株式会社DTYの本社では忘年会の余興として美人コンテストが開催される。昔社長や役員達が酒の肴に女子社員の品定めを始めたのがきっかけらしく、十年以上続いていたが、近年では
「現代の時勢を考えると如何なものか」
という意見から廃止へと傾いていた。

 ところが状況が一変する。
 昨年度の優勝者を会社のパンフレットに載せたところ、芸能事務所にスカウトされて人気女優の仲間入りを果たしたのだ。
「あれで社長の欲が出ちゃったんだよな」
「自分の娘を優勝させて芸能界入りって。そううまく行くかっての」
「あーめんどくせ。ええと、各部署から出場者が13人で、ジャッジは部署の責任者。こりゃ社長の娘の一人勝ちだろ」
「そこそこ美人なのは認めるけど、性格悪いんだよなぁ。審査員のリストは・・あ、あいつもか」
「誰」
「新しい部署の新しい責任者。山奥一郎。あの、もさっとした奴」
「あ〜〜〜・・・よく分かんない奴だよな。審査方法は13種類、各部署の責任者が提案する、と。山奥の審査方法は・・『当日ご説明します』か。まぁ何でもいいや」
「どーせ結果は分かってっからなぁ」

 こうして、世界一やる気のない幹事達の仕切りで忘年会当日を迎えた。
 全社員が結果を予想済み。社長の娘以外の12人の候補者は立場を考えてか、コンテストでのアピールも控えめだった。流石に水着審査は行われず、『電話応対の丁寧さ』『通勤用私服の着こなし』など無難な審査が続いた。
 そして最後、13番目の審査。
 審査員の山奥がスッと立ちマイクを握る。
「・・え〜・・・皆さんコンバンワ。最近海外の支店から帰ってきまして、ボクはこのコンテストは初めてなんですが・・・ええと。ボクなりに審査方法を考えてきました。ええ〜〜・・」
 風貌も話し方ももっさりした男である。
「何しろ我が社は『自然と社会と人に優しい』をモットーにした天然素材を扱う会社であります。であるからして〜・・・」
 ゴソゴソと何かを取り出して候補者全員に配った。

「ハイ、では皆さん。お配りしたのは我が部署が新開発した『お肌に優しい天然素材のメイク落とし』です。今すぐお使いいただきまして感想を頂きたいのと、皆様には是非とも天然素材としてコンテストを競っていただきたく・・・・」

 全員棄権した。

                              (了)

 

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