Chapter10「デリーへ!」
翌朝約束通り8時に運転手が部屋にやってきた。
「グッドモーニング。さあ行こう」
「ホテルで朝食出るんですよね?」
ボスの話では朝食はタダだ。
しかし、運転手は表情も変えずにこう言い放った。
「ここはまずいから外で食べよう」
僕らの抗議も実らず、朝食は運転手の買ってきたラッシーとカレーパンらしきものをワゴン車の中で食べるはめになった。 もちろん朝食代は自腹だ。
朝食後、僕らは運転手の車でジャイプールの観光名所を回った。
「ピンクシティー」と呼ばれるジャイプールの華やかな街並みも、車の窓から眺めるだけでは味気ない。
運転手は「ほら、あれが風の宮殿だ。降りて見学してきていいんだよ」と言ってくれたが、すでにデリーに帰ることを決めていた僕らは観光にはまったく興味を持てなかった。
しばらくした後、僕は思い切って運転手に言ってみた。
「こうやって車で連れまわされるだけの観光はつまらない。午後は僕らだけで行動して自分の足で歩いて見て回りたい」
運転手は困った。
そりゃそうだ。
もし、彼らが詐欺集団であるならば、彼の任務は僕らを監視して逃げ出さないように次の都市次の都市へと連れて行くことだ。
そして行く先々で最低ランクのホテルや交通機関を使わせ、その差額が彼らの儲けになる。
しかし、僕らは譲らなかった。
「夕方17時にこの駐車場で待ち合わせましょう。もしはぐれた時のためにあなたの連絡先かデリーの事務所の番号を教えてください」
そのひと言で安心したのか、運転手はしぶしぶながら別行動を了承してくれた。
「デリーは遠いからここに電話しなさい」
彼はそう言ってホテルクラシックの名刺を渡してくれたが、当然僕らは連絡する気はさらさらなかった。
念のため、ワゴン車のナンバーを田中君に控えておいてもらった。
「はぁ~!やっとあの運転手から解放されたな!」
田中君が叫ぶのも無理はない。
昨日、今日の経験で、ツアーで旅をするつまらなさと不自由さというものを嫌というほど実感した。アウトローな僕らにとってはやはり気ままなバックパッカーが向いているのだろう。
それはさておき、まずはデリー行きのチケットを買わなくてはならない。時間はあまりないのだ。
ジャイプール駅の鉄道予約オフィスで聞くと、一番早くデリーに帰れる手段はバスらしい。
僕らは12:00発の「Pink Line」と呼ばれるバスでデリーに戻った。
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