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パリで立ち寄るカフェ、ビストロについて

配信ドラマ『エミリー、パリへ行く』で、特に印象深いセリフがある。
「料理は皆のものよ」
開店前、レストランでの味見をお願いされた主人公のエミリーが「素人なので」と遠慮したところ、それを作った料理人が返したセリフだ。物語に登場する幾多の中でも、この言葉は心に残っている。

ある冬の夜だった。いつものように一人旅で、その時はパリにいた。観光を終えてホテル前の店で食事をとっていると、他の客から話しかけられた。「自撮りするの?」
店内の様子を撮ろうとスマホを構えていた時で、それを勘違いしたようだ。「俺がとってあげるよ。カメラを貸して」

そのまま一緒に写真を撮る流れになった。自分も彼も酒が入っていて良い感じだった。さらには店に来ている彼の友人たちとテーブルを共にする展開になった。会話だけではなく、やがてゲームへ。両手の指をグーの形に丸め、前に差し出す。掛け声と共に親指を立て、その数を言い当てる。日本で行われているのと同じなのが興味深かった。

時間が経つにつれて客の数も増え、すでに店内は満席。いつの間にか大きくなっていた音楽に合わせ、何人もの客が立ち上がり体を揺らした。誘われるようにして自分もその輪に加わる。グラスを持ちながら慣れないステップを踏み、隣の見知らぬゲストと顔を見合わせて笑う。テロリストがこの店を襲ったのは、まさにこんな盛り上がりを見せていた時だったのだろう。そう想像した。一年と少し前。2015年11月13日。ビストロやバー、サッカースタジアム、そしてコンサートホール。武装した過激派による、複数箇所への襲撃。

ここLa Belle Equipeもその中の一つ。金曜日で仕事を終えた夜の時間。満席の店内。誰もが週末の解放感に浸り、誕生パーティも開かれていた。夜9時36分、華やいだムードが一気に暗転。突然姿を現した、ライフルで武装したベルギー生まれの3人。彼らによる銃弾がこの店を襲う。無差別の乱射、21人が死亡。他の場所も含めると、3時間で130人もの市民が殺害された。

事件のわずか2日後には店の再開を決意した、、La Belle Equipeのオーナーはそう述懐している。多くの友人をその銃撃で亡くし、その中には最愛のパートナーも含まれる。彼の腕の中で、彼女はその生涯を終えた。事件の約四ヶ月後、再オープン。90人もの犠牲者を出したコンサートホール(バタクラン)を除けば、襲撃にあった6つの飲食店の中では最も遅い再開だった。

Le Petit Cambodge
Le Carillon
Café Bonne Bière
La Casa Nostra
Bataclan
Comptoir Voltaire
La Belle Equipe

パリを訪れる際は、なるべくそのいずれかに足を運ぶようにしている。コーヒー一杯だけの時もあれば、前菜から始めてメイン、デザートまで頼む時もある。あまりにもささやかすぎてサポートなどとは言えないが、少しでも敬意を表したい。

店内のようす
豚バラ肉のバーベキューソース
写真はブレても思い出は鮮明

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