見出し画像

「月曜の朝」(原作:谷川俊太郎『朝のリレー』)

自転車で行き過ぎる女の人は30分後
入居者の排泄物を処理する
青年の背負ったリュックには
昼休みを一人で潰す為の本が入っている
坂道を登る学生の行き先は
学校という当てない未来
小型犬の散歩に出たマダムは
台所の隅で飲んだ酒瓶をゴミ捨て場に置く
朝の通勤路は
大人になった迷子たちが溢れている

見上げれば灰色の雲
陽光は空の彼方
明るい未来が欲しければ昇ってこいと
お日様は意地悪に嗤う
ロシアの少年は泣きながら銃を撃ち
希望の血飛沫が大地へ散る
朝は何処へ行ったのだろう

忘れた夢を布団から引き剥がし
泥水のような珈琲をはらわたに注ぎ
嘘八百な笑いを
嫌な上司と友人モドキへ向けて
陰口を飲み込みながら
今日を生きる
 
笑っていれば朝は来るのだと誰が言った
やむを得ない朝と
惰性の昼と
悪夢に溺れる夜
それでも何処かに
有耶無耶うやむやな希望を無駄に抱いている
 
どいつもこいつも嘘つきだ
涙と鼻水にまみれた顔で目覚め
洗って化粧して外へ這い出るのさ
「ヤァおはよう」
と上手な作り笑い
 
それでも何故・・・前へと歩くのだろう

泥濘ぬかるみに足を突っ込み
靴下に涙が滲みても
やむを得ない生き方でも
夢も希望もない夜が明けても
 
「どうせこれしきの人生さ」
と今日も苦笑い
それでも・・・朝は来る
 
君の朝と
僕の朝はどう違うのさ
スキップしてもすっ転んでも
とりあえずあるってみるか
くだらない独り言に付き合ってくれてアリガト
せめて君の良い夢を祈るオヤスミ
 
明日も僕は今日と同じように目覚め
あの交差点を歩く
自転車と行き違い
青年とすれ違う
もし君があの交差点を
明日の朝歩いていたら
黙ってニヤリと笑い
後ろ姿を見送ってやるよ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?