アサラトの中身を考える #1

アサラトの特色の一つに“自分好みに楽器をカスタマイズできる”というものがある。
簡単なところだと、球にペイントを施したり、紐を好きな色のロープに変えたりして世界に一つだけのアサラトを作り上げて楽しむことが可能である。
さらに上級者の中には、ひび割れやすい木の実を硬化塗料でコーティングし強度を増すとともに、音色をより上質で抜けのいい音にカスタムする人も多く見られる。
その他にも色々な方法でのカスタマイズが考えられるのだが、今回は非常に容易でありながら大きく音色を変えることができる、アサラトの中身(以下「シェイク材」と呼称する)の交換について掘り下げていきたい。

シェイク材を研究する意義

アサラトのシェイク材には実に多種多様な物質が用いられる。
激しくシェイクしても形を保てるだけの靭性があり、球に開けられた穴に通すことができるサイズであれば、どんなものでもシェイク材になり得ると言っても過言ではないだろう。
実際に私も日々、様々なものをアサラトに放り込んでは面白がっているのだが、その中で一度しっかりと各材質の特徴や、音色に影響する要因などをまとめる必要があると常々感じていた。
材質やサイズの違いによる音量や音質の変化を可視化することで、よりスムーズに理想とする音色にアクセスできるようになるのではないだろうか。
そう考え、さっそくシェイク材の調査研究に着手することにした。

色々な材質を比較検証をするにあたり、まずはシェイク材として最もポピュラーなものの一つである“ワイルーロの実”のデータを取り、それを基準として調査を進めていくことにする。
測定する内容としては、充填量の違いによる音圧の変化と、同時に音質に与える影響を調べていく。
まずは音圧の変化について見ていこう。

シェイク材の最適な充填量

今回は再現性を保つために個体差の少ない樹脂製のアサラト(球の直径5cm)を使用し、その中に対象であるワイルーロの実を1gから0.5gずつ増やして入れていき、音圧の変化を記録する。

実際に測定した結果をまとめたので参照していただきたい。

静かな屋内にて、騒音計より1mの距離を取り測定。
BPM=100のテンポで8小節演奏し、各充填量ごとの最大音圧を記録。
同じ計測を5回繰り返し、その平均値を折れ線グラフにした。

2.5~3g辺りまでは充填量に比例して順調に音圧も上昇しているが、それ以降はほぼ同程度の音圧で落ち着いていることが見て取れる。
この結果は、球体内でのシェイク材の可動域や、球の内壁に衝突する粒数のピークが3g前後である、ということが原因ではないかと推測される。
また、手元に10gしかワイルーロの実がなかったために、5gまでしか計測できなかったのだが、恐らくこれ以上充填量を増やしても、より音圧が上がることはないと予測できる。
そして必要以上にアサラトの総重量を上げてしまうことはプレイアビリティを低下させてしまう恐れもあるので、可能な範囲で軽量化することが一般的には良しとされている。
以上の点から、単純に音量の面だけで見れば(球の直径5cmのアサラトを用いる場合)3gがワイルーロの実の最も効率の良い充填量であると、ひとまずここに結論付けておくとともに、3g充填時を基準としてこの後の音質変化を見ていくことにする。

シェイク音の成分分析と倍音特性

次に音質の変化に着目していく。
音質の調査については人それぞれ聴覚に差があったり、個々人の音楽的嗜好によりバイアスがかかってしまう恐れがあるので、主観を捨て、ことさら客観的に評価をしなければならない。
そのために今回は一度演奏を録音し、それをスペクトラムアナライザ(FFTアナライザ)にかけ解析、考察していく。
下の図をご覧いただきたい。

オープンシェイク、クローズドシェイク、アクセント等の奏法をバランス良く
織り交ぜた演奏を録音し、アナライザにかけて得られた周波数スペクトル。
1kHz以下はノイズ成分が多く含まれるため割愛している。

これは前段に記した音圧測定の結果にて、最高効率を示した3g充填時の周波数解析画像である。
なお、3g以外の充填量でも同じように解析にかけてみたのだが、概ね似たような特性を示したので、今回は記載を省略する。
また後日、データベースのようなものを作る計画を立てているので、その際には全パターンのデータを公開できればと思う。
解析図に目を戻そう。
大別して2kHz周辺の小さな山と、7〜20kHzにかけての大きな山の2つの山が確認できる。
前者はクローズド(ミューテッド)シェイクで演奏した際に現れるピークで、充填量変化とともに僅かにピークの周波数帯が変化するが、いずれも凡そ2kHz前後に現れる。
後者はオープン、クローズ関係なく常時確認できるピークで、ここの形が主に“シェイク音の違い”として認識される部分であると言えるだろう。
今はサンプルが一種類だけなので、比較のしようがないが、今後調査する別のシェイク材との違いを比べる際はこの7kHz以降に現れるピークに特に注目して評価していきたい。

終わりに

少々見切り発車で始めてしまったシェイク材についての考察であるが、今後様々な材質を調査、比較していくことによってどんどん解像度が上がっていくと思われるので、次回以降の調査もぜひ参考にしていただきたい。
途中にも少し書いたが、将来的にはシェイク材の研究データや実際の音サンプルをまとめたデータベースのようなものを公開したいと考えているので、そちらも気長に待っていて頂けると幸いである。


それでは次回のレポートでお会いしましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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