アサラトの中身を考える #3

シェイク材に関する考察の第三回。
前回は直径2mmのガラス製ビーズを用いて調査を行ったが、今回はそれと径は同じだが材質が異なるシェイク材を選び、材質の違いによる差を比較し検証していきたい。

材質を選ぶ基準であるが、わかりやすく差異を確認できるように、物質としての密度(比重)がなるべく大きいものを試したいと考え、容易に手に入る密度の大きいものとして“鉛の玉”をチョイスすることにした。
鉛は様々な物質の中でも比較的密度が大きく、釣り用の重りやバラストとして球体に加工された形でよく使われているため、この実験に最適であると言える。
今回は工作機械の調整用として売られている、穴やスリットのない直径2mmの鉛玉を用意した。
なお鉛は生物にとって有毒な物質であり、誤飲などで体内に多量に取り込まれると最悪の場合は死に至ることもあるので、もし再現実験を行いたい方は取り扱いに十分に注意して行ってほしい。

音圧測定データと考察

先の二度の実験と同じく、今回も音圧の測定から始めていきたい。
用意した鉛玉は前回用いたガラスビーズと直径が同じ、すなわち体積も同じなので、ガラスビーズの時と充填率を同じくすることで対照実験が可能となる。
なお、前回使用したガラスビーズの密度がおよそ2.34g/cm³なのに対し、今回使う鉛はおよそ10.79g/cm³と実に約4.6倍にもなるので、計測結果にも大きな違いが現れると予測される。
この予測が正しいかどうか、さっそく実際のデータで確認していこう。

静かな屋内にて、騒音計より1mの距離を取り測定。
BPM=100のテンポで8小節演奏し、各充填率ごとの最大音圧を記録。
同じ計測を5回繰り返し、その平均値を折れ線グラフにした。

ワイルーロの実、ガラスビーズと比べ、図抜けて音圧が大きい事が一目でわかる。
これは単純に“密度が大きい=体積が同じなら質量が大きい”ということから、それにより運動エネルギーが増大するためと考えられる。
特に充填率が低い時の音圧の高さは特筆すべきであろう。
以前調べた二つの材質の場合、少ない充填量では実用的な音圧を稼ぐことが出来なかったが、鉛は十分使用に耐える音圧を少量の充填量で確保している。
ちなみに、充填率を低くした状態での演奏感としては、アサラトの(球体の)中で動く粒数は少ないにも関わらず、しっかりと遠心力や重みが感じられ、なんとも不思議な振り心地を味わうことができた。

さらに、もう一点着目したいところが、音圧の上昇カーブである。
ワイルーロの実もガラスビーズも“3.84%程度の充填率をリミットとして音圧の上昇がほぼ止まる”という法則を前回発見した。
鉛玉も一応のところは、この法則に当てはまっているとも言えるのだが、最小充填量(充填率1.28%)から最大音圧までの差が他の二つに比べ圧倒的に小さいのである。
これに関しては前述の通り、少量充填時でも十分な音圧を稼げ(過ぎ)ているが故に、最大音圧との差が出にくかったものと推測する。
従って、より少ない充填量から計測を始めれば他の二つのケースと同じような形状のグラフになると想定しており、早急に追加で計測を行い、結果を加筆しようと思うのでしばしの間お待ちいただきたい。


上記の想定を検証すべく、より少量を充填した場合の計測を行ったので、データと考察を加筆しておく。

前掲のグラフに、より少ない充填率(0.32%、0.64%、0.96%)の計測データを追加したもの。

ここまで充填量を少なくして、ようやく明確に音圧の差が見て取れるようになった。
ちなみに充填率0.32%とは、直径2mmの粒なら粒数にして50粒、ワイルーロの実に換算すると(体積で言えば)ほんの2、3粒しか充填していない計算になる。
いかに重量(比重)が音圧の大小に影響を与えているか、運動エネルギーの公式が目の前で証明された形である。
なお、実際にシェイク材として使用する場合は、音圧上昇が緩やかになりはじめる点、0.96%充填時を最も軽量かつ音圧の稼げる、効率的な充填量の目安としたい。

加えて余談であるが、充填率を0.64%以下にして演奏(シェイク)した場合、シェイク音にレインスティックのようなサスティーンが生じることがわかった。
恐らく、内壁に当たった鉛玉が底面に向かって落下する際、球体内の紐が干渉し、パラパラとまとまりなく落ちていくことにより、この現象が起きているのではないかと考えられる。
実用的かどうかはさておき、面白い音色ではあるので興味があれば実際に体験してみて欲しい。

周波数解析による音質の比較

次に音質面を比較していこう。
前回までと同じソフトで解析にかけ、音の構成を可視化した図を参照しながら考察していく。

オープンシェイク、クローズドシェイク、アクセント等の奏法をバランス良く
織り交ぜた演奏を録音し、アナライザにかけて得られた周波数スペクトル。
1kHz以下はノイズ成分が多く含まれるため割愛している。

三種類のスペクトル図の比較になるので、見やすいようにアウトラインのみの表示にしてある。
上図の中の白い線が鉛玉のデータになるのだが、ワイルーロの実(緑線)とガラスビーズ(赤線)のちょうど中間のようなシルエットが7kHz以降の高い周波数帯で見てとれる。
このような結果を示した理由としては、恐らく様々な要素が関係していると考えられ、なかなか明確な根拠を一言で言い表すことが現状では難しい。
同じ粒の大きさであるガラスビーズと異なる特性を示していることから“シェイク材の体積(直径)のみが音色に影響を与えているわけではない”ということだけはひとまず実証できたが、より詳細に因果関係の全貌を把握するためには様々な材質を用いた調査を今後も継続していかなければならないだろう。
一つ一つ対照実験を繰り返し、少しずつ音色に影響を与える要素について探り、解き明かしていきたい。

また、実際に演奏してみた感想としては、粒の小ささに起因する音のキレはガラスビーズに近い感覚なのだが、より粗い音というか、ザラっとしたフィーリングも同時に併せ持っているように感じた。
この粗く、無骨なサウンドからはワイルーロの実と似たニュアンスを感じとることができ、主観的な意見だけで言えば、二つのシェイク材の中間のようなスペクトル図になったことは納得の結果であると評しておく。

総合的なインプレッションと注意点

鉛玉をシェイク材として使った所感としては、とにかく個性的な音に仕上がるため、インパクトのあるキャラクターの音を欲しているプレイヤーには大変おすすめ出来るカスタマイズであると感じた。
加えて、カバサやマラカス等の南米系パーカッションに近いような印象も受けたので、ラテン音楽のアンサンブルにアサラトで参加する機会があれば取り入れてみると面白いかもしれない。
しかし、アタック音との音量バランスを取るのが難しい点や、シンプルにアサラトの重量が大きく増すので、プレイアビリティが低下しかねない点などデメリットも多く存在する、まさに諸刃の剣と言えよう。
さらに、重量が重い=運動エネルギーが大きいということは、アタック時にアサラト自体(球体)にかかる衝撃も増大するということなので、球により重い負荷がかかり破損しやすくなると考えられる。
そのため、アクシデントを排したいライブ演奏時や、絶対に破損してほしくない大切なアサラトに鉛玉を詰めることは避けたほうがよいだろう。
そして序文にも書いた通り、誤飲等により鉛が体内に入ってしまうと、最悪の場合、死に至るほどの毒性を示すため、小さなお子様やペットと一緒に暮らしている方は使用しないよう、繰り返し強く警告しておく。
こういった問題点を気にしないという方は一度実際に試してみて、この個性溢れるカスタマイズを存分に楽しんでいただきたいと思う。


それではまた次回のレポートでお会いしましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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